覚めない夢を永遠に

藤宮 結人

第1話 桜の木の下で告白は…テンプレですよね?



主観「雄子」




ソメイヨシノが満開に咲く4月5日。


この日は相模第三高校の入学式である。当然のように僕こと上総雄子かずさ ゆうこも出席する。

高校生活といえば、青春!! みたいなイメージがどうしても漫画やアニメを見ているとついてしまうので無理もないと思うが…個人的にはそれは奇跡に分類されるものだと割り切っている。


望むのは「平穏」。

とにかく面倒事に関わることなく3年間を送りたい。

そこそこ話せる人がいて、進路に費やせる時間があればそれでいい。


…………そう思っていた矢先、桜の木の下に隠れていたであろう人物が顔を見せた。



制服からすぐこの学校の女子、しかも僕と同じ新1年生だということはわかった。

けれどまさかその女子が…美少女だと誰が予想できただろうか。


一言でいうとお人形みたい、と言えばいいのか(人をお人形扱いしているみたいで良いのかどうか)悩むがこの時の頭の中に浮かんできたのがそれだった。


さらっと、した栗色の髪。

目鼻立ちも、とてもじゃないが日本人ばなれしている感じで瞳がスカイブルー。

女性を主張する所はブレザーを着ていても分かるくらいにはしっかりある。




生まれて初めて美少女にあった時…人はどうするか?



A、かたまる



こういう人が大半ではないでしょうか。

自分の目を疑ったり、これは夢をみているんだ、と落ち着かせる人が普通だ。

まして自分からナンパしに行くなんてもっての他。

…それができる人は勇者になったほうがいいです。



ちなみに僕も硬直していました。

それはそれは大層な仏像の如く、足が動きませんでした。


けれど運命の神様は見逃してくれませんでした。

なんと、その子が話しかけてきたではありませんか。


心臓がひどくドクドクしているのに、これじゃ対応も何もできない。



(ラッキーじゃないか! あわよくばLINEを交換して夜は何気ない会話を…て!? 僕は何を考えているんだ)



「…あの、1年B組のかずさ君をご存じですか?」



(…そうだ。冷静に、冷静になるんだ。彼女は今、見ず知らずの男子生徒に声をかけたんだ。…勇気を振り絞って。ならその声を親切に答えてあげるのが紳士の役割ではないだろうか)



「…あ、あの~。聞こえてますか?」



(…けしてこれをきっかけにこっ、コイビトになるだなんて微塵も考えていないぞ! あくまで紳士の役割として対応するだけだ)



「むぅ~。聞こえてなければ…えいっ!!」



「ひゃあああああああああああああ!! 何事?」



気付けば耳に吐息をかけられました。


……ありがとうございます。



ではない!! 



「あの、そういうのはやめてください。…特に耳は昔から弱いので」



「だって私の話ちっとも聞いてくれていなかったみたいだから」



…すいません。心の中ですごい葛藤があったんです。



「んで、僕に何か用ですか? …あっ! 体育館なら目の前にありますよ」



「実は人探しをしておりまして」



「うんうん」



「身長は私と同じくらいで」



「うんうん」



「顔が童顔で、よく女の子に間違われるほどかわいいらしいですけど…」



「うんうん、それから?」



「銀髪の短髪で、瞳がサファイアで…て? あれ!!」




うんうん、と頷こうと思ったけどやめて正解だった。


身長が推定165センチで。

顔が超が付くほど童顔で。

銀髪でしかも短髪。

そして目がサファイア? ということは青色である人物。



「…え~と、それは僕のことかな?」




…。


……。



この間が怖いのは気のせいでしょうか。

ただ自分が探し人だったと自白しただけでどうも緊張してしまう。

顔は赤く染まり、ふいに首を触ると早く脈打っていることがわかってしまう。

先程に期待しないと心に誓ったはずなのにこの有様。



もしかして…僕ってチョロイのでしょうか?




(う~ん、主観ではどうとでも言えるけど客観的に見るとどうなんだろう)



リア充と呼ばれる人はこの間を洒落た冗談でも言えるのだろうか。だとしたら僕は永遠に枠外だ。


1人で勝手に妄想して頭を悩ましている。

これは恋愛脳になっている証拠であり「ワンチャンある?」、と悶えていることを示す。




――――――――――


主観「キリュア」



突然になってしまい申し訳ありませんが自己紹介を始めたいと思います。

私の名前はキリュア・レーベルト。

プロフィールは下から…



身長 167センチ

体重 乙女の秘密です♡

血液型 知りません。(知らなくても困りません。…多分?)

特技 傷の手当と笑顔と白魔法。(この特技のおかげで『白衣の妖精』なんて呼ばれたこともある)

好きなもの 救世王ルノス・ファーヴァルト・ロスティーザ。

嫌いなもの 私とルノスの恋路を邪魔するもの。

マイブーム ルノスを探すこと。




…あ! これを見て何か足りないと思った方、挙手。

分かってると思うけど、体重がダメな時点で察してね。


…う、うん。本題に入るよ!

私が今、誰に向けて言っているのか不明な自己紹介をしたのは…

ズバリ!! この気持ちを誰かに共有したいからである。


考えてもみてよ!

もし前世で、愛の告白をして返事を待たずに勝手に失恋扱いしちゃった初恋が実は脈ありだったりしたらどう? …すっごく! ロマンチィックだよね。男の子イチコロだよね!

けどそんな都合の良いことなんかどうせない。でもでも、初恋の彼が現世にいるとわかっただけで運命感じちゃうよね。…運命感じちゃう女の子は拍手。


…え? 何でそんなことがわかるのかって?


それはもちろん「愛の力」で!! …と、言いたいけどこのコンパスのおかげです。


このコンパスは一度登録した相手を魂レベルで捜索することができるのです。

しかも性能はそれだけに留まらず、その相手の現在のプロフィールまで知ることも可能。


…つまりこれを持つと鬼に金棒というわけです。


私はこの魔法道具を持って「時空渡り(時を超えて移動すること。俗に言うタイムワープ)」をして相模原まで来ました。

コンパスから浮かんだ文字が…


神奈川県立相模第三高等学校に4月5日から在籍。


出席番号8番 カズサ・ユウコ 男



だったのでひとまずその高校に入学することにしました。

まぁ、戸籍とかがなかったからちょっと色々と手回しして半ば強引なんだけどね。


で、むかえた今日。勝負の日。

新品の制服に身を包み、リボンで気を引き締めた。

いつもは朝が弱いけれど、今日は登校時間の1時間くらい前に行った。

当然のように学校に着いたわけだけど…ふと体育館前の桜が気になった。


春風に花びらが舞ってる光景がとてつもない魅力を感じた。

そしてなぜだが分からないけど1枚1枚落ちていく度に、ルノスのように感じた。




……大切な人のために自分の気持ちに蓋をして、いつからか自分自身の「敵」になってしまった孤高の姿に。



「…こんな桜を見て、物語の主人公はヒロインと出会うのかな」



……えっ? 何!?


誰かが周囲に近づいたとたん、コンパスが注意警報を鳴らした。

その音は防犯ブザーのようで耳がキーンとなるくらいひどかった。

しかしすぐに止めようとはしない。なぜならこのコンパスは魔法道具だから。


だから探知機として最大限に利用した。

やがてピー、と音が止まった。



……目の前に「あの人」がいる。

そう思っただけで胸が温かくなった。

けれどなんか恥ずかしいので、下を向いたまま話してみた。


最初にどう話しかけていいのかさえ考えていなかったので、たじたじになっていたけどとにかく口実に探し人のことを聞いてみた。



けれど、うんともすんとも返してくれなかったのでうつむきながらも耳に息を吹きかけてみました。目の前にいる男の子は予想以上に反応してくれた。


…可愛い♡


…声もまだ子供のままで、背丈は私より少し小さいことがわかった。



…。


……へぇ? 銀髪!?



ちらっとだけ見えた彼の髪の毛。ほんの数秒だけだったけどはっきりと見えた。


その髪は銀色だった。



私は急いで顔を上げた。


…もしかして、本当に!!




「え~と、それって僕のことかな」




…。


……嘘。これは夢なんだろうか。

もしそうだとしたらタチの悪い夢になるが…。


ほっぺたをつねってみる。



…痛い。


……ということはこれは現実なんだ。



ロングではないにしろ銀髪。

ひと目では男子とはわからないほどの穏やかな顔つき。

瞳の色が純正のサファイア。


間違いない。


彼が…ルノスだ。


















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