17. 死んでれら

 いじわるな継母ままはは義姉あねたちに、さんざんこき使われいじめられ、とうとう倒れた

 継母と義姉たちは、死んでれらを墓地はずれの地べたに埋め、かまどの灰をいただけで、そそくさと立ち去りました。

 こんな葬りかたでは、死んでれらは、安らかにあの世へゆけやしない。

 近所に住むまじない師のばあさまは、あの世への乗り物としてかぼちゃを、お供としてネズミとトカゲのなきがらを供えたのでした。


 死んでれらが、ふと気づくと、かぼちゃの馬車に乗っていました。

 ネズミにかれる馬車にのり、トカゲのお供につきそわれ、夜道を走っているのでした。

 粗末な服はいつのまにか、白くきれいなドレスになり、足にはこれまたうつくしい、ガラスの靴をはいています。

 行く手には、ため息が出るほどすばらしいお城が、夜闇のなかに、煌々こうこうとかがやいていました。

 お城のなかへおずおずと、足を踏み入れた死んでれら。

 きらびやかな大広間では、それはそれは華やかな舞踏会がひらかれているのでした。

 その真ん中に立っているのは世にも立派な王子さま。

 王子さまに手をとられ、やさしくダンスへいざなわれ、夢のようなひとときを、死んでれらは過ごしたのでした。


 そうして楽しい時はすぎ、真夜中の鐘が鳴りました。


 真夜中の鐘がなるや否や、きれいなお城は、真の姿をさらけ出しました。

 きらびやかな大広間は、かびと硝石のこびりついた、ふるぶるしい地下墓所でした。

 立派な貴族や貴婦人は、屍衣をまとった骸骨でした。

 そしてうつくしい王子さまは、黄泉よみの国の王子さまの真の姿をあらわしました。

 身はおぞましく腐りはて、うじたかれころろぎて、朽ちたうつろな眼窩と口腔が、忌まわしい笑みをうかべました。

 悲鳴をあげて死んでれらは、お城から逃げ出しました。

 しかしたちまち、お城の兵士が、黄泉よもいくさが追ってきます。

 あわや脚をつかまれそうになったとき、死んでれらは、片方の靴をぬいで、黄泉つ軍へ投げつけました。

 ガラスの靴がくだけました。

 兵士たちもくだけました。

 ガラスのようにきらきらとくだけ散った兵士を後目に、死んでれらは、黄泉平坂よもつひらさかを逃げ去りました。


 地上では、死んでれらを埋めた地べたへ、継母と義姉たちが、おそるおそる来ていました。

 まじない師のばあさまにいましめられて、しぶしぶ様子を見に来たのでした。

 その目の前で、墓場の土と、撒いた灰とがはじけ飛びました。

 死んでれらが飛び出てきました。

 息を吹き返した死んでれらは、現世うつしよの太陽と空気をあびて、継母と義姉たちが腰を抜かすのも目に入らず、喜びの声をあげました。


 その背後で、ふたたび、墓場の土がはじけました。


 二本の巨大な、腐りはてた腕がとび出してきたのでした。

 左手には、くだけ散ったガラスのかけらを握っていました。

 右手には、死んでれらの、はだしの足をつかみました。

 悲鳴をあげる死んでれらが、墓穴へ引きずり込まれると、飛び散った墓場の土が穴をふさいで、何事もなかったかのように、地面はしんと黙りました。

 継母と義姉たちは、ただただおびえ、腰を抜かしておりました。


 黄泉の国へひきずり込まれることもなく、捨ておかれた継母と義姉たちは、そのまま死ぬこともなくなり、黄泉に安らぐこともできず、不死の怪物ノスフェラトゥと忌み嫌われて、人びとから追い立てられ、この世が滅びをむかえるまで、さんざん苦しんだということです。

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