第9話 魔術師たち

 次の日、商人を探す予定は脆くも崩れ去った。

 イルルクの元に大量の火葬が舞い込んできたのだ。

 今まで一日に複数の火葬を執り行った事はなかった為、イルルクは少し動揺した。

 中央特区で何かが起こっている。それに付随してか居住区もやけに賑やかだった。フェルも招集されたと家無し子がイルルクへ言伝に来た。


 イルルクは何度も火葬をした。

 死体は全部、子供だった。

 どの子も、綺麗で小さな骨になった。


 イルルクは子供の骨の入った箱を持って去っていこうとする神官に、一体何が起きているのかと尋ねた。神官はただ一言。お前が知る必要はない、と言った。


 イルルクは胸の辺りがムカムカとしてくるのに気付いて、キリに助言を求めた。キリはイルルクに一つの呪文を教えた。

 それは、乱れた魔力を整える魔術。魔術師が一番最初に覚える魔術だった。


「呪文があるんだ」

「大体はね」

「ボクの炎は呪文がないよ」

「自分の得意な属性は、大なり小なり無詠唱で喚び出せるのさ」


 だから魔術師同士の戦いでは自身の有利な属性の相手と戦う事が大事になる。その為、普通は得意な属性でも呪文を唱え、自分の得意な属性を相手に知られないようにするらしかった。

 魔術師同士の戦いと聞いて、イルルクは驚いた。

 自分以外に魔術を使える者に会った事すらなかったからだ。

 魔術師はイルルクが思うより多く存在するとキリは言った。

 魔術師の大部分はヤクニジューの中央特区、魔術院で暮らしているが、どこにも属さない魔術師、用心棒として雇われる魔術師もいるのだと。


 キリは、ヤクニジューでは魔術の素養がある者は全員、魔術院に召し上げられるのだと言った。

 成人の儀と共に魔術の素養を確認し、居住区に住む者であっても魔術の素養が認められれば中央特区に住む事になる。

 魔術の素養は基本的には親から子へ受け継がれる物であり、現状中央特区にしか魔術師がいない事から居住区からの召し上げは滅多にない事らしかった。

 更にキリは、教会とリュエリオールファミリーとの間で何か密約でも交わされているのではないかとも言った。

 通常であれば、安定して火葬が行える程の炎の魔術の持ち主の話が魔術院に届かない筈がないのだと。

 イルルクはその辺りの事情は全く知らなかった為、曖昧に笑って誤魔化すと、魔術の話に戻した。


「炎はどんな呪文で喚び出すの?」

「”燃えろバルク”」

「”燃えろバルク”」


 途端にイルルクの手から炎が噴出し、イルルクは慌てて炎を止めた。

 キリはイルルクに炎の呪文は魔力の調節が上手く出来るようになるまで唱えないように言った。イルルクは何度も頷いた。

 

 イルルクは子供たちの記憶を全てではなく、断片的に視た。一日に何度も死ぬ記憶を視るのは精神が持たないと思ったからだ。イルルクは今日火葬を行った子供全員が、誰かに殺されたのだと親族が嘆いていたのを聞いていた。

 全員の記憶に、同じ男たちが残っていた。それは昨日視た記憶の中で、少女と老人を殺した男たちだった。


「これはイルルク流の精神統一か何かかい?」

「え、あ、うん。そう」


 火葬炉の中で耳を塞いでしゃがみ込むイルルクは、そう言われてみれば精神統一をしているように見えなくもない。

 死体の記憶を視ていたんだなどとは言えなかったイルルクは、これ幸いとキリの言葉に乗っかった。

 人を焼くと云う行為を行った事により乱れた心を落ち着けるための作業。誰かに見付かっても、そう答えれば納得してもらえるだろう。

 いい言い訳を思い付いてくれたキリに、イルルクはひっそりと感謝をした。

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