サキュバス(2)

 暑さから逃れて八月を過していた身にとって、日本の残暑は厳しいなどというものではない。


 大人になったら寒い国に移住しようとよく夢想しているが、どうも日本語以外の言語を体が拒絶しているようで、いまのところ難しそうだ。


 うちの学校は廊下や体育館も空調が管理されているのだが、私を満足させる温度まで下がるわけはなく、毎日、ひいひい言いながら校内をさまよっている。


 体育の授業が一番ネックに思えるが、この時季は熱中症を防ぐため、体育館で授業を行うことが多いので助かっている。


 プールの授業があればうれしいのだが、うちの学校には施設がない。


 学校の方針として、運動を通じて生徒をどうにかしようという熱意がなく、体育館の隅で溶けかかっていてもあまり文句は言われない。


 こう書くと、体を動かすのが嫌いなように聞こえるかもしれないが、そんなことはない。


 夏の暑さのせいで不活発なだけであり、冬ともなれば話は異なる。


 たとえば、去年のクリスマスの日に校庭で行った雪合戦における私の活躍は、血の聖夜として語り継がれている。


 被害にあった人たちには申し訳ないが、あの一件で安っぽい男が近づかなくなったのでとても助かっている。


 あと、私は口癖で体が溶けそうとよく言うけれど、半分人間の私が溶けることはない。


 ご安心ください。


 ママや雪女のお姉さんたちは別だけど。

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