しまもと接吻

しばらく、やっぱり無言の時間が流れた。チョコレートは、文字の部分も食べきった。


「ありがとうございました」


いや、ごちそうさま、と言うのが正しいのだが、照れくさくなって、しかし感謝の意は述べねばなるまいと思って、こういう言い方になってしまった。


「……あの、なんか、入れる?曲?……そういえば、誰が好きなん?俺は、特別誰が好きとかなくて、てゆうか、音楽あんまわからへんねん。だからカラオケとか、基本人のを聞いてんねんけど……」


じゃあソータの歌をもうちょっと真面目に聞いてやれよ、と自省した。


「……ウチ、歌ったらアニメ声やねん……」


「……そうなん?ええやん。聴かして。ヨドがフツーにボカロとか歌うから、そうゆう系のでも全然俺行けるし」


「……ちょっと、びっくりする思うで?アニソンでもボカロでもないけどな」


「うん、びっくりさして!」


島本の音楽の好みとかって、どんな感じなのだろう。あいみょんとか好きなのかな。コレサワとかかな。あるいは、The Oral Cigrettesとか……


「…………………?!?!??!??!?/?/"2"5900473472985778487575238929895854858349090]………」


いや、別に俺がいきなり正しい円周率を唱え始めたわけではない。大体3から始まっていない時点でおかしいし。


頬に、島本の…………が触れた。


「えーーーーーーーっと……………、これは、何だっけ?その、いわゆるひとつの、接吻という、アレ?」


「わざわざ難しい言い方しようとすな」


いや、わざわざ難しい言い方をせぬと、耐え切れぬのだ。いわゆるひとつの、KISSというアレだ。初めてはミントの味がするとかいうのは嘘だ。別にミント感はなかった。でも。


「……すごく、気持ち良かった」


なんつー気持ち悪い感想だよ。ただのエロオヤジかよ。


「……ごめん、もっかい、しよ」


だからエロオヤジかよ。


「次は、俺から、していい?」


どんどんエロオヤジになっていくぞ俺。ああもうどうにでもなれ。


ミントの味はしなかった。だけど、不思議な世界に連れていかれるような気がした。


「……初めてのキスはミントの味って、あれ嘘やな」


ようやくストレートな表現で言えた。


「……うん」


島本も照れているようだった。


「次は、ミンティア食べてからやる?」


「うん。きつめの味のやつがええな」


レモンライム味とかなら本当にミント味のキスができるかもしれない、という、頭が悪すぎることをしばらく話した。というか、そんなアホな話題でもしないと気絶しそうだった。

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