第30話

………俺は…どうなったんだ。

ゆっくりと目を開けると部屋の天井が視界に入る。

俺は心のアジトの中にある自分の部屋のベッドで横になっているようだった。

首を動かし、時計を見ると12時を針が指していた。

ただ、アナログ時計だから昼なのか夜なのかは分からない。

体を起こすと部屋を見渡す。

特に変わっていることはないようだ。

確か…俺はデパートの廃墟の中でフレアと…。

俺はすぐにメモ帳を取り出すと中を開き、あの時に書いた言葉が残っているかを確認した。

確かに落ちていきながら俺は風花と書いていたはずなのだが、メモ帳には何も書かれてはいない、

ということはこの世界は俺がいた世界とは別の世界…なのか。

部屋で考えていても仕方がないと思った俺は扉を開け、廊下へと飛び出し心の元へと向かった。

あいつならもしかすると何か分かるかもしれない。

心の元へ向かっていると突然、後ろのドアが開かれる音が聞こえた。

「あら…夏樹さん。」

聞いたことがあるようなないような声が聞こえ、振り返ると見たことのない女性が立っていた。

「……お前は…誰だ。」

「………何を言っているのかしら。」

女性は首をかしげると俺の方へと近づいてくる。

「いや……誰なんだ…お前は…。」

「ねぇ…それ本気で言ってるの?」

今まで心のアジトにいて眼鏡をかけ、地味な格好をしたこんな女性の姿は見たことがない。

だが、女性の方は俺と話したことがあるようだった。

「…名前は…。」

「……ねぇ本当に…大丈夫なの?何かおかしなものでも食べた?」

「いや、いいから名前を教えてくれないか?」

そう言うと彼女は少しムッとし、口を開く。

「私の名前は羽田翼、これで思い出せた?」

名前を聞いてもピンとは来ない、本当に彼女は俺の知り合いなのだろうか。

「…まったく分からん。お前は新しく入った心の仲間か何かか?」

「残念ながら彼女とは昔からの付き合いで、新しく入ってもいないわ。私は前からここにいたわよ。あなたとあの怪我してた科学オタクの女の子のオタクちゃんに…あとあの口煩いスピードのガキもいたわね。最近は美樹ちゃんもここにきたわよね。」

どういうことだ、彼女は昔からここにいただと。

それに今こいつ…。

「美樹がこのアジトにいるのかっ!!!」

「えっええ、この前、ボルトから取り返したじゃない。あなた本当に大丈夫なの?」

どういうことだ、美樹はあの時にフレアといたはずだ。

それなのにどうしてボルトの名前が出てくるんだ。

「美樹は…美樹はどこにいるんだっ。」

「どこって…あの子の部屋よ。部屋の場所ぐらい分かるでしょ?」

「………。」

「まじ…。…まったく、なんで分からないのよ。はぁ…着いてきてくれる。」

彼女はため息を吐くと肩を落とし、めんどくさそうに案内を始めた。

本当に何が起きてるのか、考えられることはあの時に美樹はきっと力を使ったのだろう。

そして風花が目の前から消えた。

あの時に美樹は何を変えたのだろうか、風花の存在を消したのか、それとも別の何かをしたのか、どっちにしろ………待てよ、この女はさっき風花の名前を出さなかった。

それは何故なんだ。

風花は心と病院で会った時にここへスピードと一緒に連れて来られているはずだ。

それなのに何故、名前が出て来ない。

まさか…。

「羽田……さん、聞きたいことがあるんだが。」

「何でさん呼び……気持ち悪いわね…。まぁいいわ、それで何なの?」

「お前はさっき俺と一緒に来たのは科学オタク…ジョウとスピードだと言ってたが…もう一人フルフェイスのマスクを装着した少女は来なかったか?」

「…いなかったけど、ってかそんな女の子は見たこともないわ。誰なのそれは?」

「いや…そんなはずはないだろう。風花って名前の女が一緒に来てたはずだろ?」

「……そんな女の子の名前聞いたことないわ。あなた本当に大丈夫なの、部屋に戻ったら?」

もし俺の考えが正しいものだとしたら…。

一刻も早く美樹にあって真相を聞かなければっ。

「風花……そんなに気になるのなら後でオタクちゃんに聞いといてあげるわ。私よりもずっと一緒にいたあの子なら分かるかもしれないでしょ。っていつのまにか部屋を通り過ぎてたわ。美樹ちゃんの部屋はあそこの部屋よ。それじゃ、私はその女の子についてオタクちゃんに聞いて来てあげるから。」

ヒラヒラと手振ると彼女はジョウの元へと歩いて行った。

結局、彼女は誰だったのだろう。

いや、今はそんなことよりも美樹に聞かなければならないことがたくさんある。

俺はドアに手をかけると勢いよく扉を開け、中へと入る。

中では心が風呂上がりの美樹の髪の毛を櫛でとかしている最中だった。

「きゃっ…って何、夏樹じゃない。どうしたのよ。」

「少し美樹と話したいことがあるんだ。」

「だったら、私は出て行ったほうがいいかしら?」

「いやその場にいてくれ。」

今から話すことは心にも聞いといて欲しかったため心を残らせる。

「分かったわ、それで何の話?」

「話を始める前に…美樹、お前に聞きたいことがある。お前はどこまで覚えている?」

「………。」

美樹は何も言わず、それどころかこちらを見向きもしないでいた。

そんな彼女の態度に腹を立て、俺は美樹に叫んだ。

「美樹、こっちを向いて答えろっ。」

「うるさいな……覚えてるよ。だって、美樹が力を使ったんだから…けど、どうしておじさんが覚えているの?」

「そんなことは重要じゃない。お前は風花をどうしたんだ。あいつは俺の目の前で突然、姿を消した…あれはお前の仕業なんだろう。」

「そうだよ、美樹は力を使ったの。偉そうに美樹にお説教をしてきた風花さんに。きっと今頃、風花さんは美樹に感謝してるはずだよ。だって、風花さんを美樹は助けたんだから。」

「貴方、それ本気で言ってるの?」

心が美樹の言葉に突っかかる。

どうやら心も事態を把握したようだ。

「本気だよ、だって美樹の力は何でもできるんだから。」

「ふ…ふふふっ…はっはははっ。美樹…お前…ふざけんなよっ!!!!」

俺は心を払いのけ美樹の肩を掴み、壁へと押しやる。

「誰がそんなことをしろと望んだっ、誰がお前に助けてほしいと願ったっ。誰もそんなことは望んじゃいなかっただろうっ。あいつは過去を乗り越えて生きて来たんだ…それなのにお前はそれを無駄にしたんだぞっ!!!」

「それの何がダメなことなのっ、暗い未来か明るい未来、どっちを選ぶかなんて答えは決まってるでしょっ。そんなの明るい未来のほうがいいに決まってる。だから、美樹は風花さんの未来を明るくしたの。おじさんはそんなことできないでしょ。おじさんはただ口でしか、言うことができないのっ。実行することなんかできない、けど美樹は違う。美樹はそれができるのっ!!!」

「馬鹿野郎っ、お前は何も分かっちゃいないんだよっ。お前の力は確かに凄い力だっ。だが、力に溺れて神の真似事をするのは間違ってるって言ってんだよ。お前はただのクソガキだっ、神なんかじゃないっ。」

「おじさんは何にも分かってないっ、何にも分かってないのっ。美樹はただ人を幸せにしたいだけなのっ、それ以外じゃ力なんて使わないっ。美樹は人が幸せになるように力を使うのっ!!!!」

「その力で風花が幸せになったと思うのか…分かってないのはお前の方だ。」

美樹の身体から手を離すとジョウから通信が入る。

どうやら風花の居場所が分かったらしい。

そして嫌な予感は的中してしまった。

俺は美樹の手を掴むと部屋を飛び出し、廊下を歩いていく。

「ちょっ…おじさん、どこに連れてく気っ!!!」

「黙ってついてこい。」

俺はそれだけ伝えるとパジャマ姿の美樹を車へと無理矢理、乗せると俺も運転席に乗り込んだ。

「私も行くわ。」

いつの間にか隣には心が座っていたが俺は彼女を降ろすことはせずに車を走らせる。

美樹は目的地へと着くまでずっと不貞腐れていた。

こいつには分からせなければいけない。

自分の力がどれほど危険なものなのかを。

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