拝啓、転職失敗しました

T-たっくん

第1話 拝啓、30歳非情なり

拝啓、転職失敗人間様


 私の名前は、澤田 卓。今年で30歳になりました。今まで工場系の機械エンジニアとしてキャリアを重ねてきましたが、この度転職することにしました。今流行りの転職系エージェントの皆様のお力を借り、この1月より新しい会社へ転職が決まりました。

 少し、自慢になるかもしれませんが、前職ではサービスチームのリーダーも務め、周りの人からの人望もそこそこあり、周りをサポートする立場でした。しかし、前職では給与面での上昇が見込めず、この度、給料のいい外資系医療業界の医療系大型機器のエンジニアとして新しい人生を歩むことにしました。今までの機械と全然違った機械で、不安いっぱいでしたがやる気だけはありました。

 本日は、初出社。本社の前に来ると少しドキドキしましたが、受付の方が優しく案内してくれました。

 1月入社は2名でした。加山さん、40歳。前職は別の医療系機械のメンテナンスをやっていた方で、私と同じくエンジニアとして、九州地区での採用とのことです。

 私は、大阪地区での採用の為、入社オリエンテーションが終われば別々の事務所での仕事になるみたいです。

 PCのセットアップでつまずく事はありましたが、無事オリエンテーションは終了しました。私自身前職では、ほぼPCを使ったことが無く、ログインすらまともに出来ず苦労しましたが、加山さんはPCが得意な様で、セットアップも親切に手伝ってくれました。優しい同期で良かった。

 大阪事務所に初出社。少し早かったみたいで、同僚の皆様はまだ出社されていませんでした。11時ごろに疲れた感じで皆様出社。挨拶するも、すこしそっけないご返事。エージェントからは医療系はスーツを着て現場に行くことが多いと聞いていましたが、聞いてた感じとは少々違って、皆様作業着で、やや汚れた作業着を着ているエンジニアが多い印象。

 メンターと呼ばれる、私の教育担当者より、修理等で使うソフトのセッティングの資料を渡され、初日はその作業で終了。PCを使ったことのない私にはやや高めのハードルの大阪事務所初出社でした。

 次の日も引き続きPCセットアップ作業。メンターの先輩に一つ一つ聞きながらなんとかセッティング完了。この日も結局その作業で終了。

 次の日、機械の点検でOJTとして現場へ。セッティングしたソフトを立ち上げてみましたがうまく立ち上がらず、翌日再度セッティングすることに。メンターの方は忙しいらしくあまり相手にしてもらえず。同期にこっそり電話して、教えてもらい解決。優しい同期で良かった。

 その後、点検同行などのOJTで経験を積む日々が続いたある日。メンターから謎の指示が・・・

「質問は1日2つまでにして下さい」

 ???えー?突如、そんなことを言われ困惑しました。どうやら、質問をされることがストレスに感じていたらしく、表向きは仕事が進まないとの理由でした。

 本社では機器に関しての講義はなく、OJTのみで覚えなければいけないスタイルで、この制約はやや厳しい。その後は、質問することなく作業を見て、後日マニュアルで確認し、2つ以上質問したければ同期の加山さんに聞いてみるといったスタイルで過ごしました。医療機器が初めての私にとって、マニュアルに書いてある内容を理解することがやや困難でありましたが、加山さんは優しくめんどくさがる事なく教えてくれました。時には長いLINE文面での御返信もして頂き、本当に優しい同期で良かった。

 3カ月が経とうとするある日、人事部長が来阪。新人面談とのことで入室すると、今月末までに退職願を出してほしいとのこと。背筋が凍り、冷たい汗が落ちていく感覚を感じました。理由は、能力不足とのこと。英語力が足りないというご指摘。確かに、そんなに英語は得意でもないですが、英語を使う仕事をする以前のこの現状で?と疑問に思いました。また、面接でも英語力がないことを宣言しており、特に問題なしとのお話で入社したはずなのに・・・腑に落ちない理由ではありましたが、取りつく島のない現状でこれ以上は聞けませんでした。外資系非情なり。試用期間での退職になりました。

 最終出社日、直属の上司にご挨拶。上司より

「英語以外は完璧でした。次の仕事でも頑張ってください」

「ありがとうございます。英語を使う仕事にまでたどり着けなくて申し訳ありませんでした」

 同期の加山さんからLINE。

「私も九州で苦しんでいます。新人が失敗すれば教育担当者が責められるらしく、誰も教育担当をしたがらない雰囲気です。ババ抜きのババの様な扱いを受けています。今回の澤田さんの件に関しては、教える自信がないメンターが自分を守る為に売ったんではないかと噂も聞こえます。」

 結局のところ、私が失敗して教育担当の自分の評価が落ちるのが嫌で、早々とダメの烙印を押し、人事のせいにしてしまった方がいいとの判断だったのではないかと思いました。人が足りないのも人事のせい。いい人材をよこさないから悪い。これが、この会社の正体でした。

 教育体制が整っていない会社に入社してしまった私の判断ミスと思うことにし、次の会社を探しています。

「OJT中心で優しく指導します。」

「教育に関しては現場任せです。」

この言葉は、果たして違う意味なんでしょうか?


敬具

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