架空紀行

高瀬やなぎ

第1話 傾いた街

 少し前の出張先、観光資源なんてなんにもない、ほんの小さな街だったんだけど、一つだけおもしろいのが地形だった。街がまるごと傾いてるの。山の中にある街ってさ、山肌を削って段々畑みたいにして、平らな土地を作って、そこに建物を造って広がっていくものじゃないですか。この街はそんなのナシで、傾いた土地に傾いた家を建てるの。二階なんて作っちゃったら、地震とかがあったときに危ないし、だからほとんど平屋建て。私みたいに真っ平なところで育った平野人間は、立っても寝ても身体が傾いてるもんだから、酔っちゃって三日と過ごせないよ。ぜんぶが少しずつ傾いてて、それがじわじわっと感覚を狂わしてくるの。

 でもさ、機会があったら一度は行ってみたらいいと思うよ。山の街っていうとさ、高台に上ったらいい景色があるものじゃないですか。それがあの街は見上げた方がおもしろかった。

 夕方、斜陽を受けるとさ。屋根がぎらぎら光るの。瓦もいい感じだったけど、太陽光発電のパネルはもっとよかった。まぶしいから、サングラスをかけてね、それを見上げるわけですよ。街が崩れかかってきそうで、心臓がばくばくしちゃうよ。まるでSF映画を途中で止めたみたいなの。危うい均衡をやっと保ってるみたいな街並みなのにね、その明かりのひとつひとつには、今日を終えつつある幸せな家族の影が映るの。

 お水もお野菜も、住んでる人もフレッシュな感じだったし、写真が好きならきっと楽しいよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る