第二章 湖の村日常編
1.用意周到。
湖の村の草の門の詰め所。
そこに支度を始める何人かの者達が居た。
時間はもう日もどっぷりと沈み、闇夜で行動できる獣の鳴き声が遠くに聞こえる。
普通の人は寝静まる深夜だ。
馬車に乗って来たフィートとイート。
櫓で監視をしているビアン、アルテ、ビアンに酒のアテを作れとセガミにきたステイシア。
草の門の班長であるヴィート。
それぞれ、部屋にてミカゲ、ルード、ガッハ、カエデ、ルマリアが来ていた。
部屋は男性女性でざっくり分かれ、女性側の装備の手伝いをイートがしていた。
黒い上下の薄い長袖と長いタイツ。
その上から縮緬鎖の上下の服を着、革鎧を装備していく。
足のすねと手の甲はミカゲが、ガッハ以外サイズを調整した具足系統の小手や脚甲を取り付ける。軽い上に固く、矢や刃物も通りにくい。
そして異様に黒い色で、金属らしい光沢などは一切なかった。
大まかな装備を終え、関節や動く隙間に、毛皮と黒い羽根で組まれた、飾りの様な物で埋めていく。
外部からの刺突武器の切っ先などから、急所を
羽や毛皮自体に魔力を注いで織り込んでおり、消音と若干の消臭が期待できる。
一番始めに着た黒の上下の服はハイネックで首も覆っているが、そのあまりの部分も口と鼻を覆うことが出来るので、狼の変わり兜を被ればほぼ顔が隠れてしまう。
部屋にて着替えたミカゲ、ルード、ガッハ、カエデ、ルマリア。
装備ははたから見ると狼の変わり兜を被った野盗か何か妖しい集団だ。
一際体躯の良いガッハが巨大な人狼のように見えなくはない。
しかし、臭う。
全身の装備は殆ど革装備だが、その革装備から発する匂い。
血と、泥と汚物の様な何とも言えない匂いが周りを覆う。
おそうじしたゴブリンの血や臓物を掻っ捌き塗り付けて乾燥したものだ。
こうすることでゴブリンの臭いになじみ、行動しやすくなる。
ミカゲも、ルードも何度も経験したことだが、慣れる…というものでは無い。
ハイネックの布や鎧の隙間を守る毛皮や羽のおかげで緩和されることが救いだった。
「計画通り、今から夜のうちに移動、ゴブリンの巣を
ミカゲをリーダーにこの五人が選ばれた。
催しの件にこの選抜が入っていたわけではないが、カエデが、大抜擢と言ってもよい。
ルードとガッハはシード枠で行くことは決まっていた。
偵察にはルード。殿をガッハに任せるためだ。
指揮全般はミカゲが。カエデはいくつかの魔術、法術、そして技能に適した「術」にも長けているのも今回の採用の一つだ。
併せて、経験させる為にルマリアだ。
五人はフィートが操る馬車に乗り、ゴブリンの帰っていった洞窟に向かう。
イートはその間の身の回り係だ。
五人を近場で降ろした後、待機する予定だ。
ガッハ以外にミカゲは短い短剣を渡す。
刀身は少し黒く、片刃であるが切っ先は鋭くとがり、刃はかなり波打った形だ。
波打った頂点が鋭角にとがり、毒を持つ魚のえらのとげとげの様に見えなくもない。
「挿しても抜けやすく、斬っても血が残りにくい、大量に始末するときはこれを使ってくれ。」
鞘に入れて渡し、取り付ける革紐も渡していく。
それぞれ腰や抜きやすい場所に組み付けていく。
ガッハの腕鎧も同じ装備で出来ているのか色合いが似ており、闇にきれいに溶け込んでいる。
「朝までには到着するだろう。一度軽く休憩してから現地の近場でもう一度打合せする。」
ミカゲはそう言うと毛布を被る。仮眠を取るようだ。
ミカゲの横に座っていたルマリアも同じようにする。
対面にはルードとカエデ。馬車の進行方向に背を向けてガッハが真ん中で胡坐をかいている。
そのまま寝ているようだ。
ガッハの自重がいい塩梅なのか、馬車の揺れも衝撃をうまく吸収して走る。
ミカゲ特性の鉄製の板バネを車軸に搭載し、車輪にも様々な加工をしている。
然程荒れた道でも気にすることなく進むことが出来る。
大きな道を出来るだけ通り、そこからゴブリンの洞窟まで進む。
追跡してそこまでの道を、地理を把握しているイートがルート化する。
彼女は戦闘こそは
唯一の悩みは、気にすることはないのだが、自他ともに認めるこぶり・・・
さて、ほどなく洞窟に入る林の前の開けた平野につく。
フィートとイートが食事を摂った場所の平野のかなり洞窟寄りの処だ。
そこから少し林の中に入り、抜けると目的地の洞窟だ。
平野の草を少し刈り、そこに簡易的に天幕を張る。
フィートが周囲を警戒する中、5人は天幕で軽く打ち合わせをする。
イートが馬車から色々準備をするために荷を下ろしている。
装備を再確認し、五人はルードを先頭に闇の中に消えていく。
ステイシアの
話す声も、呟く程度で兜を被った面子に声が聞こえる仕組みだ。
ゴブリンの巣の中は、彼等の
気を抜くことはできない。
村や草原で見かける、群れから離れたばかりのゴブリンはそうそう脅威ではない。
確かに特例はあるが、子供たちの威嚇でも退けることが出来るのだ。
そういう時と場所の利点を把握せず、概ね人は彼らを軽視してしまう。
簡単に退けられる、倒すことが出来ると。
現に
手痛いと思えるほどだけでも儲けものである。
ルードが手を上げる。
すぐ後ろにカエデ、少し距離を取り、ミカゲ、ルマリア、ガッハ。
ルードが洞窟の入り口の前の林の境界線で、見張りを見つけ、一行を停めたのだ。
洞窟の入り口にはゴブリンと、黒い犬の様な生き物が、入り口横で焚火をしている。
門番のようだ。
ゴブリンライダーが乗っている犬の子供だろうか。
どちらにせよ食べ物の対象ではないということは、彼らはある程度の飢えを満たせる環境にいるという事である。
村に攻めた来た主力を欠いていても、この集団はまだある程度の力は残っていると考えてよいだろう。
ルードが立ち上がり、林を抜けようとする。
ゆらりと姿が揺らぎ、途端に見えなくなる。
カエデは両手を合唱し、その後指を複雑にからめると何かを呟く。
焚火の炎が一瞬大きくなり、暖を取っていたゴブリンと黒い犬が驚いて散開する。
やがて火は落ち着き、彼らは戻って来たものの、????とはなりつつも何かそうなるものでもあったのだろう程度でまた定位置に戻る。
ルードが洞窟内に入り込むタイミングでカエデが焚火を大きくさせ、そちらに注意を払わせたらしい。
同じにおいを漂わせた見えないものが通過しても、意識を集中しない限りはそうそうわかるものでもない。
また彼らはそういう強烈な臭いの中で生活しているため、同じ匂いには鈍化しているのだ。
逆にそういう臭いをしない、人の臭いなどいい匂いでしかないので、彼らは素早く察知することが出来るのだ。
さらにはカエデとの連携やルードの技能によるところは多いのだが。
しばらくして、又焚火が大きくなり、今度は弾ける。
大きくなるだけならゴブリンもなれるかもしれないと、カエデが少し弄ったようだ。
ゴブリン達はまた散開し、焚火を遠めに覗いている。
ルードが姿を現す。
カエデが洞窟の前を警戒し、ルードが3人の近くに。
洞窟内の簡単な構造と部屋の数や深さ、そう言った事が淡々と報告される。
ミカゲはその後何度か質問し、皆でカエデの元に。
「時間的にも良いだろう。突入する。」
ミカゲの声が、兜の中から聞こえてきた。
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