第3話 カートを選ぶ

 座学講習を終えた太一達は、早速ピット脇の倉庫前で乗車練習をはじめた。カートに乗ったり降りたりするだけの練習である。


「で、何で私のだけ小さいのよ?」

「私は150センチだから、ギリセーフよ!」

「くっ、裏切り者め……。」


 1人小さなカートをあてがわれたあおいがブーたれる。いつもは一緒に子供扱いされるしいかだが、ギリギリで大人用のカートがあてがわれ、大喜び。あおいはそんなしいかを罵りながらも、ゴネはじめる。面倒くさい性格だ。


「良いじゃないの、1センチくらいおまけしてくれたって!」


 レーシングスーツでビシッと決めて、フルフェイスのヘルメットを被った状態で、場長に言い寄る。だが、場長も一歩も引かない。しばらくは押し問答となる。


「あおい。正直に言ってください!」


 間に入ったのは優姫。あおいの嘘を見抜いていた。こういうとき、はじめは仲間を責めてから、徐々に相手との交渉に移るというのは、優姫の本能的な行動だ。


「本当に、おまけは1センチで良いのかしら?」

「なっ、何よ……。じゃあ、2センチよ。2センチおまけして欲しいわ!」

「……。」

「分かったわ。3センチ! お願いします」


 優姫に凄まれて、白状するあおい。普段はヒールの高い靴を履いているからしいかとの身長差は感じないが、実際には最も小柄なのだ。場長は萎縮するあおいを見ていると気の毒になるし、優姫が味方になってくれたようで嬉しくもなる。優姫があおいに助け舟を出したときには、場長の態度はすっかり変わっていた。直ぐに大人用のカートが用意される。


(くぅーっ! 素顔を晒してれば、特別待遇は私のモノなのにっ!)


 優姫に手を借りて場長を調略したことが、あおいには少し悔しかった。


「左側から乗り込む」

「シートの上に立つっと」

「ハンドルに体重を乗せて……。」

「……脚をペダルにかける」


 座学講習会で言われた通りにシートに座ってみる。思った通りに座れないのがアイリス。


「これでは、運転がままなりません……。」


 胸が支えて、ハンドルが上手に握れないのだ。直ぐにもう一回り大きいカートに交換された。だが、それは時速80キロまで出せるモンスターマシーン。そのままでは危ない。だから、リミッターが付される。これで、カートに座ることができた太一達御一行。サーキットが空くのを待つばかりである。

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