第3章 お仕事らしい捜索活動。そしてついに敵の存在が!

第12話 明日は探索

 さて。

 クマ魔獣の件について報告を上げたら調査依頼が来た。

『他所でも魔獣が増えている様子が見られる。可能ならば魔獣の増加原因となりそうな原因になりそうなものを調査せよ。情報に応じて追加報酬あり』

 なるほど。

 この魔獣も兆候の可能性があるという事か。


 調べるなら早いうちがいい。

 雨期になると雑草が生えたりしてやる事が多くなる。

 今なら農場の事はウゴとかエリク辺りに任せておけば充分だしな。

 ただ俺がこの村を長期間離れるのは難しい。

 何せ治療師がいないのでちょっとした病気とかも全部俺が面倒みているのだ。

 今まで治療師がいなくても何とかしていたのにである。

 気持ちはわからないでもないし、俺もこの村を結構気に入っている。

 向こうの世界で以前在籍していた会社と違ってだ。

 だから出かけるとしたら基本的には日帰りできる程度の範囲。

 長期でもせいぜい2~3日程度が限界だろう。


 探す場所は何処にするか。

 基本的にはグチャグチャの森から続く場所だろう。

 俺は運営に与えられた地図を棚から取り出す。

 これはこの世界で作られているイラストに手を加えたような地図とは違う。

 きっちり等高線とか植生等が入っている本格派だ。

 これによるとグチャグチャの森がある北の谷はやがて西からくる谷と合流、東へと下っていく。


 取り敢えずこの谷筋が調査対象だ。

 ただ尾根沿いではなく谷沿いというのは歩きにくい。

 尾根沿いと比べると下草も多いし足下も悪い。

 崖や滝で切れている部分もあるから下手に下ると上るのが大変だ。

 出来るだけ尾根を通りつつ探索するべきだろう。


 そうなると問題になるのは俺の探知能力だ。

 魔法はこれでも賢者並みに使える筈。

 なのだがそういった実践的な知識や技なんてのは自動習得していなかった。

 これではチートも中途半端だ。

 とにかく俺の探知能力では尾根筋から谷間内全体を走査するなんてのは無理だ。

 厳密に言うと走査能力そのものはあるのだ。

 しかしその対象が重要なのか何だか区別がつかない。

 この前のクマ魔獣だってファナに教えてもらった位だ。


 ただ魔獣が出る場所にファナを連れて行くのもどうかと思うのだ。

 保護者としての俺が駄目出しをしている。

 ただ置いていくのもちょっと不安だ。。

 あのクマ魔獣の件以来ファナは村の人気者。

 ほとんどアイドルと化していると言ってもいい。

 やれファナちゃんににどうぞとか物持ってきたりする客が異常に増えたのだ。

 まだファナは小さい普通に遊ぶ分にはいいのだけれど、何かちょっと気になる視線の奴もいたりする。

 そんな訳で元俺の部屋、現在はファナとの寝室にある机で色々考えていた時だ。


「サクヤ様、お昼は何にしましょうか」

 ファナが部屋に入ってきた。

 そのまま俺と机の上の地図を見る。

「これは何の絵ですか。私にはちょっとわからないですけれど」

 確かにこの等高線だらけの地形図は地図には見えないよな。

 でもこれを地図だと教える事は出来ない。

 異世界の技術の産物だから。


「まあちょっとな」

「それでいつ出かけられるんですか」

 ん、ええっ!

「出かけるって言っていたっけ」

「谷間は歩きにくいから稜線上の方がいいな、とか聞こえましたけれど」

 口に出ていたようだ。

 しくじったな。でもまあいいか。


「この前のクマの魔獣、あれと同じようなのが発生していないか様子を見てこようと思ったんだ。普通はクマが魔獣になることは無いしな」

「それで一緒に連れて行ってくれるんですよね」

 さらっとそう言われてしまう。

 おいちょっと待ってくれ。

 まだ連れて行くとは決めていない。


「危ないかもしれない」

「サクヤ様がいればそう危ない事もないですよね」

 まあその通りなんだけれどさ。

「森の中なんかは私の方が慣れていますと思います」

 これもその通(以下略)。

「それに私は一緒の方がいいです」

 こら上目遣いで俺の方を見るな。


「わかった。なら明日の朝出発で、日帰りのつもりで行ってこよう」

 基本的に俺はファナには勝てない。

「なら明日はお弁当や水も用意しますね。あと出かける方向はどちらですか。場合によってはロープなんかも用意した方がいいかもしれません」

 確かにそうだよな。

「グチャグチャの森がある谷沿いに尾根を下っていくつもりだ」

「ならロープや岩登りの道具があった方がいいですね」

 うん、確かに俺よりファナの方が慣れている。

 俺はそこまで考えが及ばなかった。

 まあいざとなれば俺は飛翔魔法フライを使えるのだけれども。

 準備は入念にしておくにこしたことは無い。

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