乗り物の話

心の梟

第0話 移動手段

 此れは誰でも知っているはずだが、あえて冒頭に書いておこう。言うなれば、導入というものだ。人の家の玄関先。門前で家主の程度を図るないしは、勝手な先入観を植え付けるfirstimpression《第一印象》と言うもの。

 だが、まあ。そんなものはどうでも良いことだ。冒頭として、誰でも知っているだろうことを書き添えますよ、と宣言しておきたかっただけなのだから。

 ーーさて本題、の一歩手前としての質問だ。

【人は、どうして歩くのだろうか?】

 この問いに明確な答えはあるだろう。簡単で簡潔で簡易なものが、確かにある。

 かといって、一般として世に広まっている進化論を確かめたい訳ではないし、人が歩く為や走る為に二足歩行が出来るものへと肉体を進化させた訳ではないことを再確認するためでもない。

 そもそも、人の肉体はこと移動に関していうなら、退化し続けていると言って過言はないだろう。二本の足で走る人間より、四本の足で駆け抜ける動物の方がより早いのだし。それに、それは国に関係なく、馬やかご、人力車や船を経て、車に汽車に飛行機と、人は己の脚で歩かなくても良いように、脚より早く、より遠くに行けるように道具を発展させてきたのだから、先述の言葉に(今のところ、動物的欲求を無視した場合ではあるものの)否はないはずだ。

 であれば。

 人の足というものは此れからの社会ーーいいや、進化において必要なくなってっていく器官のように、退化消滅していくものだと考えて、不思議はないのではないだろうか。

 

 この物語は、そんな未来世界になる前の【乗り物】が持つ、魔力の話だ。

 その魔力は、時に引き寄せ、時に自らが姿を変えて、不思議を引き起こす。

 きっとあなたも、そんな不思議を体験しているはず。なに、いま体験していなくても、あなたが乗り物を利用している限り、いつかきっと、体験するものだーー。

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