2sec 時の呪い



 闇に光が差す。光はだんだんと大きくなって視界を白く染め、イットキの意識を呼び起こす。


――――――1秒。



 イットキが最初に見たのは、自分と同じように目の前に横たわる、薄桃色の髪をした少女だった。

彼女の着るシンプルな藤色のワンピースには銀色の刺繍が端々に施され、窓から差し込む陽の光を受けてきらきらと瞬いている。


――――――2秒。



 眠っていると思っていた少女と目が合った。彼女のクリアな鶯色をした瞳がイットキを見つめる。

記憶にこびりついた彼女の名前がイットキの口からこぼれた。

「チコリス・・・」


――――――5秒。



 少し驚いたよう顔をしたあとチコリスは微笑みかけてくれた。

「覚えててくれたんだね・・・イットキ。」

ゆっくりと彼女は言った。


――――――8秒。



「イットキ、よく聞いて。」

少し呼吸を置いてチコリスは言った。


――――――10秒。



「イットキをこの世界に呼んだのはわたしなの。わたしは時の呪いをかけられてる。一日がほんの数秒で終わってしまう呪い。」


イットキはわけがわからないままチコリスの言葉を飲み込む。


――――――15秒。



 チコリスがイットキの手を握った。唐突に柔らかでしっとりとした感触に手を包まれ、イットキの体が硬直する。

「え、え、なっ、ななっ、なんでてっ、手をにぎっ、てっ!?」


 動揺しまくりのイットキを気にせず、チコリスはそのまま握ったイットキの手を彼女の胸、心臓の位置に押しあてた。


「なっ、なっ、ななっ、ち、チコリスさんっ!いったいこれはっ・・・」


――――――20秒。



「次に目が覚めた時に、貴方はわたしの心の中にいる。」

チコリスはそう言って胸に当てたイットキの手を両手で抱きかかえるように包み込んだ。


――――――22秒。



「そこで探して。わたしと貴方をつなぐ証を…。」


――チコ・・・リス・・・。

声にならない声でイットキは彼女を呼ぶ。


――――――23秒。



彼女の言うことは抽象的でよくわからない。

だけど分かったよ、チコリス。


チコリスの願いは僕が叶える。


――――――24秒。



イットキの決意は、またもや訪れたまどろみに飲み込まれていった。



(続く)

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