第2章 魔獣の出現。ファナと一緒に経験値を積もう。家族は一緒!

第7話 のんびりとした季節なのに

 この世界での出来事は簡単なレポートにして現実世界の水曜日に提出している。

 今までは特に提出後も何もなかったのだが、ファナを迎えいれた事を記載した次にはメールで連絡が来ていた。

『獣人族との接点が出来た事は今後の情報収集に効果的と判断される』

との事で、基本給が1,830円アップだそうである。

 俺としてはファナが可愛いしもう万々歳という感じだ。

 ただ俺を『サクヤ様』と呼ぶのはやめて欲しい。

 お父さんと呼ばせるには実のお父さんの件があるし、お兄さんとかお兄ちゃんと呼ばせるのもどうかと思う。

 なので『サクヤさん』か呼び捨ての『サクヤ』でいいと言ったのだ。

 でもファナはこの件については引かなかった。

 結果『サクヤ様』が定着ししまっている。


 現実世界での俺は相変わらずの生活だ。

 義務的に食事を2回とり、義務的に1日1回はシャワーを浴び、あと必要以外は外に出ないで睡眠か『プルンルナ』に入っているかの生活。

 でも現実世界でも弁当の他にサラダを買う等少しは健康に気を配るようになった。

 病気でファナを向こうの世界で1人にする訳にはいかないから。

 何だかファナに夢中という気もするが実際そうだから仕方ない。

 実際ファナがいるだけで俺の病状は8割方回復してしまった気がする。


 ただひいき目でなくともファナは可愛いし、それになかなか賢い。

 わずか1月で文字が書けるようになったし、簡単な計算も出来るようになった。

 もう少ししたら掛け算九九も覚えさせよう。

 せめて小学校程度の算数は使えた方がいいだろう。

 こんな田舎の開拓村に学校など無いけれどさ。


 農業の方は好調の中半分お休み状態。

 ソラマメも苗を畑に植え替えたし大麦は2回踏んだし色々好調。

 後は鳥糞や枯草等で堆肥を作ったり干し芋チーニョを作ったり。

 それでも農繁期に比べると大分手が余る。

 乾季なので雑草もそれほど増えないし。


 うちはバリケン用の葉物の畑とか堆肥の増産等をやっているので全員通年雇用。

 でもそれは少数派だ。

 8月から9月上旬は自由な代わり給与なしなんてのが大半だ。

 なおここは南半球の低緯度地帯なのでこの季節は乾季でやや寒め。


 そんな訳で余った労働力の皆さんにとって今は狩りの季節だ。

 乾いているし下草は寒さで縮んでいるから歩きやすいしな。

 獲物はクイと呼ばれる小さな猫位あるネズミとか、ガナコとかビクーニャという鹿とラクダの中間みたいなのとかが中心だ。

 ガナコは大きめで、ピクーニャは小さめだが毛皮が柔らかくて上質。

 どれも肉が美味いのと毛が使えるのとで重宝する。

 ガナコの大物なんて捕れた時にはそれこそお祭り状態だ。

 ガナコでも毛皮はかなり高価に売れるようだし。


 ただ狩りは危険を伴う。

 メガネクマなんて猛獣もいたり、魔獣化した動物がいたりする。

 なお魔獣化とは普通の動物が環境や遺伝等で魔法を使えるようになったもの。

 例えばクイが魔獣化すると電撃を放ってきたりする。

 この電撃は運が悪ければ大の大人でも失神してしまう代物。

 ガナコの魔獣は風魔法を使って突進してきたりもする。

 正面からぶつかったら間違いなくお陀仏だ。


 こういった魔獣は往々にして食物が少なくなった乾季に人里近くまで出てくる。

 放っておくと畑を荒らされたり人に被害を及ぼしたりする訳だ。

 狩りの目的の半分くらいはこういった危険動物の駆除も兼ねている。

 運が悪いと怪我人が出たりもするから。

 そして今日がそうだった。


「旦那いますか!」

 枯葉をまとめた巨大堆肥生産場所にいた筈の頑丈野郎エリクの声だ。

 慌てた様子で扉が開かれる。

「どうした」

「ダビとホセが怪我したそうでやす。間もなく運んでくるので治療頼むそうです」

 またか。

 この村は医師も治療術士もいない。

 必然的に治療魔法が使える俺が代役をすることになるのだ。

 残念ながら俺の腕はこの前の流行風邪で色々ばれている。

 今更放っておくわけにもいかない。

 それにここの村の連中には親近感あるしな。

 色々親切だし俺の農場には無い野菜とかくれたりもするし。


「ファナ、客間に寝られる毛皮を2人分敷いておいてくれ。俺はお湯と治療具を用意しておく」

「わかりました」

 何度かこういった事態があったのでファナも要領はわかっている。

 元々ファナは賢くて物覚えもいいしな。

 今では治療の手伝いもやってくれている位だ。

 治療魔法はまだ使えないけれど知識は着々と蓄えている。

 もう少しで初歩の治療魔法なら使えそうだ。


「サクヤの旦那すみません、至急おねげえします」

 男2人が担ぎ込まれる。

 どちらもかなりの大男だ。

 丸坊主にしている30代筋肉質がホセ。

 やや細身でちょいドレッド風の髪がダビだ。

 2人とも狩りでは正面攻撃を担当する腕自慢。

 だが今回は手酷くやられている。


「ちょい大仕事になるから2人とも痛覚遮断して気絶させるぞ。ファナ、力が抜けたらお湯で患部付近を綺麗にしてくれ」

 清拭魔法で綺麗にできない事も無いがファナの実習も兼ねている。

 それにあまり俺が色々な魔法を使えるところも見せたくない。

 そんな訳で極力魔法を見せないように心掛けている。

 どっちも状態はかなり酷い。

 ホセの方は左腕が支えているから離れていない的状態。

 つまり半分以上切断されている。

 腕上部を縛って止血させていなければ出血多量で死んでいただろう。

 ダビの方は胸部分から右肩にかけて深い傷。

 更に右手がブラブラ状態だ。

 現代日本の医術ではどっちも治らない。

 しかし魔法が使えるここなら別だ。


「ホセの方からいく。まず傷口の汚れを洗い流し、それから強度レベル3の再生魔法で組織を再生させる。ちょっと絵的にきついけれどよく観察しておけ」

「はい」

 そんな感じでちぎれかけの腕の再生作業から開始だ。

 お湯で洗い流し死にかけの組織は切除、残りは強力な治療系の魔法で再生させる。

「ここで骨や筋肉、神経の場所を確認する。これを間違えたら再切断することになるからよく見ておけよ」

 ファナが頷いたのを確認。

 程よく再生したところで腕をきっちり元の通りにくっつける。

 後は治療魔法で表面を完全に治療し回復魔法をかけると完了だ。

「失血分を補うため回復魔法をやや強めにかけておこう。それじゃファナはダビの方の準備を頼む」

「はい」

 治療はなお続く。

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