第3話

「着いたぞ…おいっ…また寝てるのか…。」

何だかやけに静かだと思っていたら、こいつは涎を垂らして寝ていた。

少しは警戒心を持ってほしいものだ。

「ほら、起きっぼ!?」

いつまでも寝ている美樹の肩を掴んだ途端、目の前に拳が現れた。

まさか、こんなことが起こるとは思わなかった俺はそのまま鼻から拳を受けてしまい、思わず悶絶する。

「がっ…はぁ……くぅ…。」

とんでもない痛みだ…。

しばらく何もできずに鼻を押さえていると何事もなかったかのように美樹は隣で起き出した。

「ふぁあ……ん?おじさん…何してるの?」

「………。」

いいパンチだ。

これなら寝込みを襲われる心配はいらないかもしれない。

「…着いたから降りろ。」

「んーなんだかわからないけど分かった。」

なんだかわからないのは俺の方だ。

起こそうとした途端にパンチを放ちやがって…。

だが密かに心の中ではこれからは彼女を不用意に起こすのはやめようと決めていた。

鼻を押さえながら車から降りると彼女は俺の家を見てポカーンと口を開けたまま突っ立っている。

「邪魔だ、早く歩け。」

「ほぇ〜ここがおじさんの家なの?」

「ああ、だから早く進めって。」

初めて俺の家に来る奴らはみんなこうして口を開けて、バカみたいな顔で家を眺めていた。

そんなに俺の家が変なのか、俺的には気に入っているのだが。

「人は見かけによらないね。」

「なんか言ったか?」

「別に〜。」

絶対にこいつは今、俺に対して失礼なことを言った気がする。

そんなことを考えていると彼女はいつのまにか家に上がり、中を眺めていた。

俺も彼女の後をついていくと家の中へ入る。

すると、すぐに携帯から着信音が聞こえてきた。

携帯の画面を確認するとそこにはジョウと書かれている。

もしかしたら、頼んでいたものが完成したのかもしれない。

「悪いが、少し席を外す。絶対に中にある物に触れるなよ。それとお前の部屋は二階の奥にある客室と書かれた札がドアに吊るされた部屋だ。そこで大人しくしてろよ。いいか、絶対に家の中を歩き回るなよっ。」

何度もしつこく美樹に言うと美樹は怪しい微笑みを浮かべながら分かったと言って部屋へと走っていった。

何だか嫌な気がするが電話に出なきゃいけないために美樹のことを放っておくことにした。

「もしもし、俺だが。」

「遅いっ。何回、私に電話をかけさせるつもりだっ。これでは研究の時間が減ってしまうだろう。ってそんなことは良いんだ。早く、私の家に来いっ、お前に見せなければならないものがたくさんあるのだ。いいか、早く来いよ。」

電話に出ると彼女は俺が喋る隙を与えずに電話を切った。

ジョウといい、美樹といい、自分勝手すぎる。

だが、これで武器は揃った。

早くジョウの元へ急がねば。

だが、あの子を一人でここに残すのは得策ではない気がする。

何をするかわからないじゃじゃ馬だ。

きっと酷い状態になっているかもしれない。

だが、美樹に構っている暇などない。

悩んだ結果、俺はジョウのことを優先することにした。

取り敢えずは美樹に書き置きを残しておくが、果たして彼女はこれを読んで大人しくしていてくれるのだろうか。

不安はあったが、俺は家を出ると車に乗り、ジョウの元へと走らせる。

ジョウの研究所は少し離れた場所にある、その間に美樹の母親から受け取った資料にでも目を通すことにした。

車をマニュアル操作からオート操作へ切り替えると資料を手に取り、読み始める。

本当に便利な世の中になったものだ。

今ではこうして車は勝手に目的地へと走ってくれる。

車間距離、スピードなど勝手に判断して走ってくれるのだ。

この機能のおかげで事故率は減ったようだが、あいも変わらず、煽り運転やスピード違反は減らすことはできなかった。

結局は自分で操作をするのが一番早く目的地へとつくためだ。

まぁ、そんなことはどうでもいいか、今はあいつからもらったこの資料に目を通さなければ。

資料の中には何人かのスーパーヒーローについて書かれていた。

中にはヴィランについてのこともあったがそれは後で見ることにしよう。

一人目は俺の狙っているストーンについてだ。

身長190cm、体重86、意外にも普通の人間と同じような記録だな。

気性が荒く、自分勝手、そして調子に乗りやすい。

犯罪経歴、婦女暴行、殺人未遂。

元々は軍人だったが、女遊びや頭に血が上りやすいことで有名だった。

そして、事件を起こし、軍人を退職。

その後、酒に溺れる生活を送っていたが突然、力に目覚め、今に至る。

まったく、前科者を何故、ヒーローとして扱うのか、俺には理解ができないね。

能力は…皮膚やを石のように硬くすることができること、それとおまけに能力を使っている間は寒さや暑さにも耐性がある。

そんな相手にどう戦うか…。

もういっそのことロケットか何かに乗せて宇宙空間にでも飛ばしてみるか。

ストーンの他にもぱらぱらとページをめくり、目を通す。

他にもフェザー、アクア、フレア、マインドなど沢山のヒーローの情報が書かれている。

こいつらもきっと何か悪さをしているに違いない。

「目的地へ到着しました。」

一通り資料に目を通すとちょうど目的地へ着いたようだった。

外を見るとボロボロの小屋が目に入る。

俺は車を降りると小屋へ向かって歩き、中へ入ると壁にかかっている何も入っていない額縁を横へずらし裏にあるボタンを押す。

すると、大きな音がなり、床が開くと中から階段が現れた。

どういう考えで奴はこんな馬鹿げた研究所を作ったのだろう。

真っ白い壁の中を歩き続ける。

こんなところに住んでいて頭がおかしくはならないのだろうか。

いや……もうなってるから住んでるのか。

「動くなっ、ゆっくりと両手を上に挙げて壁の方へ歩けっ!!!」

突然、背後から頭に銃が向けられる。

この声には聞き覚えがある。

「はぁ…ふざけた真似はやめろ。それで…武器はできたのか?」

「ふふふっ、私を誰だと思っているんだ。もちろん、出来ているぞ。早くついてこいっ!!!」

背後にいたジョウは何事もなかったかのように俺を通り過ぎていく。

ああやって銃を向けるのはジョウ流の挨拶らしい。

俺以外の奴にもあれをやっているのか尋ねたことがあるがその時は、

「お前だけだよ、なんて言ったて私の元へ客人は来ないからな。」

と言い、笑っていた。

要するにぼっちらしい。

「これを見ろ、どれから説明して欲しいっ?」

机の上には銃のようなものと丸いボールのようなものが雑に置かれている。

「これは?」

パッと机の上を見るとハンドガンほどの大きさをしているが銃口に三つの爪のようなものが付いている銃が目にはいる。

不思議な形をした銃だ。

手に取り、試しに壁の方へ向ける。

「馬鹿っ、あっちの部屋で試せっ!!!」

ここで撃って見ても良かったが、ジョウがそれはもうすごい剣幕でこっちを見てくるもんだから大人しく向こうの部屋へと移動した。

部屋の中に入ると机の前にマネキンのようなものが置かれ的のようになっている。

「いいか、銃の上の部分にスイッチがあるだろ?そこを手前に引け。」

言われた通りにスイッチを手前に引くとキュイーンッと音が鳴る。

「よし、それで狙いを定めながらトリガーを離さずに引き続けろっ。」

銃を的に向け、引き金を引き続ける。

すると銃にメーターのようなものが現れる。

全部でメモリが五つあり、メモリが全部溜まると震え始めた。

「メモリが溜まったら、トリガーを離せっ。」

両手でしっかりと銃を支え、トリガーを離す。

その瞬間、銃の反動により体が後ろへと吹き飛ばされた。

ドンッと背中から壁にぶつかるが体の痛みを我慢し、的の方を確認するとマネキンが粉々に砕け散っているのを確認する。

これなら…奴らを倒せるかもしれない。

「ふむ…反動が大きいな…これでは戦闘中に撃つのは……だがこれ以上、威力を下げてしまうと…。」

「…はぁ…はぁ。大丈夫だ…このままでいい…これだけの威力がなきゃ、あいつらを相手に出来ないだろ…。」

「あまり大丈夫そうには見えないがお前がそれでいいならそうしよう。……だけど、ブーツの方を少しだけ改良した方がいいかもな…。」

「それで、最初に押したスイッチはこの銃の電源でいいのか?」

「いや、それはモードを切り替えるものだ、今は単発型、一発がでかいモードだ。もう一つはスイッチを銃の方へ奥へ引くと拡散型に変わる。拡散型とは…そうだな、ショットガンのようなものと言えば分かりやすいかもな。」

「有効射程は?」

「一応は両方とも50m以内だが、遠ければ遠いほど威力は下がる。だが、安心しろ。ちゃんと長距離型も用意してある。」

彼女はそう言うとゴツゴツとしたライフル型の銃を取り出す。

「こいつなら600m以内ならいけるはずだ。だが、その小型の銃よりも威力は大きいからな、考えて使えよ。」

「こいつらに名前は?」

「…名前は…そうだな。小型の方はミョルニル。狙撃型はブリューナク。二つとも神話から「長いな、却下だ。」

「それならレイとピアスでいいだろう。これなら馬鹿でも覚えれる名前だ。」

「レイと…ピアスか…。何だがあまり兵器らしくはないが…それでいいだろう。それでこいつらの仕組みは?」

「この二つの銃は一言で言えば光学兵器だな。トリガーを引き続けるとエネルギーが溜まり、離すことによって銃の横に開いてある穴から空気が入り、中で二つが反応して爆発を起こし、エネルギーを外へ放出する。まぁでも五十発程しか撃てないからな、まだまだ改良の余地はありそうだ。後こいつは電力で動いているんだ。だからもちろん、中の電気がゼロになったら使えなくなる。その時はまたここへ戻って来いよ、そうしたら私がフルチャージしといてやるからさ。」

使った後はこいつの研究所に毎日寄らないと行けない訳か、それは少し面倒だな。

「っと話しすぎたな、他の武器は後で説明してやるよ。それよりもこっからが本番だぜっ。お前も絶対に気にいる物が出来たんだ。ついてこいっ。」

こいつには武器以外には何も頼んでいないはずだが何を見せたがっているのだろうか。

先を歩いて行くジョウの背中をついて行くと、さらに奥の部屋へと連れていかれる。

そこには大きなカプセルのようなものが真ん中に置かれていた。

「見てろよっ、これは本当にカッコいいものが出来たんだっ。」

ジョウは鼻息を荒くしながら機械を操作していた。

そして部屋の真ん中にあるカプセルが開き始める。

中から現れたものはヒーローが着ているコスチュームのようなものだった。

ただ一つ違うのは奴らの着ているダサいタイツでは無く、プロテクターのようなアーマーが付いており、メカメカしいできに出来上がっている。

「これは?」

「決まっているだろ?お前のコスチュームだ。これで私もヒーローの仲間入りが出来るなんてな。ついに私も日の目を浴びることができるんだ。」

「待て、お前は何を勘違いしてるんだ。俺はヒーローになんかになりはしないぞ。俺がやることはヒーローを捕まえることだ。悪さをしているヒーローをな。」

「もちろん、知っているぞ。だがその行為も見方によったら、ヒーローみたいなものだろう。今、流行りのダークヒーローとかアンチヒーローとかと同じようにな。」

「何を馬鹿なことを…。俺は絶対にこんなコスチュームなんて着ないからな。」

「ならお前は何の防具もなしに奴等と戦うつもりなのか?このコスチュームは特殊なカーボンやチタンなどによって作ったものなんだ。銃などで撃たれたとしても痛みなんか感じない。ヒーローによっては火や氷などで攻撃をしてくるものもいるだろう?だがこのコスチュームなら問題ない。さらには機動性のことも考え、俊敏に動くこともでき、ある程度の高さからなら飛び降りることもできる。何故ならこのブーツにも銃と同じような装置が付いておりそれを作動させることで衝撃波を出し、ほんの少しの間なら宙に浮くことも可能だ。ヒーローの攻撃なんかもこれを着ていたらきっと効かない…はずだ。」

話を聞いているとこのコスチュームが如何に凄いものなのかが伝わってはくるがこんなものを着たくはない。

「一度着て見てくれ、そうすればきっと良さに気付くはずだ。」

彼女は俺の体を無理やりアーマーの方へと近づける。

近づいた途端、シューッと音がし、パカっとアーマーが真ん中から二つに分かれて行く。

その中へ入っていくと開いていた部分が閉じ始め、ピッタリと体へ吸い付き、簡単にアーマーを着ることができた。

「これは…。」

軽い、思っていた以上にアーマーが軽く、それに動きを制御されることもない。

はっきり言ってこれは凄い。

だが一つ気になることがある。

「これは…持ち運ぶことができるのか?」

「………あっ。」

どうやら機能性のことだけを考えていたらしく、他のことは何も考えてはいなかったらしい。

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