幕間

きっとあった昔の世界のおはなし

 ――かつて、世界は一つだった。


 この世界の殆どを支配していた『国』がいたからだ。

 たびたび戦争を繰り返してきた国々が恒久的な平和と持続的な成長・発展・繁栄を望み、経緯こそ不明だが七人の賢い王様たち『七賢皇』を中心とした国のようなものを形成したのがその国だともいう。


 皇国とあるが国王中心ではなく、市民の意見を反映したりするいわゆる民主主義を導入していたところが多く、また七賢皇自身は政治に参加しない――そもそもできないというシステムだったため、象徴的な役割を担っていた。


 この体制のもと、永遠の繁栄が約束された千年王国ミレニアムは達成できた――と思われていた。


 そう、『不可製結晶体』という謎の物質が地上の大半を覆い、多くの死傷者と被害をもたらした大災害――『大析出ブロウアウト』が起きるまでは。





 ――そう、確かに世界は一つだったのだ。


 全くそう見えなくても、そうであろうと、あり続けようしていた時代があったのだ。


 ――通信技術とコンピュータを含めた科学技術の凄まじい発達によって、どれだけ世界の距離が縮んだとしても、今の世界はこうなのだとあり続けることを大多数の人間が望んでいた時代があったのだ。


 自分がいない国が何かしらの形で戦火にさらされ、その国の罪なき誰かが他国の民兵や兵士によって次々とレイプされたり、虐殺されていたとしても、名も罪も無き少年少女たちが次々と少年兵や民兵たちの慰み者に仕立て上げられていても、名も知らない人々が自らの自由のために戦っていても――


 それでも世界は平和なんだ。見えないからこそ自分と自分がいるところは平和なんだと、ただひたすらにそう思い続けたいたい人たちが多数を占めていた――そんな時代が確かにあった。


 そんな時代を大析出は完膚無きにまで破壊した。


 人類が住める場所を侵食することで、人を食らうことで、そして人と人を繋げる通信インフラを破壊したことで。

 薄氷の上で統一され、保っていた平和はあっけなく砕かれた。


 かくして世界は、分断された人々は、望もうが望むまいが混乱・混沌へと叩き込まれた。


 やがて何もかもが限界に達した人類は、互いに互いを喰らい出した。


 当然、その混乱に乗じて戦力をかき集めて、他国に侵攻する国も少なくなかった。


 ある国は、ある国との歴史的な問題の決着を付けるため。


 またある国は利権の塊である楽園エリュシオンの実権を握るため。


 そしてまたある国は――


 かくして、千年王国はあっけなく崩壊し、世界は再び砕かれた。

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