第18話 そこにいる

 アパートへ帰る。

 誰もいない部屋、蒸し暑い梅雨明けの夜。

 ドアを開けると、ムワッとした空気が私の身体を包む。


「ただいま…」

 返事なんかあるわけないのだが、呟くようにボソリと言ってみる。


 弁当屋で買った日替わり弁当を食べながら、今日あったことを呟く。


「今日は、朝から仕事でミスした…その後もミスを引きずって1日中細かいミスを繰り返したよ…みんな呆れただろうな…3ヶ月も経って、まだあんなことも出来ないのか?そんな目で見られてる気がした…お前までそんな目で俺を見るなよ」


 そういえば昨日も、私は彼に仕事を辞めたいと話していた。

 彼は黙って私の話を聞いてくれた。

 彼は憐れむように私を見ていたが、いつしか彼は涙を流していた。

 私も涙で滲む彼を見ながら、何度も…何度も…ツライと繰り返した。


「もう…充分だよ…」

 思い残すことなんて何もない…思うことがないんだから…やりたいこともない…。

 安い月給で、何を夢見るんだ?

 日替わり弁当がハンバーグだっただけで少し嬉しい日だったと感じる。

 小さい幸せを感じれる?

 違う!それほど幸せがないんだ!


「なんでお前が泣いてるんだ?」

 彼に問いかける…。

「お前に俺の何が解るんだ!」

 私は彼に殴り掛かった…。


 ガシャーン!


 窓ガラスが割れた……。

 勢いよく殴り掛かったので、私の身体は窓の外へ…5階から夜空へ舞う身体。


 窓ガラスに映った俺…ごめんな…いつも悪かったな…。


 地面に叩きつけられた男の目から涙が溢れた。


 窓ガラスに映る自分に、毎日話かけていた男の最後は、自分への怒りと謝罪で幕を降ろした。

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