第2話水たまりをのぞいたらそこは異世界でした~金髪碧眼の王子様に一目ぼれしちゃいました・2


―レヴィン王子視点―





「釣(つ)れませんね~~」


「……たいくつだな」


釣竿(つりざお)を放置し、ボクは草のうえに寝ころがる。


その日ボクは、従者(じゅうしゃ)を連れ領内にある湖で釣りをしていた。


「はぁ~~、いい若者が女も酒もないところで、昼間から男同士で釣りをするしかないとわ……」


従者(ドミニク)のいつものグチが始まった。


「言うな、ボクだって釣りの相手がおまえで飽きあきしているんだ」


むくっと起きあがり、従者をジトリとにらむ。


数メートル先にいるドミニクは、ブサイクではない、どちらかといえば美男子の部類に入るだろう。


肩まで伸びた少しくせのある赤い髪、オレンジ色の瞳、ややたれ目だが、目鼻立ちの整った顔。


ボクの護衛(ごえい)というだけあり、長身の筋肉質な体つきで、町を歩けば女の方から寄ってくる見目(みめ)のよさはある。


しかしやはり男だ、むさ苦しさがあるし、毎日見ていると飽きる。


「それに文句を言うならボクの方だ。おまえはボクのような高貴で美しい人間と毎日釣りができて名誉(めいよ)だろうが、ボクは毎日おまえのだらしのない顔を見なければいけないのだぞ」


「自分のことを美しいとか言いますか?」


ドミニクがあきれた顔で言う。


「事実だろ」


「たしかにレヴィン王子は、今は亡き母君ゆずりの美しい金色の髪に、エメラルドのように輝く緑の瞳、女の子のよいに可愛らしい顔の持ち主で、体格も男にしては華奢(きゃしゃ)で、女装したら絶対に似合うでしょうし、同じ空間にいると目の保養にはなりますが」


「ケンカを売っているのか?」


従者の歯に衣着(きぬき)せぬ物言いに、カチンときた。


誰が女顔だ、誰が女装が似合う華奢な体格だ!


「ですがレヴィン王子がいくら女の子のように綺麗(きれい)な顔をしていても、本物の女にはかないません! ひまつぶしに女の子を数人呼んで宴会をやりましょうよ!」


ニヤニヤしながら、ドミニクが言う。


まったくこの従者は、状況も考えず、よくもそんな軽口をたたけたものだ。


「ボクを殺す気か……?」


ボクの言葉に、ドミニクが真顔にもどる。


自分で思っていたり、声のトーンが低く、目付きが鋭くなっていたようだ。


「やっぱり、二人でまじめに釣りをしましょう」


「そうだな」


竿をつかみ、餌をかえ、再び池に釣糸をたらす。


それからしばらく、ボクもドミニクも無言でいた。


湖を渡ってくる風の音だけが耳に届く。


ボクの名前はレヴィン・ギュンター=イオニアス。


イオニアス国の第一王位継承者にして、現国王の唯一の弟であり、シェーンフェルダー公爵家の当主だ。


こう書くと聞こえはいいが、ようは兄の血のスペアだ。


ボクはいま、この国で非常に微妙な立場に立たされている。


現国王である兄が、亡き父に代わり王に即位したのが十年前。


兄は即位すると同時に、数々の粛清(しゅくせい)を行った。


前国王の側近で悪政を強いていた官僚たちを次々に排除し、新たに才能の有るものを登用(とよう)した。


そこまではよかったんだ、そこまでは……。


兄が父の側室と、その子供を皆殺しにするまでは。


親族間による王位をめぐる争いを無くすために……。


父の側室七人、腹違いの王子八人、腹違いの姫六人が惨殺(ざんさつ)された。


ボクが助かった理由は三つ。


一つ目は、ボクが兄と同腹(どうふく)の兄弟だったこと。二つ目は、ボクがまだ幼かったこと。そして三つ目が、兄に子供がいなかったこと。


ボクは兄に万が一のことがあったときの、血のスペアとして生かされた。


ボクが選ばれたのは兄に愛されていたからではない。腹違いの兄弟より、同腹の兄弟の方が、血のスペアにするのに都合がよかったからだ。


仮に兄に子供がいたら、ボクもあのとき腹違いの兄弟たちと一緒に殺されていただろう。


同じスペアなら、同腹の弟よりも、実の子がいい……兄はそういう人だ。


兄が即位して十年、兄には正室の他に側室が十二人いる、だがいまだに子を成(な)した者はいない。


あるとき誰かが「王に子ができないのは、十年前に粛清された側室と王子様方のたたりだ」と言いだした。


そのうわさは瞬く間に広がり、城や王都にとどまらず、国境をこえ周辺の国々にまで流れた。


兄はたたりをおそれたりしない人だ。


しかし側室はたたりをおそれていると聞く、兄に子ができるまではボクが殺されることはないだろう。


イオニアス王国において、王が子宝に恵まれないものは、不吉なこととさるている。


即位した当時、兄はまだ二十三歳。


いままで「王はまだお若い、時間がたてばお子を授かるだろう」「正室との相性が悪い、側室を迎えれば必ず子ができる」と民を説得してきたが……。


即位して十年、兄も三十三歳になる。そろそろ限界だろう。





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