第11話 クローン工場の秘密を暴く話

薄暗い取調室の中、男が座らされている。

その前には、腕組みをした女が仁王立ちしている。


「研究所に侵入した理由は?」

「ここで行われているクローン製造の証拠を掴むためだ」

「それだけか?」

「そうだ! こんなこと許されて良い訳がない!」


女はため息を吐く。

「お前で16人目だ」

「なんだと?」

「この研究所に侵入したバカは、お前で16人目だ」

「俺の前の15人はどうなった……?」

「これを見ろ」


取調室の壁に映像が映し出される。

『人間の魂とはどこにあるのか……』

『宗教・倫理の長年の問題は、ついに科学で解き明かされました』

『高次自我解釈と最新のバイオテクノロジーの融合』

『魂を持たないクローンによる、安定した臓器提供』

『自我を持たない高性能な労働力』

『美しく若い肉体への魂の移動』

『かつて、非人道的とされた行為は魂の解析によって合法化されました』

『人類の新たな一歩を』

『私たちは、株式会社フロ……』


社名を言い終わらないうちに、会社紹介映像は停止された。

「わかったか。この研究所は合法だ」

「そんなバカな! 俺の居た時代では……」

「そうだろうな。どうせ過去から来て、よく知りもしないで

 研究所の看板だけ見て義憤にかられて侵入したんだろ?」

「そ!? そんなことは……」

「誤魔化すな。こっちはお前みたいな時間旅行者の相手を

 もう十回以上やってるんだ」

「ぐっ……!」


女はため息交じりに言う。

「質問に答えてやろう。15人の侵入者がどうなったのか」

「一体、どうなったんだ……?」

「ここで働いている。過去から来て、未来で犯罪を犯した上に

 未来の技術の一部を知ってしまったからな。

 観光目的の時間旅行者だとしても、元の時代には返せない」

「それじゃ……俺も?」


男の顔が青くなる。それを見て女が笑いながら言った。

「いや、お前は元の時代に戻れ」

「見逃してくれるって言うのか?」

「バカか! 違うわ!」

女は怒鳴りながら机を叩いた。


「お前には、元の時代に戻って”未来に来ても工場に侵入するな”と伝えてもらう」

「は?」

「17人目の侵入者を出さないためだ。いいか、時代によって法は変わる。

 そして、法が裁くのは過去でも未来でもない、今、起きている犯罪だ。

 さかのぼって過去を裁くのも、未来を過去の価値観で見るのも間違いだ」

「つまり、”この時代ではクローンは合法だ”と伝えれば良いのか?」

「そうだ。それを勘違いするバカがいる限り、

 警備部長である私の仕事は増え続け、この研究所の雇用は圧迫される」

「切実だな」


女は天井を見上げて言う。

「感謝しろよ。未来の技術を知ってしまった者を過去に返す特例法が施行されたのは

 ほんの数日前だ。そして、その法はには適用されない」

「それじゃあ、俺以外の15人は……」

「相変わらず、ここで警備員だ」

「そうか……俺だけ、帰れるのは少し申し訳ないな」

「気にするな。その気持ちは17人目を出さないために活かしてくれ」

「わかった」


男が力強くうなずくと、女は背を向けて言った。

「本当は、私だって帰りたいさ」

「え?」

「一人目のバカは私なんだ。同類を捕まえ続けたおかげで、

 今では警備部長になってしまった」



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