6.意馬心猿。

 ミカゲの店に向かう。

 ミカゲが操る走竜にルマリア姉上は乗っている。

 走竜に跨るでなく、ミカゲの後ろに、横に座る様に乗り、両腕をミカゲの腰に回している。

 ゴブリンの巣を潰した後、そこで起きた出来事を搔い摘んで聴いた。

 調べていたことが判ったからということで、ミカゲの店のある灰の山の麓迄向かっている最中だ。


 ティタはステイシアの使役する灰色狼の上に乗っている。

 例によってステイシアだ。自警団の平服というイヤに丈の短いスカートで、胸は案の定はだけている。

 ティタの後ろに跨って乗っており、背中に顔と胸をこれでもかと押し付けてくっついている。

 最近やたらとティタにベッタリのステイシア。

 よほどアクセを貰ったことが嬉しかったのか?寝所は別々だが、夜明けのコーヒー友達だからか、ティタは聴いてみたが、なんでも、かなり高い魔力や気を持つ者の傍に居るのがステイシアは好きらしく、アルテイシアは精霊力が強く、アルテや使い魔の灰色狼の近場などが彼女の居り場であったらしい。


 ティタは、魔力も実は高いのだが、戦闘の気力、闘気もすこぶるつよいらしく、

 魔人でも、本人は自覚のない高位の血が掛け合わさっているため、ステイシアはことさらベッタリなのだそうだ。

 おぬし自身の魅力もその要因の一つだがのとは付け加えてくれた。


 ミカゲの店に着く。


 家の清掃などやいないときの管理を大櫓の者に任せていたのか、自警団装備の何人かが敬礼したあと、大櫓の方に降りて行った。


 ミカゲは三人を二階のテラスに行くように言って、工場の方に入っていった。

 テラスで待っているとミカゲが棒状の鈍器を二本持ってきた。


「ティタ、お前の得物が直る間これをつかったらどうだ?」


 やや小ぶりの、棒状の鈍器フレイルだ。

 ティタは嫌に短く軽そうだなとは思ったがミカゲの口の端が笑っていたので警戒した。

 受け取ると・・・かなり・・・・おもい。

 見た目は短く小ぶりだが、自分の得物と同等並みに重い。

 しかも強度もかなり強そうだ。

 漆黒で持ち手の籠手も殴りにも、小盾並みに頑丈だ。


「なかなか使い手もいないしな。短い方が近接だと使いやすい。」


 ミカゲの言葉に、ティタは頭を下げた。

 腰につけれるよう長い革のベルトを受け取り挿してみた。

 なかなか似合う・・・きがする。


 ステイシアが何かにやにやして言いそうだったが、笑うにとどめている。


 「さて、おぬしら二人を呼んだのはほかでもない。先のゴブリンの巣の出来事で判ったことをはなそうとおもってな。

 ミカゲの家が色々と都合がいいから来てもらった。」


 意外とステイシアが話を始める。


「この前ルマリアからティタも聞いてであろうしゃべる杖の事だが、あれは昔「杖の魔王」の使う杖の一つ『邪竜の杖』と呼ぶものじゃった。

 先の戦いで本体を砕き倒したとおもったんじゃが、どうやら本体か影が居ったんじゃろうな。わしらの前に又出てきおった。」

 

 肩をすくめて見せる。


「あの時は両方殺気立っておったが、戦いが終わってみれば、争う理由もお互い一方的な物じゃったんじゃ。」

 

 ステイシアは空間を指でなぞる。


 その横顔も、陶器のような白さで美しいい。肌の白さだけなら病弱なのだが、頬や唇、胸元等必要な所の色味は桃色の肌色で血色を滲ませ、なまめかしい。


 今日は髪留めとして左の髪を耳に掛けるのを抑えるように使っている。

 少し笑みを浮かべながら指を振り終えるとそこから小さい杖がかすんで現れる。


「やあ、ルマリア、それと、弟のティタ君だったか?改めましてと、一応初めましてだ、「杖の魔王」と昔は言われていたものだ。」


 ゴブリンの巣で現れたクジャクの羽のような杖がそう話しかけてくる。

「ミカゲ君となら私の仕掛けに気づいてくれると思っていたよ。」


 先の強制的に召喚される前にミカゲに話しかけ、杖先で地面をたたいた仕草。

 消えた後ミカゲはその地面に書かれた文様をステイシアに教え、ステイシアはそれをここで描いて見せたのだ。

 

「残念ながら本体ほどの力もユーモアも持ち合わせては無い。それに時間は有限。気の短い者達もいよう、手短に話そう、私は敵ではない。」


 この前駄洒落を言っていた杖とは思えないほど誠実だ。

「まずは私の話を聞いてくれ。

 それから時間が有れば質問に答えよう。

 一つ。

 魔界にも勇者同様に様々な『魔王』が存在する、それは皆も知っていよう。

 先の戦いもその魔王の一人が、戦いを王国に仕掛けたことが発端だ。

 一応の静まりは見せた。だが、中には暴れたりぬ者達がまた戦いを起こそうとしているのだ。」


 杖は語る。


「一つ。

 今回の騒動は、ワシがこの痴女の胸に今一度さわりたくての、こいつの魔力は淫気が強くてよいのだ・・・その願いをかなえたく試行錯誤していた時に「智の魔王」の悪だくみに巻き込まれ、こうなってしまった形だ。

 次に会うときはてきやもしれぬ。きをつけてくれ・・・」

 杖はやや俯いているようだ。

「一つ。なぜ、私が姉弟きみたちの名前を知っているかだ。それは君達を見守る彼女に聞いてくれたまえ。」

「ここでもこれ以上の召喚は限界のようじゃな。実体化できるなら、このような脂肪の塊、揉みしだいてやらせたのじゃが。」

「・・・実に無念だ。また会うときは正気であればお願いしよう。」

 杖は実にさみしそうに消えた。

「と言う事だ、そろそろ出て来て説明してくれ。」

 ミカゲが塀の向こうに向かって叫ぶ。

 木々から鳥が数話羽ばたき、灰の山の登り口の処に人影が現れる。

 ふっと消えると、テラスの隅に膝まづいている。

 全身を綺麗になめした革鎧の様な物を装備し、股のⅤの字にまでびちっとした形だ。

 あちこちに鋭い投擲用の苦無の様な物、背中には背負いやすく、また腰にも掛けやすい大きく穴の置いた幅の広いカタナの様な片刃の剣。

 ルマリア同様赤銅色に赤毛、巻角の魔人の女だ。

 脚は網目の粗い黒い細い金属で編んだ網タイツの様な物を履いている。

 闇に紛れやすく前進が黒い装備だ。

「お久しぶりです、ルマリア様、ティタ様。」

 うつむいたまま彼女は言った。

「とはいってもお会いしたのはまだお二人とも幼い頃。

 私は奥方様からお二人をお守りするようにと言われた使いのひとりです。」

 顔を上げてミカゲを見る。

「ルマリア様が始めてここに来られた時、お主は魔人の言葉で私に話してきたな。あの時に気づいていたのだろう?」

「気配はしていた。ただの打ち合いだったが俺がルマリアの正体に気づくかと乱れただろ?それでカマをはったんだ。」

「そうか、おぬしらはやはり底が知れぬ・・・・本当に人族か?・・・」

 黒づくめの魔人の女はミカゲに言う。

「ミカゲは怪物よ。こいつを怒らせたらこの国は数日でつぶれるぞ」

 嘘とも本当とも取れない冗談をステイシアはいう。

 さりげなく髪留めをさわる。

「母上をしっているのか?」

 ルマリアの言葉に魔人の女は頷く。

「はい。今はお会いすることはかないませぬが、あなた方の母上、シュマリア様は生きておいでです。」


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