さくっと読めるショートショート集

雪村 いては

最強の盾

 ある日の昼下がりのこと、異様な速度で地球に近づいてくる謎の物体が観測された。人々はこのままでは地球に衝突してしまうのではないかと不安がったが、その心配は無かった。その物体は地球に近づくと速度を落とし始め、地球に降り立った。その物体は周りの光を吸い込むかのような黒色をした直径10m程の円盤だった。その一部がゆっくりと開くと、中からはこれまた黒い服を着た宇宙人が出てきて、流暢な日本語で話しはじめた。

 聞くところによると、彼はある商品を売りに来たのだという。その商品とは、最強の盾。どんな場所にでも設置でき、銃弾、ミサイル、雷、光線、炎、爆発などのあらゆる攻撃を防げるバリア。試しに小さなバリアを貼り、それに向かって地球上のありとあらゆる武器が使われたが、傷一つつけられなかった。

「―いかがでしょうか。この商品の素晴らしさはご理解頂けましたか?これを地球を囲うように展開しておけば、どんな奴らが侵略しにこようとも安心です。」

「しかし、何か攻撃してくる奴がいるとは限らないだろう。なんにも来なければ、ただの無駄な買い物になってしまう。そうじゃないか?」

「確かにその考えも一理あります。しかし、あなた様方はまだご存知ないのかも知れませんが、宇宙には他の星の侵略を嬉嬉として狙うような連中も大勢いるのですよ。それに、隕石が飛来してくる可能性もあるでしょう。小惑星が衝突して、今まで苦労して築き上げた文明が水の泡、全てご破算。そんな事にならないためにも、おひとつ買っておかれたほうが…」

 宇宙人の言うことももっともだった。高い買い物ではあったが、人類の未来のためだ。買うことにした。

「お買い上げありがとうございます。では、早速範囲を地球を囲うように設定して…はい、起動が完了しました。では、私はこれで…」

 人々はすぐに異変に気づき、盾を止めさせようとしたが、それはかなわなかった。

の中では、黒い宇宙人も黒い円盤も見えなかったからだ。

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