遥かなる大戦のポストリュード

ねこたば

プロローグ

 子供の頃、居間に座る祖父の背中がとてつもなく怖かった。

 ガリガリで背はさほど高くなくて、おまけに猫背。落ち着いた話し方で怒鳴られた記憶などついぞない。怖がる要素は今思えば何一つ無かった。

 だけど、そんな祖父のことを何故だか僕は恐れ、避けていた。

 そのガリガリの風態が怖かったのか、或いはその醸し出す空気が原因だったのか……いずれにせよ、祖父は僕にとってなんとなく「怖い人」だった。

 祖父の時間の邪魔をしてはいけないと思っていたし、話しかけることも躊躇われた。

 お陰で祖父が亡くなってからの二十年、今では祖父を思い出すことは出来ない。

 どんな声音で、どんな話し方で、どんな表情で、どんな動作をしたのか……ただ覚えているのは真っ白な髪の毛と炬燵に入ったその背中だけ。

 きっと静かに厳しい人だったのだろうと思う。怒鳴るようなことはなくても、記憶にないところで怒られた経験があったのではないだろうか。

 ともかく、僕は祖父のことを怖い人だと思っていた。





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