第4話 作戦決行と分岐点

「おはようございます! 」

「おぉ、 おはよう。 朝早いんだね 」


 次の日の朝、 筒城は少し早めの起床をし

宿の外へと出ていた。

家周りを掃除していた綾葉の父親に挨拶をして

海辺へと歩いていく。 すると後ろから凄い勢いで少女が走ってきた。


「はーじめっ♪ 」


 タタタタッと駆け足で来た少女が後ろから筒城に飛びつく。

背的に丁度腰より少し上の辺りに顔が辺り、振り向くと少女が

笑顔で、 おはようと言ってきた。

その様子を近くで見ていた彼女の父親が、 娘に注意を促す。

分かったような分かっていないような返事をして小谷鳥は筒城から離れたが

それと同時に彼の手を引いて海の方へと引っ張っていった。

注意する間もなく、 海の方へと走って行った二人に対し小谷鳥の父親は

いつの間に仲良くなったんだという


「アハハハハハッ、 見た? お父さんの顔!久しぶりにあんなに困った顔見た! 」

「あのなぁ、 少しずつって言ったと思うけど?急に抱き着いてくるのはやりすぎたんじゃないのか? 」

「いいの、 いいの。 インパクトは最初が肝心なんだから! 」


 二人は海辺付近を歩きながら先程の出来事について話していた。

抱き着くことは予定外だったが、 あれも全て作戦のうちだった。

いきなり婚約というのは話すら冗談として聞いてもらえない可能性がある。

だとすればその前段階、 恋人という話を持ち掛ければいい。

そこで更に思いついたのが付き合う前の段階での準備、

相手の親に自分たちの仲の良さを見せてやればいいと

筒城は考えていた。


「よし! さっそく付き合ってる報告を・・・ 」

「待て待て待てーい、 早すぎるって言ってるの聞こえなかったのかな?! 」

「えー、 でもこういうのは早めにやっちゃったほうが良くない? 」

「良くないの!順序を踏んでくれ! 」

「はーい。 それで?次はどうするの? 」

「出来れば小谷鳥の・・・ 」

「綾葉! そう呼んで! 作戦が少しでも上手くいくようにしなきゃ! 」

「・・・分かったよ。 それで次は出来れば彩葉の母親に仲の良さを

見せておきたい 」

「おっけーい 」


 軽い返事だなと思いつつも快く了承してくれた彩葉と一緒に

一度宿へと戻ることにした。もちろん手を繋いで仲良くという

普通なら羨ましい状況での帰宅なのだが彼にとっては、いつ小谷鳥の

親に刺されやしないかヒヤヒヤしていた。


「たっだいまー!! 」


 綾葉の元気な返事と共に戸を開ける音が勢いよく響く。

その音に気付き、 おかえりと奥からやってきた彼女の母親が口に

手をあげ驚いていた。


「綾葉ったら随分とそちらのお兄さんと仲がいいのね 」

「えっへへーそうでしょ! 」


 笑顔で自分の母親に答える彼女の横で

筒城は引きつった笑顔で挨拶をする。

それもそうだろういくら作戦とは言えこんなに可愛い女の子が横にいる、

そして必要に腕を絡ませてくることにあたり、

先程から汗が止まらなかったのだ。


 —―この子はわざとやってるのか?! そういう性質なのか!?

とりあえず目的は達成したわけだし後は良い感じにここから・・・


 そう思っている時に限ってタイミングが悪い方向に重なってしまうもので、

彼女の父親ともばったり遭遇。

しかし気まずそうにそそくさとどこかへ行ってしまった。

何か悪いことをしているような申し訳ない気持ちにもなったが、

ここまで来ると後に引くわけにも行かずに最後までやり遂げようと

筒城は決意を頭の隅にとどめておいた。


「ごめんね、 主人ったらせっかくのお客さんの目の前なのに 」

「全然、 大丈夫ですよ!気にしてませんから 」

「そう言ってもらえると気が楽になるわ。 ところで・・・ 」


 そう言って、 筒城の腕にしがみついている綾葉を見ながら

彼女の母親はニヤニヤとしていた。


「あなた達随分と仲がいいのね~ 」

「そうですかね? 」

「その子、 滅多に人に懐くことが無いから 」

「そうなんですか! 全然知りませんでした! 」


 そんな他愛もない話を5分程度したくらいで、

朝食へと向かった。 そして食事を済ませて自身の部屋へと戻る。

もちろん、綾葉も一緒だ。


「綾葉って人に懐かないらしいね 」

「それはあの人たちの勘違いだよ。 こんな重要な問題抱えてるのに

懐く暇ないってば 」

「懐く暇とは。 まぁいい、 最初にしては良いんじゃないか? 」

「だよねだよね! よーし、 この調子で明日からもがんばるぞ!! 」


 軽く溜め息をつきながら彼女の明るい掛け声を聞いていたが、

不思議と元気が貰えて気が用にも思えた。


 そうして二人は最終日まで作戦を練りつつも、

彼女の両親の前で仲の良さをアピールしていった。






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