学園のマドンナとVRMMO同棲生活 ー Wisdom Online ー

ブリル・バーナード

第1話 勇者と魔王

 

 様々な光が煌めき、レイドボス『グラトニースライム』に魔法が直撃する。HPはあと少しで1割を切りそうだ。


 物理攻撃無効、魔法攻撃耐性、自己再生、吸収。厄介な能力を持つグラトニースライムは数々のプレイヤーを屠ってきた。多くのギルドやパーティが壊滅し、当時の最前線の攻略組60人の精鋭が2時間以上かかってやっと倒せた強敵だ。それでも生き残ったのは10人ほど。


 今度は空から雷撃が落ちる。グラトニースライムは少しひるんだ。だが、それも一瞬のことで、即座に攻撃者に反撃する。溶解液や毒液、吸収された魔法がプレイヤーに降りかかる。数多の攻撃が魔法を放った魔法使いに届く前に、一人の剣士によって全て斬り裂かれ消滅する。プレイヤーたちは無傷だ。


 今回グラトニースライムに挑んでいるのはたったの2人。魔法で攻撃する少女と少女を守る騎士のような剣士の少年だ。

 少年は呆れ顔で剣を構え、少女はブツブツと何か呟いており、その言葉には怒気が含んでいる。


「気持ち悪い。何が『俺のものになれ』ですか。最悪。あんな言葉で女の子が恋に落ちるわけがないでしょ。あぁ、考えれば考えるほど頭にきた」


 少年は少女の言葉を聞きながら、じゃあ考えなければいいのに、と心の中で思ったが口に出すことはない。怒りの矛先がこちらに向くことは経験済みだ。

 少女の怒りは収まらない。


「それに何ですか、あの体を舐めまわすのような視線は。早く死んでください!」


 言葉と同時に放たれた魔法がグラトニースライムに直撃し、とうとうHPが1割を切る。グラトニースライムは一瞬小さくなり、すぐに膨張する。膨張とともに今まで受けてきた攻撃を全て放出する。今回はほとんど少女の魔法でHPを削っているため、膨大な魔法が繰り出される。


 常人では捌ききれない魔法の弾幕を剣士の少年はことごとく斬り捨てる。驚異的な反射神経で斬って斬って斬りまくる。まさに神業だ。

 そんな少年を気にも留めず、少女は口を動かし続ける。


「なぜ男どもが私を見るとき胸を見てがっかりするんですか! そんなに大きい胸が好きですか! これでもCカップはあるんです! 男の口から出るのは巨乳巨乳巨乳巨乳。そんなに巨乳がいいんですか! 先輩はどうなんです!? おっぱいは大きい人が好みですか!?」


「えっ、ちょっ、待って、い、今忙しい後にして」


 突然話を振られ、魔法を斬り落としていた少年は少女の言葉に動揺し、少し剣筋が乱れる。それも驚異的な反射速度で修正すると再び集中する。だが、少女がCカップという情報は心と記憶の深ーいところに刻み付ける。そんな少年の反応に少女はがっかりしたのか、ため息をつく。


「はぁ、これだから男は。後で聞きなおしますからね。それにしても今日告白してきた男は気持ち悪かった。キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ」


 魔法の弾幕から少女を守り切った少年は、うわぁ、と思わず声を出す。キモイがゲシュタルト崩壊しそうだ。少年に守られているうちにMPを回復した少女は攻撃を繰り出す。そして、グラトニースライムのHPが残りわずかとなった。次で最後の一撃だ。

 少女が可愛い声を出す。


「先輩なんか死んじゃえ♡ エクスプロージョン!」


「ちょっとまてええええぇぇぇ!」


 少年は悲鳴を上げるが、もう遅い、視界が真っ白に染まり、轟音が轟き、爆風が吹き乱れる。少年は少女をかばいながら必死に剣を振る。爆裂の魔法で生じた爆風と熱は魔法の一部とみなされ、剣で斬ろうと思えば斬れるのだ。ただ、卓越したプレイヤースキルが必要になる。


 少年が全てを斬り、防ぎきった後、目の前にはグラトニースライムの姿はなくクレーターが広がっていた。あたり一面吹き飛ばされ、無事なのは少年とその後ろだけ。


 二人の頭上に『Congratulations!』という文字が浮かび、リザルト画面が目の前に表示される。

 少女は怒りを全て放出したのかすっきりとした表情だ。


「ふぅー。すっきりした」


「おい! 頭のおかしい爆裂後輩。俺は紙装甲なんだぞ。殺す気か!?」


「やだなぁ。先輩のこと信頼してたから魔法放ったんですよ。それに使ったのは『爆裂エクスプロージョン』じゃなくて『超新星スーパーノヴァ』です。間違わないでください」


「お前『エクスプロージョン』って言ってたじゃないか! それに何が『先輩なんか死んじゃえ』だ! 可愛ければ何でも許されると思うなよ!」


「えっ? 先輩、私のこと可愛いって思ってたんですか?」


「えっ・・・いや、あの、言葉の綾っていうか・・・」


 思わず出た本音を指摘され、動揺する少年。そんな少年をニヤニヤしながら見つめる少女。どこか嗜虐的な雰囲気を醸し出してる。


「変に否定すると逆に怪しいですよ。それに本音っていうのは無意識に口から出るものですから、ね! 私のことを可愛いって思ってる先輩!」


 少女の顔が輝いてる。少年は否定したいけれどできない。なぜなら、少女は、男子が振り向かずにはいられないほどの美少女だからだ。かと言って、可愛い、と言ってしまえば、またからかわれるし負けた気分になる。どうやって話を逸らすか必死に考える。だが有効手段を思いつかない。


「あれー? 先輩無視ですか? もっと可愛いって言ってもいいんですよ」


 少年は一つの打開策を見つけた。少年はやられたらやり返す主義だ。多少自爆をしても。


「あー、かわいいかわいいー」


「何ですかその棒読みは! 気持ちを込めてください」


 その言葉を待っていた。

 少年は少女の手をつかみ体を引き寄せる。そして、突然のことに驚き固まっている少女の耳元で囁く。


「かわいいよ・・・」


 そう囁いた後、すぐに少女から離れ、後ろを向く。恥ずかしすぎて顔を見れない。ゲームの中なのに体が熱い。そこまでリアルに再現しなくてもいいのに、と思う。

 しばらくしても後ろの少女は何も反応しない。彼は後ろに向けて言葉をかける。


「あー。そろそろ家に帰るか?」


 言葉は返ってこない。無視された、と思ったら急に腕をつかまれる。そして腕を組んだまま引きずられる。

 ふと見ると、少女の耳は真っ赤に染まっている。そんな少女から発せられた言葉が少年の耳に届く。


「・・・ばか」


 少年は軽く微笑み、引きずられるように歩きながら、二人は帰路についた。




 『友達以上恋人未満』



 それが『Wisdom Online』で


 勇者と呼ばれる魔法使いの少女 アストレイア と


 魔王と呼ばれる剣士の少年 スプリング の関係





 『友達以上恋人未満』で両想い。

 これは、お互い相手の気持ちを知っているのに付き合わない二人の物語。



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