第二話 ミキシング・ジェンダー
ここは同胞団の中継基地とは名ばかりで、ただの資材置き場というのが実態だった。大抵は建築資材で、水や食料の備蓄はさほどではないということだった。それでも百二十人からなる人員をまかなっているのだ。それだけでも相当な規模だということが知れる。
切り立った崖に囲まれた谷のどん詰まり、確かに身を隠すには十分だ。大きなコンテナが山積みとなり、崖の側面に段を作っていた。そこに見窄らしい鉄の階段があって、建物のほとんどがプレハブハウスだった。トイレも仮説でそこかしこに無造作に置かれている。
急ごしらえというよりは無秩序に積み上げられた結果のようだった。
ルシルは同胞団は全部がテラリス憎しでリスタルで徹底抗戦するものだと思い込んでいた。だからこうして基地に留まって戦争が終わるのを待っている連中がいることに驚いていた。
「全員が武力闘争を望んでいるんじゃないのね……」
ふとキィンのことを思う。彼女はどれほどテラリスを憎んでいたのだろうか。もはやそれを聞くことも出来ない。
とっぷりと夜が沈み、リコットたちがウォール・バンガーの中で休む中、ルシルはキィンのことを考えながら、ゴンドラのあった最後尾に来ていた。
キィン、生きていればいいんだけど……。
「ここにいらっしゃいましたの?」
そんなルシルにクロアが声をかける。
「まだ寝てなかったの?」
「いよいよ明日ですもの、ちょっと眠れませんの。その……疼いて……」
疼く、というのは何だろうか、ルシルはちょっと気になった。
「あなた、リコットとはどういう関係ですの?」
「言った通りよ。街を焼け出されてトラックの中で出会った。トラックはスマート・タレットで全滅、あたしたちだけが生き残った」
しかしクロアの鋭い視線が、その答えが十分でないことを理解させた。
「あたしは……リコットのことを愛してる。同じ境遇で逃げてきたからかも知れないけど、でもあたしは真剣よ」
でしょうね、とクロアは少し残念そうに言った。
「あなたは勘が良いから、わたくしのことは直ぐに分かったようですけど、流石にこれには気づいてはいらっしゃらないでしょう?」
そう言ってゴシックロリータのスカートをつまみ上げる。そしてドロワースをゆっくりと下げていった。
最初、ルシルはそれが何かわからなかった。露わになったクロアの下半身には黒い下着にガーターベルトがしてあるが、それはルシルが知っているものとは違っていた。
何より彼女の下着からはみ出したモノが太ももにそのベルトで固定されているのだ。ルシルは呆気にとられ、しばらくそれが何か理解できず、そしてようやく思い至った。
「それ……ペ、ペニス?」
クロアが悪戯っぽく微笑む。
「そうですわ。わたくし、ミキシングですの。ミキシング・ジェンダー。キメラだなんて呼ばれたりもしますが」
ルシルは初めてそれを生で見て、息を飲んだ。あのポルノ雑誌に載っていたもの、まさにルシルがリコットのために思いを巡らせていたものだったからだ。まさかこんなに近くにミキシングがいるとは……。
「ど、どうして?」
「どうして? 言った通りですわ。わたくしは十二歳で娼婦の一座に預けられた。一人分の食い扶持を賄うためにはその分の稼ぎがいる。娼婦と言っても集まって多くなれば、客の取り合いになりますの。なので初めてお客を取る前に、オーナーの意向でミキシングになりましたの。だからわたくし、正確に言えば一度も女だったことはありませんのよ? 性的な意味ではね。オーナーは何か話題になるものが欲しかったのでしょうね」
クロアがベルトを外すと、巨大な強張りがむっくりと起き上がりスカートを突き上げた。それは子供の腕ほどもあって、表面は肌色でスベスベしていて、先端の頭は少し赤黒い。
「わたくしの役割はこう。革命で逃げてきたお嬢様だったり、男装の麗人だったり。そこでミキシングだということが分かって……他の女性達と交わるんですの。理由とか理屈とかは必要ないですわ。ただのショウですもの。そうしてストリップやセックスを見せて、そこから客を呼び寄せますの。お客というのは……言わなくてもわかりますわよね? ミキシングってけっこう評判が良いんですのよ? 女性に買われることもあれば、男性からもよく声がかかりましたわ。大抵はショウの後に部屋に行くんですけど、盛り上がるとステージに上げて、素人の方とも交わるんですの。今になって思えば……それなりに楽しい日々でしたわ」
ルシルはそれを聞きながらも、目は巨大なコックに釘付けになっていた。
「大きさは手術の時に選べましてよ。わたくしのはオーナーの指示で……大きめにしてありますけど。あまり伸縮しないから、こうしてペニスベルトで固定してますの」
無意識にそれに近づいていく。ルシルは声を出すこともせず、ただ目の前のモノを凝視していた。
「触っても、よろしくてよ?」
そう言われた途端、ルシルは引き寄せられるように、それを握った。両手で掴んでもまだ先端が拳分は余った。直径は五センチ、長さは三十センチ以上、それは全く想像を超えたイチモツだった。
自然と舌を出して先端を舐めた。ビクンと強張りが震える。今度は口を開いて頭の部分をくわえた。口をいっぱいに開けてようやく中に入った。しかし経験も知識もましてやこれほど大きなものをどう扱えばいいか分からず、ただくわえただけでフェラチオと呼べるような行為ではなかった。
「無理はしないでよろしいのよ。やはり興味がおありでしたのね。同性で愛し合われている方は、必ず一度はミキシングを考えますもの」
ルシルは目の前に毅然と立っている怒張を撫でながら、そして決心してクロアに向き合った。
「ねえ、クロア、お願いなんだけど……あたしとしてくれない?」
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