第2話 死ぬのは嫌なので

「ジェリーン、皇帝陛下とお話をしてきた。全くをもって・・・・」


 お父様は監禁された私のところに来たかと思うといきなり人払いをしてそうおっしゃいましたわ。


 「お父様、一体何が起こっているのですの?」


 「すまない、ジェリーン、まさか殿下がああいうお方だとは。皇帝陛下もお嘆きだった。」


 ですから、一体何がでございましたの?

 私は一刻も早く身の潔白を証明してゾナー様のもとに行きたいのに!


 「よく聞けジェリーン、非常に残念だが今回の件はすでに宮廷に知れ渡りお前の嫉妬による殿下への謀反と言う事となった。」


 「なっ!?そんな、私は潔白ですわよ!!」


 眉間をもみながらお父様は頭を軽く振ってますわ。


 「それは知っている。今回の件はゾナー殿下とシャリナ姫の企てだ。」


 「!!?」


 なんなんですのそれ!?

 シャリナ様だけではなくゾナー様も関わっているですって!?


 「いいか、よく聞くんだジェリーン、事の真相はゾナー殿下が貧乳好きだったというとんでもない事情だったのだよ。殿下は残念ながらお前のような魅力的な女性はお好みでなく、陛下の命令で今次の婚約に渋々同意させられたのことだ。」


 「な、なんですってぇぇえええぇぇぇぇぇっ!!?」


 ちょっと待ってくださいまし、ゾナー様が貧乳好き?

 しかも私のような女はお好みでない??


 そんな馬鹿なっ!


 ゾナー様は私の豊満な胸を見ながら熱い溜息を吐かれるお方、頭の中ではこの胸をああしたり、こうしたり、あまつさえは私が気を失ってしまうようなことをお考えのはず!!

 そ、それが貧乳好きだった??


 「あ、ありえませんわ!!!」


 「しかし事実だ。ゾナー殿下は異母兄妹のシャリナ姫とこの婚約を破棄する方法を考え、ひと芝居したというわけだ。」


 「そ、そんなぁ・・・」


 私は椅子から崩れ落ち床に伏せて涙しますの。


 「ジェリーンよ、この件については陛下もお心痛め、わが一族の者とシャリナ姫を婚約させることを誓ってくださった。」


 はい?

 なんですのそれ??

 

 「わが一族は安泰となるが、お前の処罰は免れない。事がここまで公になり、ゾナー殿下も冗談では済まされないところまで来てしまった。」


 いえ、そんなことより私の潔白は?


 「ゾナー殿下は皇帝陛下よりその性根を叩き直すとのことでこれより軍隊で鍛えなおすこととなった。来るべき時までに将軍に厳しく鍛えられることとなるだろう。しかし、お前の処置には陛下よりジュリ教に出向き、表ざたは改心をすると言う事にせよとのことだ。でなければ謀反の張本人として処刑されてしまう。」


 「!!?」


 な、なんですてぇっ!?

 わ、私に出家せよとおっしゃるのですか!!?


 「お、お父様、それはあまりにもむごい仕打ち、何故私がジュリ教に出家しなければならないのですの!?」


 出家なんてさせられたら、それこそ女として終わりですわ!

 華やかな舞踏会も、燃えるよな恋のお話も全て禁じられ灰色の世界で只々女神様を敬う。

 私にそのような生活をしろとおっしゃるのですか!?


 「ジェリーンよ、これは決められたことだ。皇帝陛下のお情けで命だけは取らず、生きながらえることができるのだぞ。今なら皇帝陛下の口添えという形でジュリ教に行く事が出来る。お前が生き延びるすべはこれしかないのだぞ。」


 お父様は私に諭すかのようにおっしゃっていられますが、一族の者がシャリナ姫と婚約できると言う事の方が重要なご様子。

 私と言う娘のことなど遠の昔に忘れ去られているようですわ。


 落胆した私には生きるか死ぬかという二択しかありませんの。

 確かに死ぬのは嫌ですわ。

 まだ男性と熱い恋をちゃんとしたことも無く、そして女にさえならずこの命を散らせるなんて!

 今までこの容姿に鍛えるのにどれほど私が努力したことか!

 言い寄る貴族たちの子息を振り切り、ゾナー殿下に認めてもらうため、血の滲むような努力を積み重ねてきたのに!!


 床を見て涙する私にはただ頭をたれ、皇帝陛下がお決めになったジュリ教への出家しか道は残されてませんの。



 と、扉をたたく音がしますわ。

 こんな重要な話をしているさなか、無粋な。



 「失礼、ジュリ教より参りました神父のヨハネスです。」


 「おお、来られたか、どうぞ中へお入りくだされ!」


 何がうれしいのやら、私の失態もそのままにお父様は神父様を部屋に招き入れますの。


 「お話は・・・終わったようですね。ベスボン卿。そうしますとそちらの方がジェリーンさんですね?」


 神父様はそう言って私の方へ歩み寄ってきますの。

 今は涙で顔を上げられないというのに、なんでデリカシーの無いお方!

 

 下を向いて涙する私に神父様は膝をつきそっとハンカチを差し出しますの。

 なぜかそのハンカチから良い香りがふわっと。

 泣いている私にでもわかるそれに私は涙に崩れた顔を上げますの。

 そして神父様の顔を見ると・・・・




 ずっきゃーーーんっっ!!!




 な、なんですの、モロ好みですわ!!!


 済んだ瞳、甘いマスク、背丈だってかなりあるようで神父にしておくにはもったいないようなお方!

 

 「ジェリーンさん、お気持ちはお察しします。しかし、今はあなたの命が大切。どうか私の元へおいでください。」


 な、何それ!?

 プ、プロポーズですの!!??

 

 神父様はそっと私の頬に伝う涙を指で拭いにこやかな笑顔でこう言いますの。


 「美しいあなたに涙は似合わない、あなたの心の傷がいえるまで私がそばにおります。どうぞ涙を拭いて立ち上がってください。」


 私はぽ~っと神父様、ヨハネス様のお顔を見ますの。

 そして気付けば立ち上がり、ヨハネス様のハンカチを握りしめていますの。


 「お父様!私ヨハネス様の元へ参りますわ!!」


 「お、おお、ジェリーンよ、行ってくれるのだな?」


 「もちろんですわ!ではあとはよろしくお願いいたしますわ!!」


 そう言って私はヨハネス様の腕を取り、さっさと部屋を後にいたしますわ。

 何やら後ろでお父様が言っているようですが、どうでもいいですわ。


 

 これだけの上玉、今度こそ逃がしません事よ!!!

 

 

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