第30話 報告書の作成

 豚後ろ足のハムを塊で食べて満足したファナが横に寝ている。

 うん、やっぱり可愛いよな。

 髪と犬耳のところを撫でるとピコピコと耳が動く。

 こんな事をやっても起きないのは今まで色々やって実証済みだ。


 実はあのハムはジョンがファナの歓心をかう為にくれたのではないか。

 奴も狼獣人だしケモナーだしファナ受けの為にそうしたのでは。

 そう邪推するほどファナは喜んでいた。

 トンロ・トンロの村付近にも移動魔法用のアンカーを設置したし、今度また遊びに行ってもいいかもしれない。

 ただファナとジョンは会わせないようにしよう。

 あいつはファナに関しては信用しない方がいい気がする。

 ファナの可愛さが罪なんだろうけれど。


 そんな親バカな事を考えた後ログアウト。

 いつもの日課をささっとこなす。

 弁当とサラダを食べながら旧型パソコンの電源を投入。

 ブックマーク済みのアドレスへと飛ぶ。

 既にローサはログインしていた。


『悪い、待たせたか』

『時間的にはまだ早めだからご心配なく。それにしてもVRではなくキーボード派なのね。この前は用心の為かと思ったけれど』

『俺のPCはスペックが低くてVRが使えない。貸与品を使うと何処かで記録を取られたりしないか気になるからな』

『あれ、なら以前はVRゲームの時はどうしていたの』

『VRゲームはこの仕事が初めてだ』

『そうなの。こんな仕事を受ける位だからてっきり歴戦のゲーム廃人かと思っていたのに』

 という事はローサはゲーム廃人なんだなきっと。

 そう思った事はあえて告げないでおく。


『さて、今回の件だけれどどうする。ある程度は運営に報告するとしてさ』

『そうね、報告は任せるわ。私の方はサクヤさんと同じという事で出しておく』

 うわっ手抜きだ。

 でもまあいいか。

 俺一人で書くとしても大した手間では無い。


『それじゃこんな具合でいいか。

 〇 獣人の街トンロ・トンロが襲撃された

 〇 襲撃者は以前報告したチート持ちの男と、ティワナク王国軍の2個小隊規模の歩兵部隊

 〇 ティワナク王国軍は紋章等を隠し部隊所属が分からないよう措置されていた

 〇 小隊の中に将校としてオマル・エアリア百人隊長ケントゥリオがいた。

   なおオマルはドゥフル伯爵家の長子

 〇 チート持ちの男とティワナク王国部隊の関係は不明

   男から『目的が同じだったから利用したまで』との言動あり

 〇 私(サクヤ)は襲撃の際街に滞在していたローサにより事案を知り、居所のニルカカ開拓村から急行した

 〇 私とローサが合流した時点でチート持ちの男は襲撃を断念した模様

   それまで味方だったティワナク王国軍部隊を自らの魔法で処分し移動魔法で立ち去った

 〇 男の一連の行動の動機は不明である

 〇 トンロ・トンロ町長ジョン・デ・ベロ(自称使徒プレイヤー

によると、『いきなり襲ってきた。理由は不明』との事。

 〇 町長に他に思い当たることは無いか尋ねたところ、『特にない。ただ北の方で魔の神を信仰し、獣人を敵視する一派が出てきているらしい』との言があった

 以上』

 この辺は予めテキストで打っておいたので、カット&ペーストするだけだ。


『早いわね。うん……だいたいいいんじゃない。でも一つ質問。あの男が言った神の事とかは敢えて書いていないの?』

 気付いたか。

『ああ。詳しく話すと運営が俺達まで危険思想に犯されていると思いかねないからな。あえて省いた』

『まあ私はどっちでもいいけれどね。そういった事は苦手だし』

 どうもそんな感じだ。

 ただその態度は俺としてはありがたい。

 情報の管理が簡単になるからだ。


『あと報告するなら私の社員番号を入れておいてもらっていい? 私もサクヤの社員番号を入れて特定させるから』

『わかった』

 この辺は他の社員と協力した事案を取り扱った場合のマニュアルに記載してある。

 まあ難しいことは特になく、一緒に協力した相手の社員番号を記載するだけだけれども。

 本名を記載しないで済むのは個人情報の関係だろうか。

 社員内でそこまで気にする必要は無いとは思うけれど。

『私の社員番号はJTF89313、サクヤは?』

『俺はJTM90127だ』

 一応メモを取る。

 まあログが残っているからそれを見ればいいのだけれどな。

「それじゃ報告よろしくね」

「わかった。その代わり街の方は頼む。あと念の為兵隊が死んだ辺りは浄化の呪文でもかけておいてくれ」

「わかったわ」

 俺はログアウトする。


 さて。

 俺が男のいう処の神や運営、世界の話を報告書に書かないのは実は別の理由。

 男が言った台詞の色々に多少興味を持ったからだ。

 『君達の雇用者は『アウカルナ』世界群の外の存在かな』

 つまりは、

  〇 運営及び俺がいる世界もまた『アウカルナ』世界群内の世界

  〇 運営は『アウカルナ』世界群内の存在で、俺がいるのは外の世界

のどちらかだと言っている訳だ。

 この辺を確かめる手段はすぐには思いつかない。

 だが視点として面白いとは思うのだ。

 だからこれからは少しこの辺も気にしながら仕事をやってみたいと思う。

 もっともこの仕事をやっている一番の理由は世界探究でも生活資金稼ぎでも無い。

 ファナが可愛いからだ。

 少なくとも今では。

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