第3話

先程までの戦闘で思った事だがほね太郎はかなり腕が立つのではないか、と思われる。

ウサギと戦闘している時、ほね太郎は何度か魅入るほど綺麗な太刀筋でウサギを流れるように切り倒していた。


今はレベルが低いからそこまでだろうけど高レベルになったら物凄く強い子になるんだろうな。


そんなことを考えつつ森の中を呆然と歩いていると他のところとは様子の違う木々が目に入った。


「なんだこれ、大きい傷が付いてるな」


考え事をしながら歩いていると辺りの木全てに大きな爪で切り裂いたような傷が付いている所まで来ていたようだ。


「これはちょーっと来ちゃダメな場所かなぁ?」

「カララッ」

「帰るか━━」


━━パキッ


踵を返し一歩踏み出したその瞬間何か棒状の物を踏み、それが折れ軽快な音が鳴る。


「枝でも踏んだのかっ…………へ?」


その音と感触が気になり下を見てみるとそこには木の枝…………ではなく動物のものと思われる骨が落ちていた。


「骨?!」

「カラッ?」

「いやいや、ほね太郎を読んだわけじゃないからね?」


このゲームでは討伐したモンスターや動物はドロップになるらしい、だと言うのに今俺の足元には死骸が落ちたまま…………謎だな。


顎に手を当て悩んでいると森の奥底から木々が揺れる音がこちらへとどんどん近づいてくる。


その音に気が付いたほね太郎は武器を構え木々と俺の間に立つ。


うんほね太郎マジ紳士。


━━ガサガサガサッ


そんな事を考えている時、俺たちの元に一匹の狼が姿を見せた。


「こいつ、敵MOBか!」


狼が出てきたその瞬間大盾を構えるが狼に目立った動きがない、いや、寧ろ全く動いていない。


その事にさらに警戒心を引き上げると突然狼が二メートル程上へ持ち上がり━━




━━バギュッ




肉と骨が噛みちぎられる音を立てながら上半身と下半身がお別れした狼の死体が目の前に血をまき散らしながら落ちてきた。


「ヒエッ」


降ってきた狼に短い悲鳴をあげるとほね太郎が目の前に立ち塞がりサムズアップをし大丈夫だというジェスチャーをして来る。


「お、おぅ……ほね太郎、頼りにしてるわ」

「カラッ!!」


俺のその一言にほね太郎はテンションを上げ、剣を振り回し最後にキランという効果音が合いそうなポーズをこちらに向けてくる。


「ほね太郎、可愛いからいいけど完全に危ないヤツがそこにいるんだから気を付けてね」

「カラ…………」


注意されたほね太郎はショボーンと肩を落としながら再度武器を構え直す。


木々が次々と倒れ目の前に大きな獣道が出来上がり、そこから圧倒的巨体の熊が出現した。


「デ、デカッ?!」

「グヴアァァァァ!!」


熊は俺たちが視界に入ると鼓膜がちぎれそうな程の大きな咆哮をし、その四肢をフル活動させ自動車並みの速度でこちらへ突進してくる。


これは避けられない、受けるしかないか!!


直感で避けられない事を察知した俺はほね太郎と場所を交換し、大盾を構え来るべき衝撃に備え歯を食いしばった。


「うっぐ!!」


突進を受けたアキは短い悲鳴をあげ、そのまま熊に押され電車道を作る。


「ぐうっ、やっぱ直撃はキツいな…………」

「カラッ!!」


熊に味方していた慣性が完全に消え均衡状態に入っていると、アキのすぐ脇からほね太郎が飛び出し熊に一太刀二太刀と次々に切り付けていく。


「グヴァア!!」


浅くだが斬撃が入り痛みに悶える熊は身体を振り回し、身体のあちこちを周りの木々に叩き付けそれらを薙ぎ倒していく。


「ほね太郎こっち!!」

「カラッ!!」


俺がほね太郎を呼ぶ、するとほね太郎は大盾を構えた俺の後ろへと素早く回り込み次の攻撃に備える。


そして大暴れする熊の一撃を盾を滑らせることで受け流す、それによって熊はバランスを崩しこちらへ向けて倒れてくる。


「ほね太郎、目に剣を突き立てろ!!」

「カラカラッ!!」


━━ズシャッ


熊の倒れる勢いとほね太郎の突き出した勢いにより亡国の剣が肉を割く音と共に目に深々と刺さる。


「グオアァァ!!」

「シールドアターック!!」


横たわった熊の目に刺さった剣へ向けシールドアタック━ただ大盾で殴るだけ━を当てる、すると剣はより一層熊へと深く刺さり柄の三分の一まで入っていた。そして次いでにもう片方の目に追いシールドアタックを当てる。


すると、熊は先程よりも激しく腕を振るい、頭をぶつけ、先程よりも激しく木々を吹き飛ばし、薙ぎ倒し暴れだす。


「ほね太郎、絶対に離れるなよ?これは一撃でもまともにくらえば粉砕するね」

「カラ……」

「こんななりでも俺はガーディアンだからな、仲間くらいちゃんとまも━━」


━━ドンッ……


俺が胸にトンッと拳を当てほね太郎に向けカッコつけて言ったその瞬間目の前で暴れていた熊が倒れ地に伏せる。


「へぁ?」

「カラ?」


余りの突然のことにアキとほね太郎は情けない声を出し熊の方を見ていた。


「もしかしてだけど、これで終わり?」


余りの呆気なさに頭の上に?を乱立させるアキ。


「カラカラーーカラッ!!」


そしてそれを気にすること無く熊から剣を引き抜くほね太郎。


「グオアァァ!!」


それと剣を抜かれた痛みで覚醒した熊。


「いや待て待て待て!!まだ終わってないじゃん!?」

「カラカラ?!」


━━ブオオォォン!!


熊の腕が風切り音を発しながらほね太郎を直撃し、それに当たったほね太郎は為す術も無く吹き飛ばされる。


「ほね太郎!!うっぐ?!」


大盾をしまいほね太郎を受け止めるアキだったが、流石に勢いを殺しきることは出来ず一緒になって吹き飛ばされる。


「ぐっああ?!」


そして、アキは吹き飛ばされた先にあった木に背中を打ちつけた。


「うっあぁ、いしき……とび、そー……」

「カラッ?!カラカラ!!」

「あぅあぁ?しん……して、くれて……るの?だい、じょ……うぶ」


ほね太郎の心配そうな様子に俺は笑うと、しまっていた大盾を取り出しそれを杖代わりにプルプルと震える膝に鞭を打ちながら立った。


「まだいけるよ」

「カラ」


アキの様子を見たほね太郎は首を横に振り、足払いをし空中にアキの身体を横たわった状態になるよう飛ばすとそのままお姫様抱っこをする。


「ほね、たろう?」

「カラッ」


ほね太郎はアキの身体をそのまま地面に寝かすと大盾を手に取り熊と対峙する。




互いに相手の出方を伺い、その場に静寂が訪れる。




そしてその静寂を破ったのは熊の方だった。

熊は雄叫びを上げながら愚直に突進を繰り出す、それを後ろにアキがいることで避けられないほね太郎は大盾を使い熊の突進を逸らす。


その時、去り際にほね太郎は剣を横に立て、熊を頭から腰まで一直線に切り付ける。


「グウゥオオオ!!」

「カラ」


熊が雄叫びを上げ振り返る頃には既にほね太郎は熊の眼前まで間合いを詰めており、振り返った熊の鼻目掛けて大盾を使ったチャージを繰り出す。


「グオォ」


弱点である鼻を強打された熊は堪らず身体をのけぞらせ痛みに苦しむ。


「もう、かためも……やれ」

「カラッ」


アキの命令を受け、ほね太郎は大盾を捨て宙に舞うと熊の目に目掛けて急降下攻撃を入れる。


先程と同じような音を立て剣が深々と刺さると熊のがフラフラと身体のあちこちを周りの木々に打ち付けながらドスン、という地鳴りを起こし座り込む。


その姿はもう先程までの凶悪な物ではなく、死を悟り永き眠りを受け容れたものだった。


「なんか、あとあじの……わるいゲーム、だな…………」


アキがそう罪悪感に浸っていると血だらけになった熊が先程のウサギ同様霧散していくのが目に入る。


「ごめんな」


アキはそう言うと熊の元へ千鳥足で近づくと熊の頭を撫で、ゲームであると言うのに熊の冥福を祈った。


暫くし、アキが目を開けると目の前には頭から足まで丸々繋がっている熊の毛皮と熊のものと思われる骨が何本か落ちていた。


熊の毛皮 【Rarity:レア】


ファーストフォレストのBOSSであるアングリーベアーのソロ討伐報酬、毛皮は硬く鎖帷子以上鉄の鎧以下の性能を誇る。


アングリーベアーボーン 【Rarity:レア】


アングリーベアーから取れる骨、武器として加工すると皮や木の盾など軽々と貫通するだろう。


骨、骨か…………


「ねぇ、ほね太郎」

「カラッ!!」


俺がほね太郎にある提案をしようとすると、ほね太郎は親指を上げサムズアップし肯定の意を示す。


「ほね太郎…………よし、満身創痍だけどやってみるか」


暫く休んだことによって体調が戻ってきたアキは熊の素材を寄せ集め始める。


「よし、やるぞ?」

「カラカラッ!!」

「上手くいってくれよ?『サモンスケルトン』!!」


その瞬間素材の真下からゲートが開き、それらを全て飲み込んでしまった。


そして、それと引き換えにゲートから熊の毛皮を被った大きなスケルトンが現れた。

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