第4話

「うわぁ……」


 時刻は午後9時30分。


 春希は、死神を連れて、よく行く神社に景色を見に二人でここまで歩いて来た。近くに明かりはなく、周囲は闇に染まっている。


「綺麗でしょ」


 春希が死神に言った。


「うん!」


 死神が子供のように嬉しそうに答えた。


「この神社のから見る星空はね、ぼくが唯一何かを感じられる場所なんだ。と言っても、綺麗だなぁ……くらいのことだけど……」


 そう言って春希は空を見あげた。

 ――やっぱり、この空はいつまでも変わらないなぁ……。まるで、ぼくの心を映し出しているみたいだ。


 そうやって、横になって空を眺めていると、春希はいつの間にか眠っていた。

 死神もわざわざ隣に移動して、横になった。

 そして、星空を眺め続けた。何故か飽きなかった。星空に目を奪われたような感覚だった。

 2時間もすると、春希は起きた。


「ここは……あぁ、そうか」


「おはようございます」


「おはよう、死神さん」


 春希は腕時計を見た。時計の針は11時過ぎを指している。


「よし……帰ろうか、補導されちゃうし」


 春希が死神に言った。


「……補導されるのは春希さんだけですけどね」


 そう言って死神は微かに笑った。

 春希も釣られて笑った。

 春希は気づいていない。自分の中に、感情が生まれ始めたことを……。


 ひとしきり笑いあって春希は立ち上がった。

 そして歩き出す。家に帰るのだ。

 死神も春希についていく。


 「……春希さん、楽しそうでしたね」


 帰り道、死神が春希にそう言った。

 春希は、


「そうかなぁ……」


 と言って肩をすくめてみせた。


 その後も、他愛ない話をしていると、やがて家に着いた。


 春希が鍵をあけ、家に帰る。死神もあとに続く。


「綺麗でしたね」


 死神があの星空を思い出すように言った。


「そうだね、明日も行く?」


 春希が死神に尋ねた。


「はい! ぜひ行きたいです」


 死神が嬉しそうに答えた。


 その後のことは春希はほとんど覚えていない。覚えているのは、死神との他愛ない会話をしたことと、お風呂や夕食を食べたことなどは覚えているが、内容までは忘れてしまっていた。


 やらなければいけないことをしていると、あっという間に午前一事になってしまった。

 ――時間が立つのが早く感じるよ。

 春希は思った。


「おやすみ、死神さん」


 そう言って、春希は自分のベッドに入り、目を瞑った。


「おやすみなさい、春希さん」


 少し遅れて死神が返事を返す。


 ――なんだか、死神さんが隣りにいることが当たり前のように感じてきた。


 出会って二日目、一週間と説明され一日目、春希は早くも、死神の存在を認め始めていた。


 こうして、一週間のうちの、一日目が終わった。

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