ThorPhantomOnline~防御力には自信があるネクロマンサーです~

存在感皆無の人

第1話

ThorPhantomOnlineそれは現在沸騰中の話題なVRMMOの事である。

世界観は中世ヨーロッパとテンプレ物のファンタジーで、選択出来る種族の種類はヒューマンからエルフ、ドワーフといったメジャーなものからマーマン、ゴブリン、オークなどのゲテモノまで多種多様なものから選ぶことが出来る。

更にスキルに関しては組み合わせによって軽く五桁以上に登るとも言われており、NPCも現実の人間と変わらない程精巧に作られていることも相まって巷では”異世界”とまで呼ばれている。


これはそんなTPO異世界に降り立った一人の頭の可笑しいネクロマンサーの話だ。



『ようこそ、あなたはこれから戦神トールが作りだした幻影の世界エグニマスに生まれ落ちる一つの魂です。これからあなたの種族、そして適性を与えます。』


電子的な女性の声がそう言い終えると目の前に半透明の板が出現し色々な項目がびっちりと書いてある。


あんまり気にしてこなかったが何で戦神トールが創った世界なんだ?こういうのって普通ゼウスとかそういうのだと思うんだが……まぁそんな事考えてもしょうがないか。


「名前はアキ、種族はヒューマン、適性は……お、あった。ガーディアンっと。」


俺はその項目を淡々と設定し追えるとアバターの作成に入る。このゲームは先人曰く一日が簡単に溶けるとかなりの高評価なのだが、選択事項を一度決定してしまうと、それ以降は戻れなくなる、というもうちょっとそこ何とかならなかったんかという点がいくつかあるらしい。


んで、アバター作成っと……おおー、アバターの幅広いなぁ。

髪型は……おぉ〜、名称の付いた髪形全般出来るのか。カスタム?


目に付いたカスタムを選択してみると、形や長さ、色、艶、質感など髪の部位ごとに設定でき、この項目だけでやろうと思えば一二時間は余裕で消える程だった。


うっへぇ、凝り過ぎでは?う〜む、カスタムして遊ぶなら女アバターとかで一回作ってみるのもありだよなぁ、その後完全に変えて男アバターでやるけど。


髪型は……ショートにするか、色は銀髪にしておいて……目は翡翠に近い色にしよう。身長は155cm位に、胸はB位、顔は少し幼めで……よし、こんなもんかな。うん、可愛い、美少女だ。


目の前に用意されている姿見の前で様々なポージングをして、自分の作ったアバターに見惚れていると、その瞬間VRから強制的に追い出され現実世界へ引き戻された。


宏幸ひろあきごめん!!」


目が覚めるとそこには幼馴染の美沙希みさきが顔の前に両手を合わせた状態で膝立ちしていた。


「ごめん!!ガーディアンの枠埋まっちゃった!!」

「もう適性ガーディアンにしちまったんだが?!話し合ってたんじゃなかったのかよ?!」


美沙希のあまりに唐突なガーディアン不要宣言に、宏幸は怒る気すら起こらず、困惑の混じった言葉を発するだけだった。


「あぁ、もうガーディアンにしちゃったんだ……。」

「今からちゃんとアバター作るとこだったんだがな、まぁいい……さっさと作ってくるからお前は家に戻って起動してたらいいじゃないか。」

「うーん、そうしておくよ……街の外で待ち合わせね?」

「おうおう。」

「私はサツキってネームで剣士やってるから。」

「わーったわーった。」


俺は美沙希を見送るともう一度VRギアを装着し起動する。

すると先程のアバター制作画面━━


━━ではなく中世ヨーロッパの街並みの中一人突っ立っていた。


「へっ?」


予想外のことに驚き口から声が漏れたのだが、その声を聞き俺はさらに驚いた。


ま、まさかこの高い声って…………俺の声か?!


顔から血の気が引いていくのを感じながら顔をぺたぺたと触り、自分の身体を見回すと━━


━━いつも見ているような少し角張った身体とは違い丸み帯びた柔らかい見た目の小さい身体になっていた。


これはあれだ、あの美少女アバターの身体だ。つまり俺は俗に言うTSっ娘だわこれ。


突き付けられた現実━仮想世界だが━に俺はメニューを開きどうにか出来ないかと色々とオプションを見てみるも何も無い。


これアバター変えられないのか……こういうのって現実と体型が違うと色々と狂うって聞くんだが…………ああー、ほんとだ動きづらい。いつもより手足が短いせいでいつもの感覚で行くと脳で届くと無意識下で弾き出した計算が狂う。


試しにぴょんぴょんと跳ね、壁や物に軽く触れようとするとスカスカと宙を切るだけだった。跳躍力や歩いている感覚は然した違いは無いが、元の身体に対し歩行速度や手足の届く範囲等は著しく低下していた。


はぁ、もういいか…………この調子だと慣れるまで戦闘面はかなりしんどい事になりそうだなぁ。


「嬢ちゃん、そこの嬢ちゃん。その動き、フルダイブVR初心者だな?」


うんうんと唸りながら悩んでいると露店を開いている色黒のスキンヘッドのおっちゃんが話しかけてきた。


「その大盾って事は嬢ちゃんはガーディアンか、フルダイブVR初心者にしては大分キツイのを選んだな。」

「嬢ちゃん言うな、俺は男だ。それと、ここまできちんとしたフルダイブVRは初めてだし確かに言われてみればこれでガーディアンはキツイな。」


おっちゃん嬢ちゃんというワードを否定し、その他に関しては合っているので素直に肯定する。


「馬鹿言え、異性のアバターは弄れるだけで最終的には自分と同じ性別に決められるようになってるんだ。それにさっきの動作確認、身長設定かなり弄ったな?リアルより大小あると戦闘になった時全く動けないぞ。」


いや身長も性別も俺が選んだわけじゃない…………つまりあれか、俺は女アバターを弄っていた時に切られたから誤作動が起きてこのザマって訳か。


「まぁいい、遅れたが自己紹介と行こう。俺はここでろず屋をやってるギラギメルだ、よろしくな嬢ちゃん。」


やれやれ、と首を数度横に振るとギラギメル……おっちゃんでいいわ。おっちゃんは自己紹介と共に、黒い肌とは正反対の白い綺麗な歯を見せながら豪快に笑ってみせる。


「嬢ちゃんじゃない。俺はアキだ、事故ってこの姿になった。」

「なるほど、そういう設定か。いいな!」

「設定じゃない!」


アキの自己紹介にギラギメルはカラカラと笑い、アキの事情説明は設定として流されるのだった。


「んにしても……よろず屋?アイテム屋みたいなものか?」

「いんや、俺の店は武器からジョブにスキルまで何でもあるぞ?」


なるほど、名の通りなんでもよろず屋って事か。確かに薬草っぽいものから武器や防具、そしてよくわからない素材まで置いてある。

だが━━


「━━ジョブまで売ってるのか?」

「ジョブってより秘伝書っつった方がわかりやすいか。このTPOではスキル、ジョブやスキルをアイテム化して捨てたり習得したり出来るんだ。」

「なんか今までにないタイプだな。」

「そうだな、俺も長い間やってるがこんなスキルやジョブのやり取りがあるのはTPOが初めてだ。」


おっちゃんとうんうんと頷きあっているとおっちゃんは虚空から巻物を出すと俺の前にズラっと並べる。


「これが例の秘伝書とやらか?」

「そうだ、初心者サービスって事で500Gで売ってやるぞ?」

「初期配布の半分か……。」

「おいおい、訝しげな顔で見ないでくれよ、弱くて安いやつでも1000Gからなんだぜ?」

「最高額のはいくらだ?」


肩を竦めながら言うおっちゃんに疑惑を抱きながらそう聞くと


「10万Gだ。」

「じゅっ?!」


恐ろしい答えが出てきた。いや、まだこのゲーム始まったばかりだよな?おかしいだろ、10万って。そんなに稼げる金策あるなら是非とも教えて欲しいところだ。


「言っとくがサービスできるのは2000Gまでだぞ。」

「まぁそうだろうな。」


おっちゃんのセリフを流し聞くと並べられたスクロールをマジマジと眺めていく。


剣に炎、弓…………


「これ全部初期のジョブか。」

「おお、ご明察。」

「初期のジョブならこれ一択だな。」


初期スキルのみとわかった俺は迷うこと無く一つのスクロールを指さした。


「お、おい……悪いことは言わねぇそいつはやめとけ。そのジョブで呼び出せるスケルトンは何奴も此奴も弱い奴しかいないぞ?それに使い捨てだからおちおち装備も持たせられん。」

「これで!!フレに頼まれなきゃ本当ならこれにする気だったんだから!!そんな些細な問題関係ない!」

「おう……わかった。」


俺の元気の良い一言におっちゃんは両手を顔の辺りまで上げ気圧された様子で折れると指定したスクロールを渡してくれた。


「そうだ、お金ってどうだすんだ?」

「普通は交渉が成立した瞬間勝手に相手に渡る。だがこのスクロールはタダでやる。」

「え?。」

「在庫余ってんだ、このスキル。それほど外れなんだよ、ベータテスター達がいくら可能性を模索してもダメだったんだ。」


ネクロマンサーというロマンを放置するとは、みんな分かってないな!!マイナーなものだろうと死霊を従えるのは夢でしょうに!!まぁ、ベータテスターさん達が諦めたなら子の扱いもしょうがない気もするが……。


「それとこいつは餞別だ、受け取っときな。」

「おあ、ありがとう。」

「良いってことよ、その指輪はネクロマンサー以外使わないし誰も買うやつがいないからな。インベントリの肥やしを押し付けられた程度に考えといてくれ。」

「お返しは必ずするよ。」


アキが指輪を握って力強く言うと、おっちゃんは肩を竦めながら首を横に振る。


「いいんだ、実際この指輪は貰いもんでな。アイテムの詳細がネクロマンサーをつけてなきゃ見れないときた、俺の知り合いのベータテスター達はこぞって別のジョブを選択したし、ジョブは三つ以上は付けられないから読みようがなかったんだ。」

「なんかその話を聞くとネクロマンサーにとってかなり有用なものなんじゃないかと思うんだが。」

「そうだな、だからこれからネクロマンサーを背負っていこうという嬢ちゃんに渡したって訳よ。」

「なるほどな、この指輪の詳細を調べる為でもあるのか。」


俺はそう言うとスクロールを使い指輪を、右手の人差し指に付ける。


死霊王の灯火 【Rarity:ユニーク】


Str-5 Luk-5

スケルトンサモン時 スケルトンの全ステータス+1

ネクロマンサーのLv×1体のネームドを作成可能


「こんな感じだな。」

「これは、初期にしてはバッドステータスが重すぎるな。」

「いや、ガーディアンだし味方のスケルトンに殴らせれば解決だろ。スケルトンの全ステ+1ってのはバッドステータスに比べて十分な恩恵だと思う。そして何より……」

「「このネームド作成がどういう効果になるか。」」


指輪のテキストに乗っているネームド作成について、アキとギラギメルは互いに人差し指を突き出し声を揃える。


「やっぱりここだよな。ネクロマンサーの弱点と言われているスケルトンの使い捨て、これが無くなれば装備で強化することが出来る。」

「嬢ちゃんも同じ事考えていたか。嬢ちゃんの説明通り、こいつを装備すればバッドステータスは付くが、スケルトンの大幅な強化に繋がる。そしてその装備をしっかりと揃えたスケルトンで戦える。」

「これ、返せとか言われないよね?」

「いや、漢に二言はない。それは嬢ちゃんへの選別だ。しっかり有効的に使ってくれ。」

「そう言って貰えて助かる。」


ギラギメルの発言にアキは口角を引きあげ、ガーディアン兼ネクロマンサービルドの今後の可能性にワクワクしていた。


「ふふふ、これはこれからのTPOが楽しみになる。……おっと、すまんおっちゃん、待たせてる奴がいるから今日はここら辺で。んじゃまた来るな〜。」

「おう、俺は暫くここで店を構えてるだろうから今度はちゃんとなんか買えるぐらいになってこいよ?」

「おうさ!」


俺は笑顔でおっちゃんに手を振ると慣れない身体を走らせ街の外へと駆け出した。



~~~



『ステータスオープン』



アキ Lv1

種族 ヒューマン

メインジョブ


ガーディアンLv1


Str: 2 (-5)

Vit: 4

Dex: 1

Int: 1

Mnd: 2

Agi: 1

Luk: 3 (-5)

SP: 0


サブジョブ


ネクロマンサーLv1


パッシブスキル


Nodata


装備


右腕:Nodata

左腕:初級守護者の大盾


頭:Nodata

胴:新参者の革鎧

腕:Nodata

腰:新参者の革ズボン

靴:新参者の革靴


アクセ


指輪:死霊王の灯火


首飾:Nodata


この指輪が俺の思った通りのアイテムならまさにぶっ壊れ性能なんだよな、もしそうなんだとしたら他のプレイヤーに比べてかなりのアドバンテージになるのでは無いだろうか?ストレングスとラックがマイナス?そんなもん知らん。


さっそく試しに召喚でもしてみるか。

スキル発動のトリガーはスキル名を口で言うか、トリガーとなる動作が必要になる……らしい。


「という事は〜…………『サモンスケルトン』!!」


俺が声高々に叫ぶとその瞬間背筋が凍るような突風が吹き荒れる。

その突風は俺の目の前で小さなつむじ風を起こすとその中心に紫の毒々しいゲートが出現し一体のスケルトンが現れた。


「おお!!」

「カタカタカタカタッ」


召喚に応じたスケルトンは骨を鳴らし膝を着くとその瞳の奥にある青い炎をゆらりと揺らしながら燃やす。


「よーし!!お前は今から『ほね太郎』だ!!」

『死霊王の灯火によるネームド作成感知…………登録完了しました。』

「カラカラッ!!」


俺が指さし大声で名前を言うと、それに呼応しほね太郎が自らの刃こぼれをした剣を天に掲げ嬉しそうに骨を鳴らした。


さぁて、これから俺のTPOでの冒険が始まるんだ!!

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