第17話
「触れられたら…能力が発動するのだろう?ならどうやって戦うんだっ。」
「これ、あのアジトに落ちてたよ。」
スピードスターはリモコンほどの大きさをした黒い棒状のものを渡して来た。
「これは?」
「知らないよ。スイッチを押せば何か分かるんじゃない?」
スイッチを押してみようとしたがもしものことがあるかもしれない。
だから念のために先の穴の開いた方をスマイルへと向け、スイッチを押す。
すると穴から黒い刃が出てきた。
「これは…刀か?」
「さぁね。けど、それで奴と戦えるだろう?」
確かにこれから直に触れなくても済む。
ジョウの奴、こんなかっこいいものを作っていたなんてもっと早く言ってくれよ。
「ほら、今度はこっちから仕掛けるよ。」
「ああ。」
突然、ズキっと頭が痛み、俺は頭を抑えた。
何だか頭の中に声が聞こえてくる。
「貴方は私のもの。さぁ、一緒に楽しみましょう。」
急に目の前が真っ暗になり、見えていたはずのスマイルやスピードスターの姿が見えなくなる。
「スピードスター、どこに行ったっ!!!」
状況が分からず、俺はスピードスターの名前を叫んだ、だが返事は返って来ず、暗い道を真っ直ぐに歩いていく。
一体、何が起きているんだ。
「こっちだよ。」
真横からスマイルの声が聞こえ、刀を横へ振るう。
だが、そこには何もいなかった。
「俺に何をしたんだっ!!!」
「こっちを見て。」「ほら、こっちだよ。」「こっちこっち。」「もう、こっちだってば。」「ねぇ、どこを見てるの?」「ちゃんとこっちを見て。」
四方八方から奴の声が聞こえ、気がつくとスマイルが何人も俺の周りを囲み不気味に笑っている。
「こっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっち。」
四方八方から奴の声が聞こえ、頭が痛くなり、耐えきれなくなる。
そして不安や恐怖といった感情が俺の中で増幅していき、俺は思わず、叫んでしまった。
「やめろっ!!!!」
ねぇ、誰と話をしているの?
私はこっちだよ。
顔を上げると目の前にはスマイルが座り込みこっちを見て嘲笑っていた。
足が勝手に歩き始め、奴の元へと近づいていく。
体の中から黒い感情が生まれる。
そしてそれは手や足へと侵食を始め、心までもが狂気に染まり上がる。
「俺の…俺の中に入ってくるなっ!!!」
必死に自分の体を押さえ込み、歩みを止めとようとするが侵食は止まらない。
殺したい…目の前のあいつを血で染め上げ、殺してやりたい。
頭の中はあいつをいかにどうやって殺すか、そんなことしか考えることができなくなっていた。
一歩、また一歩とスマイルの元へと近づいていく。
近づいていく度に心臓が脈を打つ。
殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいコロシタイ。
自分でも止めることができないほどに殺人衝動に駆られ、どうしようもできなくなってしまった。
そして奴の目の前に来ると刀を振り上げる。
「はぁ…はぁ…はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁっ!!!」
思いっきり俺はスマイルへと刀を振り下ろした。
だが刀は見えない何かに突っかかり、スマイルの元へは刃は届かず、頭の上で止まった。
「どうしたの?あと少しだよ?」
俺は刀を動かそうとするが完全に見えない何かに挟まり、抜くことができずにいた。
そして、また目の前のスマイルの姿は消える。
「何をしてるの?」
後ろから声が聞こえ、振り返ると後ろにいるスマイルへと襲いかかる。
「ウワァァァァァッ!!!!」
だが、スマイルの動きは素早く、なかなか攻撃を当てることができない。
そして、スマイルは大振りの隙をつくと顔面に拳を入れる。
あまりの衝撃に耐えきることができず、後ろへとのろけるとスマイルはすかさず、俺の足を払った。
「…を覚ませっ!!!」
そんな声が聞こえたと同時に腹部に痛みが伝わる。
「かはっ。」
「たくっ…目覚めたかい?」
「ここ…は?」
辺りを見渡すとさっきまでの景色は消え、元の景色へと変わった。
「何が…あったんだ。」
「一度触れられたら終わりなんだ。君は今、奴のおもちゃになってたんだよ。ほら、あれを見て。」
スピードスターの指を指す先にはジョウが眠っている。
そしてその頭の上には刀が突き刺さっていた。
「あれは…俺が?」
「ああ、君のことを何度もとめようとしたんだけど、その度にスマイルに邪魔されて…あの木ががあって助かったよ。君が彼女を殺さなくて済んだんだから。」
「奴は…?」
「君を止めようとしている間に逃げられたよ。それよりも大丈夫かい?顔色が悪いけど。」
とんでもないことをしてしまうところだった。
あの木がなかったらジョウは今頃…。
「本当に大丈夫かい?」
「…ああ、そんなことよりもお前は名無しを探してくれ。彼奴は今、フードの男と戦ってる。お前が助けに行け。」
「…分かった。すぐに戻るよ。」
スピードスターがいなくなると俺はすぐにジョウの元へと駆け寄る。
だいぶ時間がかかってしまったせいか、ジョウはぐったりと動かなかった。
「ジョウっ。待ってろよ…すぐに助けてやるからな。」
腹部を見ると切り傷が出来ている。
おそらく、スマイルによるものだろう。
俺はすぐにジョウの傷口を上から押さえ止血をするがそれでも血は止まらない。
このままじゃ、こいつは本当に死んでしまう。
「戻ったよっ。」
後ろからスタッと音が聞こえた途端、声が聞こえた。
振り返るとそこには名無しを担いだスピードスターが立っていた。
「ジョウを今すぐ近くの病院へ頼むっ。このままじゃっ、こいつはっ。」
「分かったっ。」
スピードスターは俺に名無しを渡すとジョウを担いで姿を消した。
「な…つき。」
名無しの体から焦げ臭い匂いがする。
スーツを見ると所々が焼け、そして彼女にも切り傷が出来ていた。
だが、ジョウに比べればまだ酷い傷ではなく、これなら俺にも治療ができそうだった。
そしてすぐに名無しの手当てを始める。
「ジョウや美樹のこと…申し訳…ありません。」
「心配するな。お前のせいじゃない。」
「ですが…必ず、連れてくると私は…。」
「ジョウなら大丈夫だよ。彼奴は俺並みにしぶといからな。美樹のことについてはまた後で作戦を練ろう。」
俺がそう言いながら傷を治療している間も名無しは一言も話さず、ただ、俯いていた。
ジョウが傷を負ったのも美樹が連れ去られたのも全部俺が何も考えていなかったせいだ。
スピードスターのGPSのことに最初から気づいていればこんなことにはならなかった。
「…ぐすっ……うっ…うぅっ…。」
名無しからそんな声が聞こえたが、俺は気づいていないフリをし、傷口を手当てする。
彼女に何があったかは分からない。
だけど、それを不器用な俺には慰めることは出来なかった。
考えてみれば名無しの素顔や加工していない声を聞いたことがない、もしかするとこいつはまだ幼い子供なのかもしれない。
「…なぁ、あのフードの男。彼奴はお前の…なんなんだ?」
「………。」
「スピードスターにあの男のことを聞いた時に言っていたんだ。お前から聞いた方が早いって。お前はあの男のことを知っているんだろ?もし、話してくれるのなら話してほしい。」
名無しは俺の言葉を聞くとポツリポツリと言葉を話していく。
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