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 羊皮紙に書かれていたのは土砂崩れに対する対応策であった。


 ルシウスの真剣な目に溜め息を付きながらキャロルは説明を始めた。


「3日前、イシュラン領で土砂崩れが起きたと聞きまして。」


「ああ、丁度今報告書を読む所なんだ。」


「2年前にもそんな事があったはずだと思って不思議になり郷土史を見てみまして。

 そしたら20年前以前は極稀に土砂崩れが起きてもそう頻繁ではない事が分かったんです。」


「20年前…確かイシュラン領の領主が代替わりしてたね。

 それと土砂崩れに関係があると?」


 絶対とは言えませんが、と前置きしキャロルは続ける。


「代替わりしたイシュラン領主がした事は以前から特産と言われていた質の良いチーズやバターを多く生産する事。

 お陰で以前よりも領民の暮らしは豊かになったと書いてありました。」


「なかなか素晴らしい経営手腕だね。」


「ただ、領民が畜産の方に回ってしまい以前山沿いに作られていた水田は放置状態、荒地となっているそうです。」


 ルシウスははっと思い至った。


 古来より地滑りの起こりやすい土地ではその豊かな土壌と災害を防ぐ目的で棚田を作っていると聞いた事がある。


「じゃあ今回の事は水田を休耕させたから起こっていると?」


「さあ?

 私も農業や土木に関しては知識不足の為、過去の資料を見て思い付いただけですので可能性があるとしか言えませんね。」


 そう言うとキャロルはもういいか?邪魔をするなと言わんばかりの目でこちらを見てきた。


「ありがとう。

 可能性だけでも充分だ。」


 そうですかと呟くとキャロルはまた羊皮紙に向き直りペンを走らせ始める。


 ルシウスも椅子に戻り報告書を読みながらキャロルの言う棚田の復活を対策の一案として書類に纏めていく。


 また静かな時間に戻ったがルシウスの中にこの7日間で初めての考えが浮かびキャロルの横顔を見つめる。


 素行や噂、爵位等検討してからであるがこの令嬢ならいけるかもしれない。


 正直、人間をゴミのような目で見てくる令嬢というだけで王妃として失格以前に人として大丈夫かという不安はあるがルシウスの中でこの奇妙で面白い人間をもう少し観察してみたいと言う気持ちが膨らんでいるのだ。


 ルシウスはレオンの前に投げられている見合い者一覧を手に取る。


 そしてニヤリと腹の黒さを滲ませる笑みを浮かべた。





 こうして見合い者一覧にこの7日間で初めてマルが付けられたのであった。

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