第21話

「…あの女…信用しても良いのかい?」

「さぁな、今は…利用されていよう。どっちみちジョウを直してくれているんだから。その間だけでも言うことを聞いておかないと…何をしてくるかわからんからな。」

「………。」

俺達は心のアジトで何日かを過ごし、その間に武器と防具を手に入れ、準備を済ませた。

そして今はアジトにあった車を借り、ボルトの居場所へと向かっていた。

「それよりも彼奴のことをお前は知ってるんだろ?何処で出会ったんだ?」

「それが話せないんだよ。彼女のことを伝えようとすると言葉が出なくなるんだ。」

「それも彼女の力が関係してるのか?」

「……。」

スピードスターは頷いていた。

話すことは出来なくても反応をすることはできるようだ。

「それよりも逆に彼女と君が何処で出会ったのか僕は知りたいよ。あの女は だぜ。」

「……なんて言おうとしたんだよ。」

「悪口も言えなくなってるよ…。」

まぁ言葉が話せなくてもこれからの生活に支障はないだろう。

それよりも風花はさっきから一言も話していないがどうしたものか。

「風花?お前はどう思う?」

「………。」

無視か…。

マスクを被ってるせいかボッーとしてるのか、それともわざと無視をしてるのかこれじゃ、分からない。

「お嬢さん、ボスがお呼びだよ。」

「………気安く話しかけないでください。虫唾が走ります。」

「……怖っ。」

スピードはそう言うと俺の方を見てくる。

俺は肩をすくめ、どうしようもないと彼にサインを送った。

こいつは何でここまで女性に嫌われているのか。

「風花…どうした。さっきから様子がおかしいが…。」

「何でもありません。それよりもそのボルトとか言うヒーローの情報をお願いします。」

とても普通には見えないがまぁ、本人が何もないって言っているのならそれで良いだろう。

「んじゃ、僕が説明するよ。ボルトは……自身の中に大量のエネルギー…電気を溜めてそれを自由自在に扱うことができるんだ。だから、動きも僕と同じくらいに速いし、強いよ。」

「つまり…貴方の上位互換ということですね。」

「はぁぁっ?違うよっ、彼奴よりは僕の方が何倍も強いから…まぁ…戦ったことがないから分からないけど。」

また厄介な相手を選ばれたもんだ。

今回は毒も使えなさそうだし、どう戦うか。

「他に情報は?」

「…さぁね、僕…あんまりみんなに好かれてなかったから、フェザーぐらいしかつるんでなかったし。」

多分、それはこいつがなんでも話すバカだからフェザーからしても情報を得やすかったんだろう。

要するに友達ではなく、ただ利用されていただけだろうな。

「どう戦いますか、夏樹。」

「………。」

相手は体の中に電気を溜め込んだ人間。

心からもらった資料によると自分では電気を作り出すことができずに他の電気を使った道具から電気を得て、それを扱って戦っているとのことだ。

だったら、その電気が無くなるまで奴と戦い続けるか…だが、奴が一体、どれほどの電気を体に溜め込んでいるか分からない。

そうなると持久戦になるが…。

俺は正直、歳だからあまり長くは動けないしな…。

「心からもらったこの資料によるとボルトは自分からは電気を作り出すことはできないらしい。だから、彼奴の中の電気を空っぽにまでさせて、奴が電気を補充する前に叩く…と行きたいところだが…電気なんて今じゃ、どこでも手に入れられるからな…。」

「まっ…そう簡単には行かないよね。けど、もしその作戦でやるのなら僕が彼の囮をやるよ。この中で僕よりも速いやつなんていないだろ?それに僕は彼の下位互換ではないしねっ。」

今のいいからしてさっきの風花の言葉をスピードは根に持っているようだ。

なんだか、こいつが嫌われている理由が少しだけ分かってしまった。

「…それならば、私と夏樹は遠距離から攻撃、そして彼は囮としてボルトの注意を引きつける…ということでよろしいですか?」

「そうだな、心からあまり時間をかけるなと言われているし、今回ばっかりはそれで行こう。ただし、無茶はするなよ。」

「…分かってるよ。」

そんなに簡単に行くとは思ってはいないが、念のために他の案も考えておこう。

そう考えていると突然、車のエンジンが止まり、うんともすんとも言わなくなった。

「なんだ…。」

鍵をひねるがエンジンがかからない。

「夏樹…どうやら…降りた方が良さそうだ。」

「はっ…!?」

顔を前に上げた瞬間、体が車の外へと吹き飛ばされる。

「ぐっ…。」

「さてさて、今回のお相手さんは…全身黒づくめが二人と……もう一人は…見たことがある顔だねぇ。」

目の前には稲妻の模様が描かれたスーツに身を包んでいる男が立っていた。

こいつの姿は資料で見たことがある。

こいつは俺達が今から会いに行こうとしていたボルトに間違いない。

「大丈夫かい…二人とも。」

車の中から助けてくれたのはスピードだった。

あの一瞬でこいつは俺達の体を車から引きずり出したんだ。

「すまない、助かった。」

「いいよ、お礼なんか。それよりもどうする?これじゃ、作戦も何も無いけど。」

「……いや、手筈通りで頼む。お前が奴の気を引け、その間に俺とノーネームで援護する。」

「…りょーかい。」

返事をするとスピードは手に嵌めたグローブを確かめ、俺達の前から姿を消した。

「ノーネームっ。」

俺の声に頷いた風花は俺とともに奴から距離を取る。

「何を考えてるか分からないけど、やらせるわけにはっ!?」

「喋りすぎだよっ。」

奴の背後からスピードが現れ、攻撃をくらわせようとする。

だが、ボルトも速さでは負けてはいない。

スピードの背後に素早く回り込み、反撃をしていた。

「ノワール、狙えますか?」

「いや、無理だな。下手をすればスピードごとやってしまうかもしれん。ノーネームは?」

「彼ごとやってもいいのなら…行けます。」

「何っ、物騒な会話をしてるんだよっ。けど、僕のことなら大丈夫。やってくれっ。」

そういうことなら。

「本人からも許可が出た。ノーネーム、やるぞっ。」

「了解。」

風花は指をパチっと鳴らし、両手に炎を纏う。

俺も心から渡された銃を手にすると二人の元へと向けた。

だが、二人の動きを目で捉えることができない。

「くそっ、これじゃ狙うことができんな。そっちはどうだ。」

「…私も同じですね…いっその事、二人まとめて消しとばしますか?」

「ちょっとっ、今、すごい物騒なことが聞こえたんだけど…本当に僕を援護する気があるのかいっ!」

あるにはあるのだが、姿が分からないからどうしようない。

「…やりますか。」

風花の方から小さな声が聞こえ、俺が許可する前に目の前で大きな爆発が起きた。

「おわっ!?」

爆発による爆風で思わず、顔を背ける。

風がおさまり、前を見るとそこにはボルトが倒れていた。

ボルトの周りを確認するがスピードの姿がない。

「君は僕を殺す気なのかいっ!!!」

スピードはあの一瞬でどうやら爆発を逃れ、俺たちの方へと逃げてきていたみたいだった。

「いえ、貴方なら避けるだろうと思ってやったことです。」

「なっ…もし僕が逃げ遅れていたら?」

「……その時は…その時です。」

「君ねっ、本当に「いい加減にしろ、怪我も何もしてないんだからいいだろ。ほら、奴を連れて帰るぞ。」

二人の間に割って入り、二人を黙らせるとボルトの元へと近づく。

一瞬、奴の体がピクッと動くのが見え、俺はすぐに銃を構える。

だが、それよりも速く奴は俺の目の前から消え失せた。

胸騒ぎがする。

俺はすぐに後ろの二人へここから逃げるように伝えようと後ろを振り返った。

だが、そこには二人の姿はなく、別の人物が立っていた。

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