ある夜バーで

「これが私のきょうだいです」

マスターがこつんとおいた

コルクでしっかり栓をした

ちいさなガラス瓶の中には

薄く水色の液体と

そのまんなかに

綺麗な無人島があった

ヤシの木一本

芝色の絨毯

そこに途方にくれたように

男の子が座り込んでいた


マスターがタバコの煙をすぱあと吐くと

瓶の中ではほわほわ煙が生成され

それは黒黒の雲となり

しとどに雨が降りだすのだ


男の子はヤシのしたに避難する

両手を丸く壺にして

口のまえまでもってくると

やわらかい息を送ってる


「さて」

とマスターはタバコを灰皿に押しつぶした

「そろそろ店を閉めますので」

「ああ」と私。

マスターは奥の方から順に

ひとつの指で電気を次次けしてゆく

最後の残るのはちいさな灯

私の頭上のライトのみ

残りのカクテルを喉にながして

視線をおろして見てみると

閉鎖瓶のなかでは雲が晴れ

ひかひか満点の夜空である

小虫の核よりいっそうちいさい

極めてこまかな丁寧な光が

ビンのなかに散らばった


陶然と見蕩れる

いっときの有限の魂の火

その星星は最後に光ると

それぞれ息が切れたかのように

しゅゆしゅん消えて暗くなった


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