第2章 バーチャル世界のリアルな世界 後編

 梓は、ため息まじりで遼二を見ていた。遼二は二振りの剣を見てうなり続けていた。

「こっちは攻撃力が高い……でも、こっちは安い……」

「いい加減に決めたらどう」

 見かねた梓が言った。遼二はちらりと梓を見る。そして、ため息をつきながら片方の剣をもとの場所に戻した。

「結局どっちにしたんだ?」

「安いやつ。あと資金が二千あったら良かったけど……」

 和幸に聞かれ、遼二は遠い目をしながら返していた。そして、遼二は和幸の刀を見る。

「お前、それいくら?」

「四千弱」

 和幸の言った値段に、遼二は眼をむいた。そして、刀が置いてあるコーナーに向かう。しばらくして戻ってきた遼二の手には、別の刀が握られていた。

「これにしろ」

 和幸は刀を手に取りじっくりと眺めた。そして、顔を上げる。

「攻撃力が半分ぐらいしかないですね」

「防具とかはどうするんだ? 個人装備は個人の負担だ」

 なおも和幸は言い返そうとしたが、自らの端末を見てため息をついた。

「分かった。今回はあきらめますよ」

 いつもと比べ物分かりの良い和幸に遼二は疑問を覚えた。だが、すぐに表情をもとに戻した。

「そっちはどうなんだ?」

 遼二が梓と遥を見る視線は、どこか恨めしそうだった。

「一応、他の装備買えるようにお金余らせたけど、これでいいの?」

 首をかしげながら梓が聞いていた。値段を見て遼二は頷く。そして遼二は、梓のもおってきた武器に目を移した。

「ああ。てか、これ和幸の持ってるメリケンとどう違うんだ……?」

「なんだろ、商品名にはナックルダスターって書いてたけど……用途? 金属部の分厚さ?」

 遼二も梓もよくわからないといったようだった。遼二の目が遥に移る。

「遥は……銃? いや……別のゲームじゃ魔法使い系だったって和幸から聞いてたけど……」

 遥が持っていたのは、火縄銃のような銃だった。

「? 別に杖とかじゃなくても、魔法は発動できるの」

「分かったけど……運用、大丈夫なのか、それ?」

 遼二は遥の持っている色の違う二つの革袋を見た。

「う~ん、モンスターがお金とか落とすから大丈夫だと思うの」

 気軽そうに遥は言った。そして、革袋のわきにあるナイフを取り出す。

「それに、本当に危なくなったらこれがあるし」

 遥にそこまで言われ、遼二は何も言い返せなかった。


「ちょっと、いいかしら」

 疲れ切った表情で梓は遼二に声をかけた。

「なんだ?」

 遼二は振り返った。

「装備品全部買ったけど、まで来たけどさ……ちょっと、いろいろ言いすぎない……」

 梓に言われ遼二は首を傾げた。その遼二を見つつ梓は振り返った。視線の先には、相変わらず何を考えているのかよくわからない和幸と、同じように疲れたような表情の遥がいた。

「……しょうがないだろ。資金が、ないんだから」

 どこか申し訳なさそうに遼二は言った。

「それに俺と和幸は、梓と遥に千ずつ借りてるんだから……」

 今度は遼二の顔に疲労感があふれた。

「だから……そこから何とかしないといけないんだよ」

「お金稼ぐ方法って、あるのかしら」

 梓は遼二に聞いていた。遼二は端末を見た。しばらくして彼は首を振る。

「あるにはある。ただ、金が要る。しかも、それなりに」

「じゃあ無理ね」

「無理だ。結局、依頼をこなして貯めるしかない」

 遼二に言われ、梓は何をするわけでもなく端末を見た。だが、端末には何も書いていなかった。そして、支出の項目を見ると小さくため息をついた。


 防具屋の店主の前に四人分の端末が置かれた。店主は慌てて顔を上げる。

「初心者セット四つ」

「ちょっと待つの」

 ファストフード店でハンバーガーを頼むような感覚で、遼二は装備を頼んでいた。それを遥が制する。

「なんだ?」

「なんだ? じゃないの。もっとかわいいのとかあるよね。そっちは見ないの?」

「金がない」

 一瞬遥は何も言い返せなかった。だが、すぐに表情を元に戻す。

「お金なんて、モンスター倒せばすぐ集まるの!」

 それに対し遼二は、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。その間にも遥は、陳列してある防具を見定める。ただ、そのどれもが遥の意に沿うものではなかった。

「もっと、かわいらしい防具って売ってないですか?」

 遥に聞かれ、防具屋の店主は両腕を組んだ。

「う~ん、うちみたいな店よりも、もっと小さな店のほうが強いんじゃないのかな……。後は、仕立て屋に防具と素材持って行くか自分で仕立てるか……まあ、駆け出しには少し早いかな」

 それを聞いて遥は肩を落とした。そして、初心者セットといわれた防具のセットを見る。機能性のみを重視した厚布の服とレザーベスト、可愛げのない皮帽子、履きにくいレザーブーツ。遥はため息をつくと端末を見た。

(そりゃ、このセットで千五百コインは安いって思うけどさ……あたしだって女の子なの……もう少しかわいいのが欲しいの)

 しぶしぶといった表情で遥は端末のパスワードを入力していた。


 道具屋の店主は、射るような視線で商品を眺めている少年に戸惑っていた。

「やっぱり冒険者セットか……。バラで買ったら高くなるし……ただ、バックパックの増設は欲しい……」

「いい加減に決めたらどうだ。待たされる身にもなってください」

 和幸はあきれながら装備品を見ている遼二に言った。

「もう少し待ってくれ。確か現状同じ品物は二十個しか持てない。だから、先行投資で五百コイン払って三十個持てるようにして……」

 そういいながら遼二は端末を見た。そして、凍り付く。

「どうしたんですか」

 不審に思いながら和幸は遼二に聞いた。

「足りない……資金が、足りない」

「足りないって、足りるだろ。まだ武器と防具買って千ぐらい余ってるはずですし」

 和幸は端末を見ながら遼二に言い放った。それに対し遼二は首を振った。

「武器と防具と道具は買った。足りないものは?」

「足りないもの……。あっ」

 端末を見直した和幸はようやく何かを思い出した。

「食料……食費……」

 うわごとのように和幸は言った。そして、和幸は梓と遥を見る。遼二もまた、どこか物欲しそうに和幸と同じ方向を見た。梓は苦笑し、遥はため息をついていた。


 窓のついた豆腐のような建物である保存食屋の扉につけられたベルが鳴った。仲良く楽しそうに入ってくる二人の少女とその後ろから入ってくる少年二人。少年のうち片方は笑みを浮かべていたが、もう片方の少年はこの世の終わりのような表情で入ってきた。その様子を食品店の店主は首をかしげた。

「とりあえず必要な食料買ったら、おやつも買っておきましょうか」

「えへへ~~」

 梓と遥は楽しそうに保存食を眺めていた。時折、気に入ったものがあったのかかごの中に放り込む。その様子を遼二は恨めしそうに見ていた。

「資金があれば……」

 遼二は失望しながらかごを持ち、保存食を入れる。梓達が入れているものは顔や手足の描かれたミックスベジタブルのパッケージに包まれた彩鮮やかなシチューやミートボールだったが、遼二が入れているものは安いが機能性のみを考えられ、包装も深緑一色で茶色一色のシチューやチリビーンズというものであった。遼二は、棚とかごの中を見直した。そして、何かを思いついたのかもう一個かごに入れる。

「多くないですか、それ」

 同じような保存食セットをかごに入れていた和幸が聞いてきた。

「少し、試してみたいことがあるんだ」


 近くにある広場ベンチの周りに遼二達は集まっていた。遼二は先ほど余分に買った保存食セットを出す。内側の包装も外装と全く同じ色合いのものだった。いくつかの小さな袋が出てくる。

「味あるの? それ以前に、食べられるの?」

 広げられた袋を見ながら梓が聞いていた。それを聞き遼二は肩をすくめる。

「まあ、実際食べればわかるだろ」

 そういいながら遼二は、付属のヒーターで保存食を温め始めた。

「意外にしっかりしているな……」

 熱を発するヒーターを触りながら遼二はそんなことを考えていた。

「安い割にはいろいろ入っているんだな」

 遼二が広げた袋の中身を見ながら和幸が言った。

「でも、問題な味なんだよな」

 苦笑しながら遼二はヒーターから温まった袋を取り出した。そして、付属のトレイに盛り付ける。

「あんまりいい色合いじゃないわね……」

 ひきつった笑みを浮かべながら梓が感想を漏らした。そして彼女は、ちらりと遼二を見る。遼二は無言でビーフシチューらしきメインの食べ物にスプーンを付けた。

「くど」

「うん?」

 短く味を告げた遼二に、和幸は首をかしげた。そして、遼二が食べていたものにスプーンを伸ばす。

「まずっ」

 和幸から笑顔が消えた。そして、持っていたペットボトルの水を飲む。

「おいしくないの、それ?」

 遥が聞いていた。彼女も、恐る恐る料理を食べる。

「っっっっ!?!?!?」

 口に入れた瞬間、遥は涙目になり和幸のペットボトルを奪い、中身を飲み干した。

「なにこれ!? こんなの食べられないじゃんか!」

 遥は怒鳴り声をあげた。それを聞いて、今度は梓が料理に手を出した。

「食べられないことはないわね……」

 梓の感想を聞いた和幸は耳を疑った。

「これ、食べれるのですか?」

「味はそこまで良くないけどな」

 補足するように遼二が言った。和幸は遼二と梓、トレイの料理を何度も見比べた。

「お姉ちゃんはなんとなくわかるけど、お兄ちゃんまでまずい料理に耐性あるの……」

 ため息交じりの声を出した遥に和幸は首をかしげた。

「どういうことですか?」

 和幸は聞いていた。遥は背伸びした。その意味を悟った和幸は視線を下げた。

「お姉ちゃん、料理すごく下手なの。しかも、自分で味見してもおいしいって感じちゃうの。あたしもよくお姉ちゃんが作った料理食べらせられて……」

 梓には聞こえないようにと和幸に小さく耳打ちする遥の声の最後のほうは、どこか涙声だった。それを聞いて和幸は、苦笑せずにはいられなかった。そして、再び遼二と梓に目を移す。

「パンとかパウンドケーキは、まあまあおいしいわね」

「でも、この組み合わせってありか? パンの代わりにビスケットとかクラッカーのほうがいいと思う」

 遼二と梓は真面目に保存食の感想を言い合っていた。

「おいしいって思う人いるんだね、これ」

 遥の声はなおも涙混じりだった。

「でも、遥はこれを食べなければいいでしょう。僕はこれから、しばらくこれなんだから」

 手元のバックパックの中身を見ながら和幸は言った。その声は、どこか気落ちしていた。


 和幸は、目の前の光景に辟易していた。先ほどの料理で少しずつ話し始めた遼二と梓。そして、かまってくれとばかりに梓に縋りつく遥。梓は時折遥に声をかけたり頭をなでたりするが、ほとんど遼二にかかりっきりだった。

「もうすぐ本部ですね」

 一人遅れて歩いていた和幸が、前を行く三人に声をかけた。

「そうね。宿屋が見えてきたから、あと少しかしら」

 遥の頭をなでようとしていた梓が、手を止めながら返事をした。梓に触れられるのを邪魔されたのか、遥が遼二に向けていたきつい視線を和幸に向ける。

「いい加減依頼を受けて、モンスターを斬りたいんですよ。察してくれよ」

 ため息まじりの和幸の声を聞いて遥はあきれたような表情になる。

「和幸って、こういうの好きなの?」

 首をかしげながら遥が梓に聞いていた。

「遼二、和幸って戦闘狂なの?」

 苦笑しながら梓が遼二に尋ねていた。

「ああ。でも、遥は知っていたんじゃないのか?」

 遥は和幸と同じゲームをプレイしていた。だから、遼二は遥の疑問に首をかしげていた。

「アイテムハンティングはね、洞窟や森に潜って資源を集めて合成するの。モンスターは出てこなくてただ単に集めるだけなの。だから、最後のほう結構退屈だったの。今は……ゲーム自体がほとんど止まってる」

 遼二はそれを聞いて、和幸を見た。

「お前、よくそんなのやってたな」

「まあ……いろいろあったんですよ」

 和幸の返事はどこか曖昧な返事だった。遼二はそれを疑問に思ったが、それ以上追及をしなかった。


 買い物から帰ると、本部の掲示板に何枚かのA4用紙が張りだされていた。

「これが依頼か……チュートリアルのクエストみたいだな」

 紙を見ながら遼二はつぶやいた。

「そうですね。えっと、下に数字が書いてあるからその順番にやっていけばいいのか」

 同じようなことをしていた和幸が目を輝かせていた。その和幸を無視しつつ、遼二は「1」と書かれた紙を見た。

<布の服を4つ作ってください。報酬1人100コイン>

 それを見て遼二は注意深く紙を見た。そして、片隅にQRコードを見つける。彼はすぐに端末を取り出し、QRコードを読み取る。

「QR読み込んだから、そっちでもクエストの手順が出るか見てくれないか」

 遼二に言われ、梓は端末を覗き込んだ。その梓の端末を遥が覗き込んだ。遥の頭を邪魔と感じたのか、梓は遥の頭を軽く二度三度叩いた。遥は梓を見上げた。梓と遥の目が合った。遥は笑みを浮かべた。その遥を無視し、梓は遼二に端末を突き出していた。梓の背後では、遥の肩が震えていた。

「出てないわね……。全員QR読み込まないとだめだわ」

「意外に面倒くさいな……」

 苦笑しながら遼二は言った。梓も同意するように苦笑している。

「本当に仲いいの……」

 遥は遼二と梓を見ながら吐き捨てるようにつぶやいた。

「そりゃあ、お姉ちゃんだれとでも仲良くなれるけど……。あたしがいるのに……」

 そんな遥の声は、遼二と梓には届いていなかった。遼二の背中を遥はにらみ続けていた。


 宿屋や本部のある町から出てすぐの砂で舗装された街道を和幸は意気揚々と歩いていた。その少し後ろをどこか不安そうに歩いている遼二と、身を寄せながら歩いている梓と遥はそんな和幸を眺めていた。梓はあたりを見回した。

「遥。そろそろモンスターが出てくるから離れてね」

 梓に言われ、遥は名残惜しそうに梓から離れた。それを待っていたかのように街道脇の茂みが揺れた。その途端、和幸の表情が輝く。

「これが……モンスター……!」

 遼二はモンスターと端末を見比べながら声を出した。

「これが、素材を落とすのですか?」

 うずうずしながら和幸が聞いていた。

「ちょっと待て……。あった。そいつであってる」

 うっそうと茂った木の枝が動いているようなモンスターが遼二の端末に映し出されていた。それを聞くと和幸は満足そうにうなづいていた。

「ウォーキングプラントっていうモンスターだ。植物繊維を落とす。それから……」

「いや、それだけ分かれば充分。じゃあ、始めましょうか」

 笑みを浮かべながら和幸は刀を抜いた。梓も前に出てくる。それを待っていたかのようにモンスター――ウォーキングプラントが襲い掛かってきた。


「楽しいねえ。これは本当に楽しいねえ」

 和幸は上機嫌だった。自ら体を動かし相手を倒す。和幸にしてみれば至高の喜びだった。襲ってくるウォーキングプラントを刀で斬る。斬られたウォーキングプラントは煙を上げ消滅した。

「死骸は残らないのかですか……動くことの邪魔にならないからいいですけど」

 足元を見ながら和幸は呟いていた。そのすきを狙って別のウォーキングプラントが襲ってくる。和幸は迎え撃とうとしたが、それよりも早く梓が殴り倒していた。

「あたしが全部取っちゃうわよ? それでもいいかしら」

 梓は和幸に向け、挑発的な笑みを浮かべていた。それを聞いて和幸は目を細める。

「上等」

 梓に聞こえないように和幸は呟いていた。

「目的、忘れてるんじゃないだろな……」

 梓と和幸の動きが変わったのを見て、遼二は苦笑しながら言った。その隣では、遥が銃に弾と火薬を込めている。ただ、視線はウォーキングプラントよりも梓を追っていた。

(お姉ちゃん、カッコいいの……)

 戦う梓を見て、遥は頬を染めていた。

「ここでやっていけるのか、俺は……」

 梓や和幸と遥を見比べながら遼二は呟いていた。そのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。

(少し邪魔ですね)

 だからこそ、視界の脇で自分と同様にモンスターに向かっている梓が気になった。そのうえ、時折遥が放つと思われる銃弾が飛んでくる。

(これぐらい一人で充分なんだけど)

 和幸はちらりと後ろを見た。遼二は何をするわけでもなくぼんやりとしている。

(ある意味、遼二みたいにじっとしてくれるのがありがたいんだけどな……)

 再び和幸は視線を前に戻した。そこには最後の一体と思われるモンスターがいた。

(最後の一体……くそっ!)

 和幸は向かっていったが、梓のほうが早いように感じられた。だが、モンスターにとどめをしたのは梓でも和幸でもなかった。

「当たったの……!」

 遥が目を見開いていた。遼二もまた、驚いたように遥を見ている。だが、それは短い時間だった。

「で、戦利品はどうなんだ」

 ようやく遼二は前に出てきた。そして、モンスターが倒れていたあたりを調べだす。

「ああ……思った通りだ」

 苦笑しながら遼二は地面から視線を上げた。

「思った通りって何なの?」

 同じように歩いてきた遥が言った。そして、自然な動作で梓の隣に立つ。

「素材はモンスターの数だけ落ちている。経験値も全員に入っている」

 梓達頷きながら聞いていた。

「で、金は?」

 それを聞いて和幸はいつもの笑みを浮かべ、梓は困惑し、遥はこの世の終わりのような表情を浮かべた。

「落ちてないですね」

 和幸はほとんど反射的に言い返していた。

「だろ。そもそも、何でケダモノが金落とすんだ? ありえないだろ」

 遼二の返事は辛らつだった。梓達は肩を落とした。

「いや、何で金落とすって思ったんだ? 和幸、俺らがやってたゲームで、モンスターは何を落としていた」

 和幸は自らがやっていたゲームを思い出していた。そして、ハッとなった。

「そうでした……あのゲームもアイテムハンティングも素材しか拾っていない……」

 和幸は小さくため息をついた。

「で、どうするのかしら。あたしらに借金のあるお二人さんは」

 梓は遼二と和幸に視線を向けた。遼二は視線をそらした。そして、気を紛らわそうと端末を見る。

「えっと……確かクエストの報酬が100コインで、ほかのクエストが……」

「あたしを見なさい」

 梓に言われ、遼二は慌てて梓を見た。

「ちゃんと返す。だから……待って、くれないか」

 絞り出すような声で遼二は言った。それを聞いて梓は満足そうに頷く。そして、遥に視線を移した。

「遥も消耗品のこと考えて動きなさいね。買ったときに遼二も言ってたけど、銃の運用コストって高いんでしょ」

 今度は遥が目をそらした。そして、彼女は無言でバックパックをあさり始める。

「ねえお姉ちゃん。お金足りなくなったらどうすればいいの……」

 遥は梓に聞いていた。

「そうねえ……宿屋はしばらく無料券で泊まれるし、銃に使う消耗品以外は余裕があるから、大丈夫よ」

 梓は笑みを浮かべながら遥に言った。遥は安どの表情になる。

「とりあえず、報酬を受け取りに戻ろうか」

 話を終わらせるように遼二が言った。


 本部に戻ると遼二は、食い入るようにこなせそうなクエストを見た。

「どれも少ないな……」

 どこか残念そうに遼二はつぶやいた。同意するように和幸が頷く。

「100とか200じゃいつまでたっても完済できないですか……」

「お前は斬れれば何でもいいだろ。こっちは返済のことも考えないといけないから」

 和幸はそれを聞いて首をかしげた。

「お前……僕を何だと思っているんですか?」

 冷めた目で和幸は遼二を見た。遼二はその視線を無視し、掲示板へと視線を戻した。

「とりえあえず、片っ端からやってくか」

 遼二は次々とQRコードを読み込んでいった。そして、クエストを再び確認する。

「できないやつもあるんですね」

 遼二の端末を覗き込みながら和幸が言った。

「いくつかクエストをクリアしないとできないみたいだな」

 小さくため息をつくと遼二は端末をポケットに入れていた。


 本部同様素材屋は混雑していた。その中に大声が響いた。

「素材を使えるようにするのに手数料がいる!?」

 遼二は呆然とした。

「はい、植物繊維を布にするのに10コイン、布を布の服にするのに10コインの手数料がかかります」

 にこやかに告げる係員の前で、遼二は立ち尽くしていた。

「おい、口から魂出てますよ」

 和幸が声をかけたが、遼二は無反応だった。

「実質……報酬80コイン……返済が……」

「だめみたいね……」

 苦笑しながら梓は遼二の頭をゆすった。

「そうだ」

 唐突に遼二は蘇った。そして、端末を見る。だが、その動きはすぐに止まった。

「えっ……これ、納品するんだ……」

 遼二が持っている端末に映されているクエストの詳細の末尾には、本部への納品が書かれていた。

「納品と報酬が引き換えなのね。うまいことやってるわね」

 唇に人差し指を当てながら梓が言った。

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