第23話

物音が聞こえ、ゆっくりと瞼を開ける。

目に入ってきたものは心のアジトの屋根だった。

俺は…帰ってきたのか…。

確かあの時に敵の一人に眠らされた筈だ、なのにどうして自分がここに帰ってくることができたんだ。

「目が覚めたようね、良かったわ。」

隣には心が腕を組み、深刻な顔をして座っている。

「何で俺はここに…。」

「私がここまで貴方を運んできたのよ。感謝してほしいぐらいよ。」

「他の奴らは…。」

「………分からない。あの場にいたのは貴方だけだったから。」

「そんなはずはないだろっ、あの場には風花やスピードがいたはずだっ。」

「いえ、私が駆けつけた時には貴方しかいなかったわ。」

風花達は連れ去られた、それしかない。

だったら、早くあいつらを助けに行かなければ。

「奴の居場所を教えろ…みんなを取り戻す。」

「教えたところでそこまで辿り着けるわけないでしょ。少しは頭を冷やしなさい。」

だが、こうしている間にも彼奴らがどんな目にあっているか分かったもんじゃない。

「貴方の気持ちは分かるわよ。だけど、無理なのよ。きっと彼女達は奴らの本拠地で捕まってる。わざわざ助かった命を捨てに行かせるわけないでしょ。」

「なら、彼奴らを見捨てろってことか…そんなこと俺にはできない。彼奴らは俺の仲間なんだよ。それなのに放っておくわけには行かないだろ。」

「貴方は美樹を取り戻すことだけを考えていなさい。他の人のことはその後でいいわ。」

どうしてこいつはこう冷静でいられるんだ。

「美樹のことだけだと…ふざけるなっ。どうしてお前達はそこまで美樹にこだわるんだ。あの子の力は一体どれほどのものなんだよ。」

心へ向かって怒鳴り声をあげると彼女は静かに立ち上がり、棚から取り出した書類を投げつける。

「読みなさい。そこには美樹の力のことについて書かれているわ。貴方が知りたがっていた力についてね。」

机の上の書類の表紙には何も書かれておらず、書類を手に取ると俺は書類を静かに読み始めた。

そこには衝撃的なことが書かれている。


美樹、彼女にはとんでもない力が備わっている。

その力はこの世界を滅ぼすほどの大きなものだ。

彼女はまだそのことに気づいていないがこれからその力について彼女は知ることになるだろう。

未来予知、現実改変、そして父であるインビンシブルジャスティスのすべての力を彼女は引き継いでいる。


「未来予知…現実改変、それから父親がインビンシブルだと…嘘だろ。」

俺が一番驚いたことは力についてのことではない。

美樹の父親についてのことだった。

あの子の父親は俺の憎むべき相手…インビンシブルだった。

「そこに書かれていることは全部、真実よ。彼女の本当の父親が誰かわかったのよ。あの子の父親はヒーローのリーダーにして、貴方の憎むべき相手…インビンシブルだったのよ。貴方の妹、未来さんは彼と恋に落ち、生まれた子供が美樹なの。あの子はまだ力に関しては何も扱うことはできない。けどね、あの子が力の使い方を知ったら?この世界を変えるほどの…いや、滅ぼすほどの力を持っている彼女を悪用されたら?だから、彼奴らには渡してはいけなかったのよ。」

頭がいなくなってきた。

インビンシブルが美樹の父親…それから未来の夫だと…。

俺にはとてもじゃないが信じることなんかできなかった。

「信じてもらえなくても結構よ。貴方は彼女を取り戻してくれたらそれでいいの。」

「もしこの資料に書かれていることが本当のことなら…俺が殺そうとしていた相手は…美樹の父親なのか。」

「えぇ、思い返してみなさい。彼奴の言動にそれらしいことは言っていなかった?」

今になって思い返すと思い当たる節がいくらかある。

だけど、本当に…。

「………正直…知りたくなかったな。それじゃ…俺は彼奴の父親を殺そうとしていたのか。」

「そうよ、だけどそれは私達にとっては重要なことじゃないの。一番、大事なのは美樹の力を使って奴らが何をしようとしているのか…それが一番大事なことよ。」

「どうせ、世界を征服するだとか…そんなことだろう。」

「ありがちね…けどそれは違うわ。フェザーが私達に残した言葉覚えてるかしら?」

「確か、彼女は生きている…だったか。」

「えぇ、その彼女が誰か教えてあげる。それは「まさか…嘘だろ。」

「えぇ、そのまさかよ。未来さんは生きてるの。」

そんなことがあるわけない。

未来はあの時に死んだんだ。

「死体は見たの?」

「いや…見てはいない。だが、あの時に瓦礫の中から死体が見つかったって。」

「えぇ、見つかったわ。だけど…それは未来さんじゃなかったの。あの死体は別の人のものよ。」

何が何だかわからない。

未来は生きていて、あの死体は違う人物だっただと。

だったら、未来は今どこにいるんだ。

「決まっているでしょ、奴らの本拠地よ。今から貴方に映像を見せるわ。これは…私が手に入れたものよ。」

心はそう言うとパソコンの画面に映像を流した。

そこには信じられないものが写っていた。

「未来…。」

カプセルのようなものに入れられ、眠っている未来の姿が写っている。

そしてそのカプセルの前にインビンシブルの姿が写っていた。

『もうすぐだ…マインド、よくここまで協力をしてくれた。お前のおかげでとうとう、美樹を手に入れることができたんだ。これで何もかもが元に戻る。私はやっと平穏な生活へと戻ることができるんだ。』

『……美樹はこれを望んでいるの?私にはそうは見えないけど…。』

『いつかあの子も分かってくれる。彼女も本当の母親に会いたいはずだからな。これは私達、家族が望んでいることなんだよ。』

『そう…なら、貴方が仲間に言っていた世界の平和を取り戻すって言葉は嘘だったのね。みんな貴方のことを信じてここまできたというのに。』

『いや、違う。私がやろうとしていることは世界を変えるほどのものだ。きっと彼奴らもそれを望んでいるだろう。』

『そうには見えないけど……。まぁ、後は貴方のやりたいように進めなさい。私は用があるからもう行くわね。』

そこで映像は終わってしまった。

だが、映像を見ていて思ったことがある。

これはマインドの視点を写しているものだ。

さっき心はこう言っていた。

私が手に入れた映像だと。

こんな映像は本人じゃないときっと手に入れることなんて出来ないだろう。

「まさか…お前…。」

「えぇ、その通りよ。私がマインドと呼ばれてるヒーローよ。私は彼奴らの情報を得るために内部にフェザーとともに送り込まれた。そして私の力は彼に認められ、今では彼の右腕として私は行動をしているの。あの時に貴方を助けたのは私なの。」

「お前…だったら何で他の奴らを助けることができなかったんだっ。俺なんかよりも彼奴らを助けてやれよっ。」

「馬鹿ね、貴方じゃなきゃダメだからに決まってるでしょ。貴方が全てを終わらせるのよ。未来さんを助けて、美樹を救う。それはあの子達じゃなくて…貴方にしかできないことなの。」

俺にしかできないことだと…。

ふざけやがって…。

「俺はっ!?」

「大変ですっ。入り口に正体不明の何かが猛スピードで近づいてきていますっ。」

突然、ドアが開かれ、見たことのない女が心へとそう伝えていた。

「敵襲?…今すぐに戦闘態勢に入って。話ならその後に聞くわ。」

俺は拳を握ると心達の元を去り、入り口へと向かう。

俺なんかに何ができるんだ。

入り口に着くと煩わしい警報が鳴り響き、何かが近づいてきていることを知らせている。

俺は銃を手にすると入り口へと向けた。

そして、すぐに心も俺の隣へと並び、銃を構える。

入り口が徐々に開いて行くと侵入者が姿を現した。

「へへっ…少し…逃げ出すには…厳しかった…かな。」

現れたのは怪我をし、ボロボロの状態のスピードだった。

「スピードっ!!!」

俺は急いで怪我をしているスピードの近くへと駆けつける。

スピードの肩に手を置くと彼は息を切らしながら俺の元へと倒れかけてきた。

「ごめん…美樹のことは…連れもどせなかった…だけど、彼女は…何とか救い出せたよ…。」

スピードの背中には風花がいた。

風花はマスクを取られ、素顔を見せたまま、眠っているようだ。

すぐに心はスピードから風花を受け取り、俺はスピードの体を支えた。

だが、彼の足は崩れ、地面へと倒れて行く。

「おい、お前…足がっ…。」

「…ちょっと色々あってね…そんなことよりも…彼女に怪我は…ないかな。」

「えぇ、多少は傷はあるけれど、貴方よりは全然軽傷よ。そんなことよりも今、救護班を呼んでくるからっ。」

「そっか…それなら良かった。やっぱり…僕も…捨てたもんじゃないね…へへっ…。」

「もういい、喋るな。今は大人しくしてろ…なっ。」

奴らの元でどんな目にあったのか分からないが、スピードの体は傷だらけだ。

足なんて…肉が削がれ、骨が見えてきてしまっている。

こんな状態でここまで逃げてくるなんて奇跡としか言いようがなかった。

「僕は…大人しくなんて…できないよ。そのせいで…よくみんなに嫌われるんだから…けど…それでもいいんだ。こうして…初めて…人の役に立つことができたんならね。」

「分かったから…話なら後で聞いてやるから…だから、今は休めっ。」

スピードの体がどんどん冷たくなって行く。

このままじゃこいつは…。

「そうだ…この子が起きたらさ…言ってくれよ。君を助けたのは僕なんだって…。これで…ボルトなんかよりも凄いってことが…伝わるだろ?」

「そんなの自分からちゃんと伝えろっ、お前の言葉で話してやれっ。だから…絶対に死ぬなよ。」

「何言ってんだ…よ。こんなの…へっちゃらさ…。だけど…少しだけ…疲れたからさ。」

このまま寝かせてしまったら二度とこいつが目を覚まさないような気がした、だから俺は必死にスピードに話をかける。

だが…彼のまぶたは次第に閉じていく。

そして、彼は何も話さなくなり、動かなくなってしまった。

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