ツイッターとかでやれよって感じのショートショート

Bar:バー

第1話 ショートショートを書く話

ある男が小説家をこころざした。

しかし長大な物語は書ける気がしないと言い、ショートショートを書き始めた。

程なくして

つき古市ふるいちという作家に似ている」

という感想が男に送られてきた。


それは、ただの率直な感想だった。

盗作を疑った訳でも、オリジナリティを否定した訳でもなかった。

むしろ「好きな作家を彷彿とさせ、気に入っている」といった趣旨のものだった。

しかし、男はとても気にした。


「今書いている話も、次に書く話も、誰かに似ていると言われるのではないか?」

気にするあまり、筆がまったく進まなくなった。

しばらく何もできない日々が続いたあと、男は決意する。

「その作家の作品をすべて読もう」


くだんの作家はだいぶ昔に没しているが

生涯にわたり多くの短編を残しており、その数はちょうど1000編あった。

男はその一つ一つを脳に刻み込むように読んだ。

一言一句のすべてを暗記して、そのどれとも違う物だけを書こうとした。


一年以上の間、男はその作家の作品を読むことだけに注力した。

そして、999の短編を暗記し、そらんじられるほどになった男は

最後の話を読み始めた。


1000番目は

似ていると言われた作家の作品をすべて暗記した作家が

あまりに懸命に暗記したばかりに、暗記した話しか書けなくなる話だった。


「そんなバカなことがあるか」

男は本に向かって悪態をついた。

「俺はオリジナルの作品を作り上げてみせる」


男は物語を読み進める。

その物語の作家は、オリジナルの作品が書けなくなってしまったことを悔いて

「気にしすぎたばかりに……」とつぶやいたあと、

自らの生涯に幕を降ろしてしまった。


男は苦笑した。

「俺は、こうはならないぞ」

そして、男はまた別の物語を書き上げた。

つき古市ふるいち作品のどれにも似ていない、オリジナルの作品である。


それは、会心の出来だった。

果たして、その物語は多くの人に読まれることになった。

多くの賞賛に混じって、男のもとに一通の感想が送られてきた。

そこには

ひなた今壱いまいちという作家に似ている」

と書かれていた。


男の作品は、そのあと一作も出ていない。



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