第47話 最後の手段

 光圧が下がっていく。

 もう先ほどの光は広がってはいないようだ。

 俺は足を止め、先ほどの光の方を見る。

 光はまだ在った。

 天まで届く光の柱だ。

 それは幕営地だったと思われる開けた場所の中心にそそり立っていた。

 直径は20メートル程度だろうか。

 そしてその脇には全身黒ずくめの衣装の男。

 かつて出会ったあの敵だ。

 状況からして奴こそがユパンキらしい。


 今頭の中で響いた声は間違いなく奴の声だった。

 取り敢えず光の柱はこれ以上広がる気配は無い。

 誰かが奴に尋ねる。

「貴様がユパンキか」

「そう名乗っているのは我である」

「この光の柱は何なんだ」

「今言ったとおり、最高神クニラーヤの顕現だ」

最高神クニラーヤとは何だ」


 奴がにやりと笑った気配がする。

「この世界は現在、偽りの神に干渉されている。本来世界群のひとつの存在にすぎない者共が創造神を名乗り世界の境界線を渡って他の世界に干渉しているのだ。ここに集まっている中でも使徒の諸君は私が言っている意味が少しはわかるかな。

 でも使徒の諸君も大いなる勘違いをしている。君達がいた世界は外の世界ではない。この世界群に属する一つの世界に過ぎないのだ。この世界を管理・運営していると偽り創造神とも運営とも自称する連中の居場所もまた然り。全てこの世界群に属する世界の矮小な存在にすぎない」


 奴が言いたい事はファナの村やトンロ・トンロで聞いて想像はついている。

 それでも俺はあえて尋ねる。

「仮に全てが仮想世界だったとしよう。ではどうする気だ。この世界群にあって貴様と最高神クニラーヤはどういう存在なんだ。その存在で何をする気だ」

「境界線を渡るラインを断ち切り、すべてをあるがままの世界に戻す」


 そこで奴は一度言葉を切り、そして続ける。

最高神クニラーヤは本来この世界に既に顕現していた筈の神。だが偽りの神が生贄と犠牲の儀式を変化させたことによって現れぬままになっていた。我は大いなる意志の元でそれを知り、様々な方法で生贄を捧げ最高神クニラーヤを召ばんと試みた。例えばこの地方には無い型の流行風邪を使ったりしてだ。予定外の死者、恨みを持つ死者は全て神々の贄と出来る。無論儀式は必要だが。

 そしてこの地で王国軍と獣人共の戦いを起こし、贄を増やして顕現の時を近づけた。最後は生き残った王国軍を贄として奉げ時を待った。最後にまさか君達の一人が召喚儀式を完成させるとは思わなかったがな。本来最高完全浄化ウィーラ・コチャの呪文は最高神クニラーヤの別顕現である最高創造神クニラーヤ・ウィラ・コチャの召喚によって魔を滅ぼす呪文。召喚時に贄が必要だがちょうど唱えた本人が贄となってくれたようだ」

 

水神大破断パリア・クアーカ!」

 誰かが光の柱に水の大魔法をぶつけた。

 だが大魔法は光の柱に触れると同時に消滅する。

「無駄だ。最高神クニラーヤは顕現するだけで過去の創造神を圧倒する最高神。この世界の魔法は全てどれかの創造神の力を借りたもの。最高神クニラーヤに害を与える事はできない」

絶対炎熱陣カルウィンチョ!」

大地滅殺塊トウタニャムカ!」

 次々と大魔法が発動するが全て光の柱に消されてしまう。


 待てよ、それならばだ。

水神爆流アマル!」

 俺が狙ったのは光の柱ではない。

 敵である奴だ。

 だが魔法水流も奴の手前で曲げられ、光の柱に吸い込まれて消されてしまう。

「無駄だ。最高神クニラーヤの神官である我もまた最高神クニラーヤによって守られている。故に全ての魔法は効かない」


「これからどうする気だ」

 これはジョンの声だ。

「偽りの神により操られていたティワナク王国と、偽りの神によって作られた種族である獣人を滅ぼす。獣人はこの世界には存在しない筈だった」

「獣人さんを滅ぼすのか」

 ケモナーが吠える。

獣人あれは偽りの神によって作られた存在。だが操りにくい性質を持っていたため放棄された。我はその過ちをただすのみ」

「そんな事はさせん!」

「無駄だ。力も魔法もこの世界のものは最高神クニラーヤの前では意味は無い」

 

 待てよ。

 俺は気付く。

 俺はこの世界の魔法ではない魔法を持っている。

 創造神うんえいに渡された絶対封鎖魔法シバルヴァだ。

 もしこの魔法が創造神うんえいの言う通りなら奴らを倒せる可能性はある。

 だが確実に倒せるという保証は無い。

 もし敵の言っている事が本当なら創造神うんえいもまたこの世界群の住民。

 特別な力を持っている可能性は低い。

 しかし、だ。

 このままでは奴らは倒せない。

 そしてファナにも危害が及ぶ。

 他に誰か社員がいてこの魔法を発動してくれないだろうか。

 様子を伺ってみるが誰も使う気配は無い。

 他の一般的な大魔法は結構発動させているのにだ。


 仕方ない。

 ファナとの約束が守れなくなる可能性は高い。

 でもここで奴ら、敵と最高神と称する存在を倒さなければファナが危ないのだ。

 優先順位は決まっている。

 狙いを定め、足を軽く屈伸させて。

『健脚!』

 俺は一気に光の柱に近寄り魔法を発動させる。

絶対封鎖魔法シバルヴァ!」

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