明日晴れたら

れおる

第1話 雨降る朝

「晴れてたら、さやかに告白しよう」

 そんな馬鹿げたことを、梅雨真っ只中に言っている俺。

 カーテンを、ジャーと開ける。

「だよな」

 ザーと、絶え間なく降っていた雨は、俺にチャンスをくれているのか、それとも、ただの神様の意地悪か。

「明日晴れたらいいな」

 というか、今日が始まったばっかりなのに、明日のことを考えている。

「今日で何回目だよ」

 ここ最近毎朝言っている気がする。

 なんと情けない……

 梅雨時期で、ただでさえ憂鬱なのに、こんなことを考えていてさらに、気分が落ちる。

 俺の名前は、小松なお 24歳。

顔は、ブサイクでもなく、イケメンでもない平均的な顔立ちの、ごく普通のサラリーマンだ。

 俺が告白する(仮)の、さやかとは、幼なじみで同じ会社に勤務している同僚だ。

 高校まで一緒で、大学も一緒のところに行こうとしたら、俺だけが落ちた。

 けど、成人して入社して直ぐに隣のデスクを見たら、彼女が立っていたのだ。

 もちろん、運命というものを感じた。

 だって俺は、ずっと彼女のことが、好きだったんだから。


 幼少期はよく

「やーいやーい!しなっしなの小松菜ー」

 と、馬鹿にされていたっけ……

 けど、いつも助けてくれたのは、さやかであった。

「ちがーう!!」

 と言いながら、俺のところまで全力で走ってきてくれて、肩で息をしながらいっつもこう言う。

「ちがーう!!コイツは、小松なおだ!!」

 この頃は、もうそろそろ心の限界が来ていて、ずっとドキドキしていた。

 もしかしたら、今日は殺されてしまうのではないのかという不安を幼くして感じていた。

 そして、こんないじめ確定の名前をつけた両親を毎日呪った。

 多分、その頃にさやかのことを好きになったのだろう。

 俺は、小心者で、決断力がなくて、あと、握力もない。

 この前だって、朝食にトーストと一緒に瓶詰めにされたイチゴジャムを食べようとして格闘して、やっと開いたと思ってスマホを見たら、遅刻ギリギリの時間たたき出していたこともあった。

 そうだよ。

 俺は、ありえないぐらいにダサい。

 好きな女に、好きだと言えないぐらい。

 神様、もしも俺に告白する勇気をくれるのなら……

『明日、晴れにしてください』

 そう思いながら、家を出る。

 梅雨のせいで、地面が泥になっていて、足場が悪い。

「うわぁ……」

 水たまりを踏まないように、つま先立ちで、歩く。

 上と下に意識を集中させていると

「うわぁ!」

 バランスを崩して、勢いよく足を下ろしてしまい、スーツにドロが跳ねる。

「最悪……」

 だが、着替えている時間なんてないのでそのままバス停まで行く。


「やっと着いた……」

 靴下が、ベチャッとしているが、まぁいいや。

 エレベーターに乗り込むと、クーラーが効いていて心地よい。

 扉が開くと、いつもと何ら変わらない、殺風景なデスクが広がっている。

 俺が勤めている部署は、柄に似合わず営業で、色んなところを行ったり来たりしている。

「おーい、小松」

 デスクに着いた瞬間、上司に声をかけられる。

「え、あ、はい。なんでしょうか?」

 慌てて、デスクに急ぐ。

「え、あ、はい。じゃねーだろ、お前最近の成績どれくらいか知ってるか?」

 成績……あー。どうでもいいやつか。

「そうですね。下から数えた方が早い感じですかね。」

「おいおい、どうでも良さそうに言うなよ」

 いやいや。どうでもいいんだよ。

「すいません。今月で取り返します。」

「今月って、もう1週間で終わるって知ってたか?」と、馬鹿にしてくる。

 あーあ……

 どうでもいいんだよな。

 成績とか、給料とか、対人関係とか。

 俺はただ、さやかと付き合いたいからこうやって会社にいるんだから。

 なんてこと言えない。

「はい。すいません。頑張っていきたいと思います。」

「まぁ、頑張れよ」と、言って手を振られ、自分のデスクに戻る。

 あーあ、楽しくないな。

「今日も朝から、災難だったね」

 そう言ってきたのは、俺が好きなさやかだった。

「まぁな……こんな俺だから」

 しゃーないだろ、と言ってみせる。

 別に、さやかの前だけではカッコつけたいとか、そう言う考えはない。

「こんな俺って……まぁね、いいと思うけどさ」

 ちなみに、さやかは、営業の中で1番の成績を持ってる。

 彼女に勝てるものなんて、何も無いんだなと、つくづく感じる。

「あのさ、楽しい?」

「え……」

 楽しい?なんで、彼女はこんなこと言ってるんだろう。

 分かってるはずなのに。

「多分ね、なおは、この仕事好きじゃないだと思うんだよね」

「うん……」

 確かに、そうか。

 さやかは、一生懸命に自分の仕事をやって、今の仕事があるんだから。

 普通に考えたら、失礼だよな。

 近くに、こんなにやる気ないダラダラな、同僚がいて、しかも、そいつとおんなじ給料もらえてさ……

「そうだよな。ごめん」

「そうだよなって……別にね!いいんだよ!なおのやりたいようにできれば」

 彼女は、こうやって俺を甘やかしてくる。

 昔からそうだった。

 何をしても近くにいてくれて、どんなに俺が嫌そうでも、無理矢理でも友達との、輪に入れようと頑張ってくれる。

 俺のために頑張ってくれてるんだよなって考えると、ずっとこのままがいいと、欲張って反抗してみたくなる。

 うわっ…俺ってキモいんだな。

 さやかを自分のものにしたい欲が多すぎるから……。

 俺は、情けないやつだ。

 俺ってどうすればいいんだよ。

 どうやったら、彼女を、さやかを手に入れれるんだよ……。

 どうすりゃ俺は……変われるんだよ。

 仕事も、まともに手が着きそうにないし、そもそも、なんでこの仕事をやっているのかが分からなくなる。

なにか、変わらないとダメなんだ。

そして、俺は資料の入ったバックをもって、

昨日アポイントメントをとった、所まで行くため、会社を出た。






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