第3話 星の街

 めっちゃキレイだった。帰ってきたばっかりだけど、今からまた行きたい。お金ができたらすぐ行くわ。あ、でも死ぬほど寒いから、やっぱり夏がいい。寒いのは変わらないんだけど、せめてお日さまはあった方が気分が明るくなるしね。元気なうちじゃないとツラいから、行けるときに行ったほうがいいよ、ほんと。なんなら来年あたり一緒に行こうか。標高が高いからさ、空気は薄いし、食べ物も水も乏しいし、肩の力を抜けるような観光地じゃないんだけど、苦労する価価値はあるから。お釣りがくるから。

 星の降るような夜空って言うじゃん。あの星空を一度でも見ちゃったら、ほかのどんな街が似たようなことを喧伝してても、鼻で笑っちゃいたくなるよ。星がね、まじで降るから。普通の街じゃ空気が邪魔をして見えないような、小さくて遠い流れ星まですとーんと見えるの。気のせいかなって思うような煌めきも、本当に見えてるの。細かい星屑まで、ちりちり燃えてるの。

 そっから先の空の見え方が変わるよ。例えばこの空さ、なんとも言えない灰色じゃないですか。煤煙だか雲だか分からないけど、おおよそ空らしいものは見えてないじゃないですか。眺めてたってそんなに面白いもんじゃないでしょ。一回あの街で星を見るとね、その向こうになにがあるのか、どんな美しいものがあるのか、感覚で分かっちゃうようになるのよ。

 いや、私も行く前はさぁ、土もないような人口の街を、大気圏の果てギリギリのところに浮かべてみましただなんて、阿保らしいと思ってたよ。でも療養地として完璧。そもそも浪費するような資源がないから、暴飲暴食なんてしようと思ってもできないし、火の気の取り扱いがすごく厳しいから、喫煙の習慣もほとんど絶滅してるのね。土地が少ないぶん、誰でも自由に使える運動施設が整備されてるのもよかったなぁ。暗くなってから大きな窓があるプールに行くとね、まるで宇宙を泳いでるみたいだった。。下手なお寺さんに籠るよりも、よっぽどストイックでスピリチュアルな生活を送れるような気がするわ。

 移住希望者が順番待ちしてるのも分かる。一ヶ月、向こうで普通に暮らしてただけで、すごい痩せたじゃん、私。まだ名残りがあるみたいで、頭はすっきりしてるし、お肌もなんか調子いいもん。薄いけど、空気はキレイだし、そりゃあ街も作りたくなっちゃうよね、あの高度に。なんか清く正しく美しく生きていけそうな気がしたもん。私は観光だけでたくさんだけど。

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