第40話

全身に力が入らない。

視界もグラグラと揺れている。

頭の中で考えがまとまらず、何をしていたのかさえ、思い出すことができない。

耳元から誰かの声が聞こえるが、聞き取ることができず、ボーッとしていた。

「……様っ…。」

誰かが俺の名前を呼んでいた。

そして突然、体が動き出し、両手が体の前に出される。

その瞬間、両腕から何かが広がり、粉々へ砕け散っていった。

強い衝撃が体に伝わる。

また俺の体は地面を転がり、壁に向かって背中を打ちつけた。

どうして俺はこんな目にあっているのだろうか。

さっきから目の前にいる何かが俺に敵意を向け、攻撃をしているみたいだ。

まだ視界がもやもやとぼやけている。

目の前にいるあの黒い物体はなんなんだ。

黒い物体は俺の目の前まで移動すると触手のようなものを上から振り下ろしてくる。

俺は必死に体に力を入れ、避けようとするがまだ体には力が入らない。

だが、またさっきのように体が勝手に動き出し、触手のようなものを避けた。

誰かが俺の体を動かしているようだ。

「さっ……威勢…どうしたぁっ!!!

今度は黒い物体から声が聞こえてくる。

この声には聞き覚えがある。

俺の全てを奪った男の声だ。

「私……限界が…。」

耳元からそんな声が聞こえてきた。

さっき、俺の名を呼んでいた女性の声だった。

彼女がもしかすると俺の体を動かし、戦ってくれているのかもしれない。

「夏樹様、しっかりして下さい。」

今度ははっきりと声が聞こえる。

彼女は俺の目覚めを待っているようだ。

「…君…は。」

カラカラになった喉で必死に声をひねり出す。

「夏樹様、気をしっかりお持ちください。私一人ではインビンシブルの攻撃を避けることが厳しい状況となってきました。」

インビンシブル…。

次第に頭が回り始め、視界も元に戻っていく。

目の前にいた俺を襲ってきた黒い物体はインビンシブルだった。

凛は意識が混濁している俺をインビンシブルから守ってくれていたのだ。

「すまない…凛、もう大丈夫だ…と言いたいが…体が…動かん。俺はもう自分で体を動かすことができん。」

「…分かっています。夏樹様のお体はインビンシブルの攻撃によりダメージを受け、辛うじて生きている状況です。あと一発でも攻撃を受ければ間違いなく…。」

「そうか…だったら…もう覚悟を決めなきゃ…いけないな。…凛……車の中で言ったこと…覚えてるよな…俺の…体を…お前が……動かしてくれ…。」

「……本当にやるのですか?」

「もちろん…俺は覚悟を決めたんだ。それにどのみちこのままじゃ…何もできずに死んじまう…それじゃ…今までのことが無駄に…なっちまうだろ…それなら…俺は…。」

もうどうなってもいい。

このまま何もせずに奴に殺されるぐらいなら俺は…やらなきゃいけない。

「分かりました…私に…命令を。」

凛はゆっくりと俺の体を起こしあげると俺は凛に指示を出す。

「凛、やってくれ。」

「……分かりました。…私は貴方と…夏樹様とこうして最後まで戦えたことを誇りに思います。」

少しだけ涙腺が緩む。

「ああ…俺もお前と同じ気持ちだよ。それじゃっ、最後に……無駄な足掻きを彼奴におみまいしてやろうぜっ。」

「はいっ!!!」

俺と凛は最後までインビンシブルへと立ち向かっていく。

すでに俺の体はボロボロとなり、一人では動かすことができない状態へとなっていたがそれでも俺達は諦めず、目的を果たそうと走り出す。

凛は俺の体を必死に動かし、奴の攻撃を避けていく。

結局、最後まで凛に頼りっきりになってしまう形となってしまった。

最初の頃は本当にただのポンコツとしか思わなかったが今では凛は最高のパートナーへと変わっていた。

彼女がいなければ俺は目的も達成することができずに死んでいただろう。

「凛…ありがとう。」

そんな言葉を俺は口にしていた。

凛は何も言わずにいたが、彼女に俺の気持ちは届いたと思う。

だがそんな凛にも限界は訪れた。

凛は俺の体を動かすことができずに俺はインビンシブルに一発入れられてしまった。

結局、俺はインビンシブルには勝てなかった。

奴の攻撃をくらい、未来のカプセルの前へと吹き飛ばされる。

もう凛でも俺の体を自由に動かすことはできなかった。

それどころかもう俺自身も意識を保つのが厳しくなってくる。

どうやら…ここまでみたいだ。

「凛……最後に……お前が…。」

「…はい。」

凛は返事をすると右手をゆっくりと上げていく。

「貴様っ…何をするつもりだっ。」

「俺の……目的は……お前を倒すことなんかじゃ…ない。未来を…解放することが…目的だ。だから…その目的を…果たすんだよ…。」

俺の言葉を聞いたインビンシブルは俺の考えに気づき、すぐに俺の元まで走ってくる。

「まさかっ、やめろっーーーー!!!!!!」

「やめねーよ…馬鹿野郎。」

俺はそういうと右手を凛が鳴らしてくれた。

その瞬間、この時の為に戦いながら設置していた爆弾が爆発を始める。

インビンシブルは爆発の連鎖を断ち切ろうと未来の元へと走るが、連鎖は止められない。

未来の入ったカプセルは爆発の炎に巻き込まれ、音をたてながら壊れていく。

カプセルに繋がれていた管が外れていく、そして未来の体を守っていたカプセルのガラスも割れ、未来の体が外へと飛び出した。

爆風により俺の体も吹き飛ばされ、俺は未来の方を向き、必死に手を伸ばそうとする。


『ありがとう、お兄ちゃん。』


そんな言葉が耳に入る。

「悪かったな…助けて…やれなくて。」

俺の言葉が届いたのかは分からないが未来の顔が笑っているようにも見えた。

最後に俺がインビンシブルへと発した言葉はただの強がりだ。

本当は奴を倒して、未来をちゃんと弔ってやりたかった。

だが、それは叶えることができずにこんな形で未来を解放してしまった。

結局、最後まで俺はカッコの悪いままだった。

インビンシブルは未来が炎に包まれていくのをずっと膝を地面につけながら眺めていた。

これで奴はもう未来を利用することができない。

ただ、まだ美樹の力を利用しようとは考えるだろう。

だがもう俺には美樹のことは守ることなどできない。

あとは美樹自身が奴から生き抜くしかないんだ。

あの子が一人で奴と立ち向かい生きていく。

きっとあの子なら…それが出来るはずだ。

何せあの子は未来のそして俺の血を流した女の子だけ。

あの子ならきっと……。

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