第13話 ゴミを潰す話

夜の公園で、女性が一人ため息をついている。

植込みを囲うブロックの上に腰かけて、缶ジュースを飲む。


女性は傷心であった。付き合っていた男が他の女に心を奪われ、

彼女と別れるという話をされたばかりだった。

家にいると気が滅入るので、外の空気を吸いに来たところだ。


もう一度ため息をついたあと、空き缶を横に置いた。

ブロックと缶が当たる音が夜の公園に響く。

その静けさが余計に彼女を惨めな気持ちにさせた。

女性が両手で顔を覆って俯いていると、突然……


ガシャガシャ!


という音が聞こえた。

音の方を見ると置いた空き缶がペタンコに潰れている。

辺りを見回すが何もない。


不思議に思った女性はもう一つ缶ジュースを買った。

中身を飲んで、もう一度空き缶を置く。

ジッと観察していると、また……


ガシャガシャ!


潰れた。

透明な脚に踏み潰されたように、ペタンコになっている。

あまりに不思議な光景に、女性は息をのんだ。

何が起きているのかわからないが、ここに置いたものは潰れるらしい。


彼女は二つ並んだ潰れた缶を取ってゴミ箱に入れると、家に戻った。

しばらくして、彼女は家からゴミを持ってきた。

自分をフッた男に貰ったプレゼントだ。

アクセサリーをブロックの上に置く。


パキ!


ぬいぐるみを置く。


ブシュ!


ペアのマグカップを置く。


ガシャン!


すべてペタンコ、もしくは粉々になった。

柔らかなぬいぐるみまで、真空パックのように潰れて元に戻らない。

彼女はそれを見て、薄く笑うとそれらをゴミ箱に投げ込んだ。


片付けが終わると彼女はスマートフォンを取り出した。


「ねぇ、アナタのことは諦める。でも、最後にお別れが言いたいの。

 ウチの前に公園があるでしょ? そこに来てくれる? 待ってるわ」


彼女はジュースを飲んでいた時と同じ場所に座って、元カレを待つ。

あとは、横に座ってもらうだけでいい。



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