第24話 助けたい

7月に入り先月よりも気温が上がって、団扇で扇ぐだけでは涼しさを感じなくなっていた。


しかし、我が校屈指の美女である茅秋&夏恋が生徒会に扇風機をねだりに行ってくれたお陰で部室には心地の良い風が吹いている。


活動の機会が少ないこの部活は何となく部室に集まり、無駄話や勉強をしたりして、時間になれば帰るだけの部活になりつつある。

そして今日も当然のように5人集まっていた。



「成瀬くん。私、アイスティーが飲みたいわ」

「わ、分かったよ!」

「私も同じ物を」

「私は炭酸が良い」



滝野に便乗して茅秋と夏恋も涼に飲み物を買わせようとする。



「待て! 滝野さんは良いが何故二人にも買ってやらなきゃいけない! 二人は愛しの悠に頼めば良いじゃないか」

「悠くんは私達の財布じゃないので」

「悠にこんな暑い中買わせに行かせるなんて私の良心が痛むわ」

「俺にも良心を痛めろよ!! ……ったく、悠。ついでだから何か買ってくるぞ? リクエストはあるか?」



辛辣な言葉を二人の女王様にぶつけられ、やけくそになる涼。



「俺はもうバイトに行くから大丈夫だよ」

「そうか? じゃあ行ってくる」



そう言って涼が部室を出た。俺もそろそろ出るか……



「悠くんもう行っちゃうの……?」

「悪い。今日は少し早いんだよ」

「バイト頑張ってね、悠」

「ああ、ありがとな。んじゃ、また明日」

「悠くん行かないでよ~!」

「またね~」

「お疲れ様」



三人に別れを行って部室を出る。最近の茅秋はずっとあんな感じなので困っている。俺と夏恋に対して甘えが凄いのだ。外だと周りに見られるからやめて欲しい……



下駄箱に近づくにつれて、話し声が聞こえてきた。



「ねぇ、邪魔なんだけど」

「てゆーか何でまだ学校来てんの? 私さぁ、あんたみたいな陰キャほんと嫌いなんだよねー。さっさと消えてくれない?」

「ごめん……」



何か嫌な会話が聞こえるな……C組の下駄箱の方か?

陰から覗くと、女子生徒二人が背の低い一人の女子生徒を睨み付けていた。恐らく虐めだろう。


あれ? あの睨まれている子って……肝試しでペアだった伊深さんか!?

友達になろうと言われ、承諾したもののクラスが違うため交流が少なかったが……まさか虐められていたとは知らなかった……兎に角、助けないと!



「君達、何してるんだ。まさか虐めじゃないだろうな?」

「み、宮原くん!? 違うよ!! こういうこと言い合えるくらい私達仲良いから! 親友なの、親友! ね、虹華?」

「……う、うん」

「そうか。でもそれを知らない奴から見れば虐めだから気を付けろよ」

「はーい♪ それよりラインのID教えてくれませんか!?」

「俺ラインやってない」

「そっかぁ……」



……ホントはやってるけど教えたくない。てか、コイツら嘘ついてるし……伊深さんのこと絶対虐めてる。本当の親友同士は「消えろ」なんて平気で言わないだろ、普通。


虐めコンビが「またね~」と俺に媚びを売って帰って行った後、伊深さんを見ると彼女は目に涙を浮かべていた。



「伊深さん大丈夫……じゃないよな。こういうことはいつから?」

「……林間学校の少し前。私が肝試しで宮原くんとペアって決まったあたりから……」

「俺とペアが決まってから……一体なぜ?」

「それは……宮原くんがほとんどの女子から人気だからだと思う……私みたいな暗い女が宮原くんとペアになったからみんな嫉妬して……」



俺が人気? 知らなかった……素直に嬉しいけど嫌なヤツにまで好かれるのはなぁ……



「取り敢えず、また何かあったら言ってくれ。俺に出来ることなら何でもするからさ。友達だろ?」

「うん。ありがとう……」

「それじゃあ俺はバイトあるから、またね」

「え……うん。またね」



こういう事があった後は少しの間だけでも傍に居て欲しいものなのだろうか。しかし、俺は傍に居ても彼女を慰めたりする事は出来ない気がして、一人にさせることを選んでしまった。


兎に角、友達としてなんとかしてあげたい。原因は俺みたいだし……



────────────────────


「宮原くん、どうかしたの? 今日は元気ないみたいだけど……嫌な事があったなら私で良ければ相談に乗るよ?」



伊深さんの虐めの件でこれからどうするか考えていたら、三浦先輩が心配そうに声を掛けてきた。

彼女は信用できる先輩だし、言っても大丈夫だろう。



「いや……実は友達が虐めを受けているみたいなんです。一応注意はしたんですだけど、あまり信用できないし……どうも俺が原因らしいので、どうにかして助けてあげたくて……」

「成程、それは大変だね……でも私は様子を見た方が良いと思うよ。」

「え、なんでですか? すぐにでも助けた方が良いんじゃ……?」

「どうせ宮原くんの取り合いで起きたんだよね?」

「な、何故それを……!?」



三浦先輩が呆れた表情をしながらジト目で見てくる。



「それくらい分かるよ、だって宮原くんイケメンだし。…… 兎に角、宮原さんが梅川さんの味方ばかりすると事態は悪化すると思うな?」

「そ、そうですか……でもホントに見てるだけしか出来ないんですかね……?」



友達が辛い思いをしているのに見て見ぬ振りは絶対に出来ない。



「うーん……じゃあ、誰か仲の良い女子友達はいる?」

「いますけど……?」

「その子を出来るだけ虐められてる子と一緒に居させて」

「え、それだけですか? 別に先輩を信じないわけでは無いですけど、とても上手くいくとは思えませんが……」

「男の子の宮原くんには分からないよ。女の子には色々と複雑な関係があるんだから」

「そ、そうなんですか……」



先輩は俺をからかうように笑いながら答えた。

ここは先輩の言うとおりにしてみよう。少しでも伊深さんを助けられる可能性があるのならやるしかない!

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