聖剣、美味しくいただきました ~武器を喰らうスライム&蜘蛛の腕を持つ武器コレクター~

井浦 光斗

第1話 異形との出会い

 硝子に弾かれた氷の音に続き、とても長い溜め息が吐き出される。

 こぢんまりとしたバーのカウンターに腰掛けていた悩める少女は、頬杖をつきながら酒の上で踊る氷をジッと眺めていた。


 毛先にかけて、若葉のように淡い翠色からほんのりと艷やかな紫色へと変わっていく髪、翡翠と間違えそうな程の輝きを抱いた右眼、その容姿は誰が何処から見ても、見惚れてしまう程に端麗だった。


 ただその完璧な美貌をあえて隠すかのように、革の外套が華奢な身体を包み込み、傍から見たら痛々しい黒い眼帯を左目につけていた。


 彼女にとってその眼帯は外すわけにはいかない重要なアイテムだったが、固定観念が災いとなり、しばしば悪い意味で勘違いされることがあるらしい。


「随分と退屈そうジャン。どうしたんダ?」


 ふと本来なら聞こえるはずのない話し声が、彼女の隣でやんわりと響いた。

 酒の準備のため、バーテンダーは席を外れ、バーの客は彼女しかいないはずだった。それなのにも関わらず、その声は静寂に包まれていた店内を木霊する。


 それもそのはずだ。何せその声は人間の声ではないのだから――


 彼女がちらりと右隣の席を一瞥した先、そこには一匹の紅色のスライムが鎮座していた。ジェル状の身体に張り付いたようなつぶらな瞳と口を器用に動かし、怪訝そうに身体を震わせている。


 普通なら、人間と会話する程度の能力を持つのは、ドラゴンや吸血鬼などといった最上級の強さや知能を持つ魔物のみだ。しかし下級魔物の中でも、稀に人間と同等の知能を持った特別な個体は存在する。


 かつ、ひょんなことから喋る力を授かってしまった故に、彼は最弱と呼ばれた魔物でありながらも、人間と対話出来るのだ。


「別に退屈してる訳じゃないわよ。ただ……、いつも以上に疲れただけ」


 驚いたり、怖がったり、不思議がる様子もなく、彼女はスライムの質問に淡々と答える。そしてまた派手に溜め息を吐くと、カウンターの上に突っ伏したのだった。


 世界中に散らばる古代技術の結晶、その一つである太古の武器を探し求める武器コレクター。そんなまだ歳若きハイエルフの少女の名は、ルシアといった。


 自然と共に長い時を過ごす妖精系亜人のエルフ族は、余程のことがない限り、森を出て人里に下りてくることはない。エルフの血が濃いために上流階級とされる、ハイエルフなら尚更である。


 しかし、彼女はその余程の事情で里を抜け出し、人族の世界へと足を踏み入れた。そして今は、聖なる力を持つ武器を探して、各地を放浪する冒険者である。


「ったく、だらしないナ。もっと上品に振る舞えヨ」


 呆れた目の矢をルシアの横顔に射った、スライムの名はラインという。いや、正確にはラインを名乗っているのだ。どうして彼がそんな名前を名乗っているのか、ルシアも知らない。しかし他のスライムと比べ、知能が非常に高いことを踏まえれば、名前があってもおかしくはないだろう。


「今は誰もいないからいいの……」


 黒い手袋をはめた左手で硝子のコップを手にすると、ルシアは残った酒を全て飲み干した。そして、最高と言わんばかりに至福の笑みを口元に浮かべる。


「あっ、そうダ。オレも何か喰いたいから、なんか武器くれヨ」


 何気なく放たれたラインの言葉に、ルシアは露骨に嫌な反応を示した。幸せそうな笑みは一瞬にして消え、口角を引くつかせると彼女はラインを睨みつける。


「それがアタシにとっての諸悪の根源だって、貴方は気づいているのかしら?」

「仕方ないダロ! 人間がご飯を食べたり、寝たりするように、スライムにとって物を溶かしたくなるのは生理現象の一つなんダヨ」

「だからって、武器を指定する必要ないでしょうが……」


 様々な武器が収納されている魔法加工された袋、武具袋を取り出した彼女は、魔法により施錠されている口を開ける。


 そして一本の短剣を取り出して鞘から抜くと、取り皿を添えて、カウンターに飛び乗ったラインの隣に置いた。白銀のブレイドから銀色の液体が滴るその剣を前にして、ラインは目を爛々と輝かせている。


「《清毒のダガー》よ。ブレイドが周囲の魔素を吸収して作り出した毒は、接触するだけで巨大生物すらも麻痺状態に陥れる。無論、食べなんてしたらどうなるか――」


 チラッとラインの様子を見やった彼女は唖然としたまま動きを止めてしまった。

 それもそのはずである。当のラインは平然とダガーの上に乗っかり、ジュッという酸の音と共に瞬く間に《清毒のダガー》を溶かしていたのだから。


「クゥー! やっぱり、仕事をした後の武器の味は最高ダナ。毒が全身に染み渡って気持ちいいゼ……」


 状況を理解できず、硬直状態に陥っていたルシア。

 まさか清毒すらも効かない身体になっていたとは、彼女も思いもしなかった。ふとラインを見やると、彼はこちらに向き直って、怪訝そうに眼を瞬かせていた。


「うん、どうしたンダ? ダガーについて、解説してくれるんじゃないのカ?」

「……もういい」


 ふて腐れたルシアは、ラインから目を背けると、再び不機嫌そうに頬杖をついて長い溜め息を吐き出す。

 実を言うと、彼女の隣にこの武器喰らいが現れたのはつい先日の話である。それからほぼ毎日、ご飯感覚で現代から太古の物まで様々な武器を消化され続け、武器コレクターとしてはもう我慢の限界だった。


 しかし残念ながら彼を手放したり、殺したり出来ないのも事実なのである。今のルシアにとって、彼は言わば生命線そのものであり、欠かせない存在になりつつあった。


 故にそろそろ、本格的に武器を調達する方法を考えなくてはならない。それが悩める少女であるルシアが、今まさに対面している厄介事だった。


「ナアナア、この短剣もっとないのカ……?」

「ある訳無いでしょ!? あれでも太古の時代に作られた、世界に三本しかない最高峰の短剣なの。手に入れるどころか、お目にかかることすら不可能に近い逸品よ!」

「そ、そうなのカ……? そこまで希少な武器をくれなくても良かったのに……」


 ラインはそう言うと、申し訳なさそうにシュンとしてしまった。

 事実、その内の2本は既に海底に沈んでしまっているため、地上にある《清毒のダガー》は先程の一本のみである。そんな最高峰の短剣を彼は一瞬にして、体内に取り込んでしまったのだった……。


 そこまで貴重な逸品をどうして彼の『餌』として分け与えてしまったのか。それには彼だけが持つ能力に関わる深い訳があった。


「アタシは『毒があるから食べれなーい』って言うところを期待してたんだけどなぁ……。それで、ちゃんと変身出来るんでしょうね?」

「勿論サ。これも、あの美味しい聖剣を喰らったお陰ダヨ!」


 自信満々の笑みを浮かべたラインは飛び上がると、全身を白く眩い光で包み込んだ。

次の瞬間、先程ラインが溶かしたはずの《清毒のダガー》が虚空に現れた――いや、正確には《清毒のダガー》に成り代わったラインそのものである。そしてそれは、カランと音を立ててカウンターの上に落ちた。


「ちょっ、危ないでしょ! 清毒が飛び散ったらどうするつもりよ」

「それに関しては大丈夫サ。他の魔法武器と同じで、恐らくオレに攻撃の意志がなければ、毒が生成されることはなさそうダカラ」

「そ、そうなの? でも扱いには気をつけてよね」


 念のために、ルシアは持ち手を水魔法で消毒し、ダガーとなったラインを持ち上げると再び皿の上に置いたのだった。


 溶かして体内に吸収した武器に変化出来る能力、それがラインが持つ力である。

 ハッキリ言って、その力は常軌を逸脱していた。様々な魔法武器を見て回って来た彼女ですら、理解に苦しむほどの規格外っぷりである。

 そんなラインの姿を一瞥した彼女は、一周回って呆れたように肩をすくめた。


「はぁ、何だか貴方って動く武器庫みたいよねぇ」

「棘しか含んでなさそうな言われようダナ。でも強ち間違ってないネ、何ならもっと保管してもいいゼ?」

「遠慮させていただきます」


 カウンターの上でだらけていたルシアは、むっくりと身体を起こすと両頬を強く叩き、気持ちを切り替えた。こんな所でクヨクヨしていては目的を果たせない、それは彼女自身が一番分かっていることだった。


 今は次の狙いである緑青のワンドを、誰よりも早く手に入れることだけに集中しなければならない。

 ルシアは深呼吸をして鞄から、今日の成果とも言えるとある資料を取り出した。緑青のワンドに関する情報と調査の結果、それらが彼女の走り書きで記されている。


「さてと……、明日の作戦会議を始めるわよ。あの武器はこの地域での本命だから、気を引き締めてね」

「了解ダ、任せとケ!」


 皿の上でスライムの姿に戻り、つぶらな瞳でウィンクを決めたラインは、興味津々な様子で資料を覗き込んできたのだった。


   ☆


 旅とは人と人とが紡ぐ物語である。

 時にはかけがえのない仲間と出会い、決して譲ることの出来ないライバルと出会い、対立する考えを持つ敵と出会い――旅は成熟していく。


 そんな旅の中で、武器を集めるルシアと武器を喰らうラインは出会った。

 真っ向から食い違った目的を持つ二人、本来なら敵同士になってもおかしくはないはずだが、どういう風の吹き回しか、二人は手を組むことになったのだ。

 そして二人を引き合わせるきっかけを作り出したのは、とある正体不明の聖剣だった。


 名の知られていないその白銀と金色が形作った片手剣は太古の遺産であり、どんな呪いであろうと解呪し、不治の病をも治す力を宿した聖剣だと言い伝えられていた。しかし、その聖剣を目にした者は今まで誰一人もおらず、聖剣の眠る地にすら誰も足を踏み入れられなかった。


 そんな噂のみの聖剣を数年間かけて探し、見つけ出すことに成功したのが、冒険者にして武器コレクターのルシアだった。

 それをきっかけに、噂だけが根強く残っていたその地域は、一時の活気を取り戻したのである。


 しかし問題なのは――その聖剣の名を誰も知らなかったことだ。何せ、噂だけが独り歩きしていたような聖剣だ。


 名前の情報が皆無なのに加え、その剣が持つ効果すらも真実なのか非常に怪しい。そのため、聖剣発見のニュースは数日の内で鳴りを潜めた。そしてその剣を手にしたルシアは、聖剣の正体を探るため、情報収集の旅を再開したのだった……。


 更に不運なことに、現在ルシアが所持していたはずの聖剣はもうこの世に存在しない。この世に存在しなくなってしまったからこそ、ルシアとラインは出会えた。

 二人の出会いと聖剣の消滅、全てはバタフライ効果が生み出した運命の悪戯だ。


 ――時を遡ること約一週間、そこが全ての転機となったのだ。


   ☆


 その日は、よくある平凡な日だった。

 雷が落ちるわけでもなく、嵐が吹き荒れるわけでもない。空に浮かぶ恒星、太陽はいつもと変わらぬ軌道を描き、心地よいそよ風が平原や森を駆け巡る。人間にとっても、魔物にとっても、とても平和な気候だ。


『気持ちの良い日ダナ……』


 木漏れ日を全身に浴びせながら、ラインは魔物語でポツリと呟いた。そもそもラインという名前は、彼自身が名乗っているものである。 


 本来であれば下級魔物、ましてやスライムに名を付けられる程度の知能など存在しない。性別も存在せず、時が来れば魔素を凝縮させたり、分裂を繰り返したりして繁殖する彼らにとって、名前ほどどうでも良いものはないであろう。


 ただ知能を持った彼を除いては――


 意志を持つ彼にとって、名前はかけがえのない要素だった。他と区別する意味でも、それとは全く別の意味でも……。


 しかし知能が高いこと以外は、極普通のスライムと殆ど変わらなかった。他と違う点を挙げるとすれば、紅色の身体を持つアテネスライムである故に、火属性の魔法を使いこなせた点と――


『こんな日には、片手剣とか両手剣が喰べたいナァ……。見つかればダケド』


 執拗に武器や金属類、無機物を溶かして、体内に吸収していた点だ。

 通常、スライムは繁殖を目的として、様々な物質を溶かして体内に摂取し、栄養分として蓄える。そしてある程度の栄養が集まった所で、身体を分裂させ数を増やしていくのだ。


 しかしどういう訳か、ラインは身体機能の異常により繁殖のできないスライムとして生まれてしまった。加えてその影響なのか、普通のスライムが溶かせるような植物や肉などの食べ物は全く消化できず、逆に栄養分には殆どならない武具を好んで溶かしていた。


『五日連続で石ころは流石に嫌ダナ……。錆びついた物でもいいから、武器が喰べたいヨ』


 人間でいう空腹に悩まされていたラインは身体を震わせると、急いで森へと向かう。


 石や砂状鉄鉱石なら何処にでもあるが、武器や防具と言われるとそうそう見つからない。ゴブリンやオークの持つ錆びた武器を始め、人間が森に捨てていった武器や、洞窟の奥に生成されている水晶などを食べていたラインだが、調達方法の殆どが運任せのため、一週間以上を石ころを食べる羽目になることもしばしばあった。


『何か落ちていたりしないかなぁ。そうすれば、楽なんダケド……』


 しかし、当然そんな都合良く森の中に武器が落ちているわけがない。森に訪れた冒険者が捨てたり、落としたりでもしない限りは――


『アレ……? あそこに何か落ちてる』


 キラリと光った先、無造作に転がっていたのは白銀と金色のブレイドを持った片手剣だった。見た者をたちまち魅了してしまう端整さ、あらゆる邪を寄せ付けない威圧感に加え、派手すぎない装飾が施されたその剣はこの上なく壮麗である。


 究極の剣と言っても過言ではないその片手剣が、偶然にも森のなかに転がっていた……。ここまで不自然な現象は、他に存在し得ないだろう。しかしその片手剣を一目見ただけで魅了され、空腹に耐えられなくなっていたラインは――


『武器ダァァァァァ!!』


 それが片手剣だと確信した瞬間、肉を求める獣の如くその片手剣の上に乗っかった。そして溶解液を分泌させると、早速その片手剣を溶かし始める。


 次の瞬間、ラインの全身を稲妻が走り抜けた。過去に喰らってきた数多の武器を凝縮しても尚、感じた事のない味わいと硬度にラインは驚愕する。


『美味しい……、こんなに美味しい武器を喰べたのは初めてダヨ!』


 感嘆の声を漏らしたラインは、夢中になってその片手剣を溶かし続け、夢の様な時間を過ごしたのだった。


 しかし、それで事は丸く収まらなかった。何故なら、その片手剣もとい正体不明の聖剣には所持者がいるからだ。そして……、ラインが聖剣をある程度溶かし終わった頃に、その所持者は現れたのだった。


「おかしいわね……。こっち側に飛んでいったはずなんだけど」


 茂みの中で、懸命に聖剣を溶かしていた彼だったが、ふとそんな彼女の声が耳に入り、顔をゆっくりと上げた。するとそこには覆い茂った葉の合間から、真っ青になった顔を覗かせたルシアの姿があったのだ。

 

「え……、えっ……? ええええええッ!?」


 絶叫したルシアは血相を変えて、丁度聖剣を溶かし終わったラインを勢い良く持ち上げると、捲し立てる。


「ちょっと、なんでアタシの大事な聖剣を溶かしてるのよ!?」

『…………!?』

 

 突然掴み上げられたラインは驚いたように身体を震わせると、目を瞬かせた。

 近づきつつあった敵の存在に気づかず、黙々と聖剣を溶解させていた彼も、この状況を把握できていなかった。


「それ、アタシが何年もかけて探した剣なの。今よりずっと昔に作られた最高傑作の聖剣なのよ!?」

『そ、そうだったのカ……?』


 ようやく自身がやってしまったことの重大さに気づき、状況を理解したライン。だが既に聖剣は彼の身体の中、今更取り出す事は不可能だった。


「ともかく、今はそれが無いと大変なの……、早く返してよッ!」


 若干ヒステリック気味に、持ち上げたラインを揺さぶるルシア。

 激しい振動がスライムである彼の全身を急激に変形させ、ラインは抵抗する間も無く、平衡感覚を失い、目を回した。しかし、何とか彼女の拘束から抜け出し、茂みの上に落下した彼はルシアを睨むと、必死の思いで反論する。


「そんなこと言われても困るヨ! ジャア逆に聞くけど、君は食べた物を返せって言われて返せるのカ?」

「……か、返せないわ」

「ダロ? 君の大事な剣を溶かしてしまった事は謝るケド……、溶かしちゃった物はもう元に戻らないヨ……。大体、そんなに大切な物なら、地べたに転がさないでクレ! ゴミだって勘違いするダロ」

「あの神聖な剣がゴミな訳無いでしょ!? それにアタシはただ――」


 そう言いかけた所で、ルシアはハッとして目を瞬かせた。そして、茂みの上で流暢に人間の言葉・・・・・を喋っているラインの姿を凝視するや否や、雷に打たれたような驚愕を顕にしたのだった。


「ス……、スライムが喋ってる!?」

「ウェッ!? そ、そう言えば、何で言葉が通じるんダ? オレは魔物語しか話せないはずダゾ」

「何よ、魔物語って……そんな言語知らないわよ。と、ともかく、貴方の異常性は痛いほど分かったわ。それよりも、本当に聖剣を溶かしちゃったの?」


 ルシアの最終確認に、自分の罪を理解したラインは申し訳なさそうに頭部を動かして肯定の意を示す。


 ルシアが落としてしまった聖剣を、お腹を空かせたラインが見つけてしまい、溶かしてしまった。その偶然の積み重なりこそが、聖剣消失事件が引き起こされた主要因である。


 しかしこの事件の元凶は、ルシアの不注意でも無ければ、ラインの異常な習慣でもなかった……。


「……逃げて」

「ニゲ……、テ?」

「今すぐ、出来るだけ遠くに逃げて。さもないと貴方も――」


 刹那、鼓膜を突き刺す爆音が鳴り響き、周囲の木々が不気味な協奏曲を奏でながら折れていく。舞い上がった砂埃が視界を遮り、突如辺りに紫の瘴気が立ち込める。そしてその霧を鋭い爪で払い除けながら、その怪物は二人の目の前に現れた。


 贅肉や筋肉どころか皮すら付いておらず、白骨のみで構成された巨大な体躯。蜥蜴の様な頭蓋骨から覗く青白く燃える眼光がルシア達の姿を捉え、生臭い吐息を漏らす。


 その悍ましき怪物を一言で表すのであれば、白骨化した異形の龍――不死龍スカルドラゴンと呼ぶのが相応しいだろう。


「ナ……、ナ、何だアイツは?」

「もう追いつかれたみたい……。驚いている暇はないわ、さっさと逃げるわよっ」


 ルシアがラインを抱えて走り始めると、不死龍スカルドラゴンは恐嚇の咆哮を轟かせ、殺意を剥き出しにした。そして、駆け出していく二人を睨みつけた怪物は強靭な顎を大きく開き、凝縮された魔素をレーザーの如く照射する。


 凄まじい魔法力はもはや形を纏わず、エネルギー砲と化して襲いかかってきた。青白い光が射線上の物全てを破壊し、ルシア達の背中に迫り来る。


「嘘……ッ!?」


 彼女が振り返った瞬間、二人の視界は蒼白で塗りつぶされた。

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