舞妓と一杯の紅茶を~京都で舞妓してたらダンディなおじさまと事件に巻き込まれて~

日向 諒

第1話 ■すべての始まり(1)

 「ん~、蝶ネクタイが曲がってしまいますねえ」

 よく晴れた五月の午後三時、慶次郎は店の奥で身だしなみを整えていた。

鏡の中には、屈強なカーネル・サンダースが映っている。

「このネクタイはいけませんねえ……」

「……!!」

 慶次郎は表の方から叫び声が聞こえた気がした。

 店の外を覗いて、慶次郎は驚いた。

 祇園紅茶室の前の広い道で、黒紋付姿の芸妓がセーラー服の女の子を背中にかばって、金髪で学ランの不良三人組と、対峙していたのだ。

 慶次郎は慌てて店を出ると、芸妓が振り返った。

「紅乃お姉さん―――」

 思わず慶次郎は、芸妓の名前を呼んだ。セーラー服の女の子も、振り返った。

 髪の毛を二つくくりにして、垢ぬけない、地味目な顔の女の子。中学生らしい。呆然としているようで突っ立っている。

「ちっ、このババア、引っ込んでろよ」

紅乃の対峙している金髪の学ランの男子が、すごんだ。セーラー服の女子中学生に、不良少年三人が絡んでいたところに、芸妓が注意をしたのだ、ということが一目で分かる状態だった。

不良少年は、三人とも全員、こちらも中学生らしい線の細さがある。金髪で165㎝くらいの整った顔の少年がリーダーのようだ。他の二人は、髪の毛を茶色にしているくらいの外れ具合で、金髪少年にくっついているだけである。

「ババア……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る