第5話 目覚めたけれど何かちょっと

 ベッド脇に行こうとして思いとどまる。

 目覚めた時、見知らぬ部屋で見知らぬおっさんの顔があったらどう感じるだろう。

 俺にはあまりいい想像が出来ない。

 なのでちょっと離れ部屋の隅の椅子に腰掛ける事にする。

 でもこれでも状況は好転しないか。

 見知らぬ部屋で見知らぬおっさんがいる場所にはかわりない。

 やばいやばいどうしようか……

 そう思って動けない間に彼女は少し身動きをはじめて……

 そして目を開ける。

 2、3回目を瞬かせて、そして辺りを暫く見る。

 そして俺を見つけて視線が止まる。


「大丈夫か。調子は悪くないか」

 回復したてて調子がいい筈はない。

 なのについそう聞いてしまう。

 黙っている事に耐えられなくて。

 我ながらもっと気の利いた事は言えないだろか。

 俺なんだから言える訳は無いか。

 どっちにしろ状況は彼女にとって最悪だ。

 どう説明すればいいだろう。


「大丈夫です。それでここは何処でしょうか」

 俺よりもよっぽどしっかりした感じでそう尋ねる。

「ここはニルカカ開拓村。俺はサクヤという」

 そう言われても彼女には何が何だかわからないだろう。

 何せ意識が無い間に連れてこられたのだし。

 でも彼女にとっては聞き覚えのある単語があったようだ。


「ニルカカですか。うちの村に時々来ていたカーロスさんのいる処ですね」

 誰だカーロスというのは。

 そう思って気付く。

 村長がそんな名前だったな。

 よし、奴に説明させよう。

 全く知らない人に説明されるよりその方が信用できるだろうし。

「ちょっと待ってくれ。それじゃカーロスさんを連れてくる」

 彼女の返事を待たずに部屋の外へ出る。

 村長の家まで『健脚』を使えばすぐだ。


 そんな訳で村長に出向いてもらい、説明までしてもらった。

 流石村長。亀の甲より年の劫。

 残酷な部分を微妙にぼかしつつそれでも状況が全部わかるように説明してくれた。

「つまり村で残ったのは私1人ですか」

 結論はそうなってしまうけれど。

 でも俺が説明したらあの村の状況を思い出してパニック状態になりそうだ。

 一応薬を飲んでいるから大丈夫だとは思うけれど。


「ファナはこれからはサクヤ殿の世話になってくれ。この村も今回の流行病のおかげで儂の処を含めて余裕はあまり無いのじゃ」

「でも私は獣人です。それに今の私には何もお返しする事が出来ません。通常なら奴隷として売られても仕方ない状態だと思います」

 おいおいちょっと待った。

「そんな事を考える必要は無い。子供なんだからさ。その辺は無理しないで自分の家だと思って気にせずやってくれ」

「でも私は獣人ですし」

「関係ない。うちは俺1人だけだから色々行き届かないところもあるかもしれない。そのあたりは遠慮しないで言ってくれ。何とかする」

 どうもこの子は見かけのわりに色々達観しているというか冷めている感じだ。

 獣人は比較的早熟と聞いているけれど。

 妙に落ち着きがありすぎる。

 何か無表情な感じだし。

 顔は整っているし美人と言ってもいいけれど。


 とりあえず話題を替えよう。

「あと村長に御願いなんだが、この子に適当なサイズの服は無いかな。代価は払う」

「その辺はダビッドの店に行くのが一番早いだろうな」

 先程も出てきたがダビッドの店というのは普通の店とは違う。

 どちらかというとメ●カリとかああいった中古オークション取次に近い。

 この規模の村だから物は豊かでは無いし製作者等も揃っていない。

 だから各家の余り物を仲介したり直したりして流通させている。

 その修理交換取次担当がダビッドという訳だ。


「ベッドや布団も頼んでおいたから後で行ってみるか」

「それがいいじゃろう。何なら今から行ってみるか。うちの奥さんも連れて行けば何が必要かわかるじゃろ」

 それは大変ありがたい。

「お願いします」

 頭を下げておく。


 とにかく色々揃えて既成事実にしてしまうのが早いだろう。

 別にこの子に俺が妙な劣情を感じている訳じゃない。

 その方がこの子も安心できるだろうと思っただけだ。

 この子じゃなくて名前は確かファナだったな。

 ファナに一刻も早く新しい暮らしに慣れてもらう為に。

 それにしてもだ。

 女の子を名前呼びするのは思考の中でもちょい気恥ずかしい。

 年齢差があるのに、VRな異世界なのにさ。

 何せ俺は魔法使いだから免疫がないのだ。

 ここではモノホンの魔法使いだけれども。

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