第3話

 学園での食事は基本的に寮、または校舎内にあるらしい食堂で行われる。

 物によってはテイクアウトも受け付けてるらしいので気軽に使えそうだな。

 売店などで食材などを購入して自炊するヤツもいるらしいが少数派だろう。

 てか食材を置いてる売店とかもうスーパーとかコンビニレベルだし。学生にゃ過剰にもほど。

 食堂での注文方法は端末内のアプリからできる。受け取りは自分で足を運ばないといけないが呼び出しと案内はアプリがしてくれるらしいから大した手間じゃない。

 下手に並んで口頭での注文やらしてたら混雑するだろうしな。この辺りは素直に合理的だと思う。

「ほうほう! これはまた面白い! 自分で食事を取りに来いとはな! クハハ! あっちでは考えられんな!」

 考えられないとか言いつつ文句を言う素振りがない。むしろはしゃいでるわこの幼女様。

 見た目と話の内容からして金持ちのお嬢様的なポジションだとは思うんだがな。好奇心のが勝るのか?

「それで貴様はなにを食うのだ?」

「まだ決めてない。つか注文の前にどっか適当に座るぞ」

「フム? それもそうだな」

 適当に席を見つけて座る。

 その際にちらほらリリンに目線を送るのが何人かいたが、周りを見れば他にも契約者を連れている生徒はいるようですぐに気にならなくなった。

 意外にも俺たち以外に一緒に行動してる連中は多そうだな。

 よかった。ここでは絡まれなさそうだわ。

「それで。なにを食す?」

「……そう、だな。なににするか」

 ちゃっかり俺の隣に座ったのには触れないでおく。

 どうせまたあーだこーだ言って離れようとしないに決まってる。

 そんなことより今日の夕食のが大事なのは明白。かまってられっか。

「あ~今日は色々あって疲れたし軽めにうどんでも食うかな。トッピングは海老天で。学食だからかなり安めだし」

 軽めと言いながら揚げ物というツッコミはスルーで。

 だって画像も添付されてて旨そうだったんだよ。今この瞬間に食欲がわいたんだよ仕方ないだろ。

「で、お前は?」

「我も同じ物にする。最初からそのつもりで聞いていたのだしな。こちらの食い物もわからんし」

「あっそ」

「そっけないな。かまわんが」

「特に返す言葉がなかっただけだっての」

「言い訳せずとも良い。かまわんと言ったろう? というか気づいたのだが我が二人ぶん頼めば貴様の残高は減らぬのではないか?」

「そりゃそうだろうけど……」

 たしかにと俺も思ったんだが。他人への賄賂に手をつけるとか……。

 あぁ無理無理。怖い。このあと借金とか背負う羽目にならないとも言えないし。触れぬが吉。

「やっぱいい。自分のは自分で注文する」

「フム。そうか。ならばこれ以上は言うまい」

 ……コイツ。下がるときはちゃんと下がるよな。説明会のときもだし。

 思い返せばコイツのが筋が通ってることが多かったというか……。

 いや、全部意味があったな。先に質問してその返答がなかったときとか。金髪女に絡まれたときも一応コイツのが筋が通っていた。注意するとしても教員がするべきなのだから。

 あれ? 見た目幼女だけど実は俺より年上とか言うオチじゃないよな?

 少なくとも俺よりは頭良いけどまさか……な。

「お? もう受け取りに来いと言われているぞ? 手抜きか?」

「簡単なもん頼んだからこんなもんだ。余程凝ったもんじゃなきゃ大概すぐに用意できるはずだぞ」

「フムフム。我のところでは考えられんな。蒸すだけで無駄に時間をかけるような輩ばかりだったぞ。ウム。やはり異界はなにもかもが面白い」

「良いから早く取りに行くぞ」

「わかっている」



「どうしたものかなこれは」

「ずるる~。今度はなんだ?」

 うどんとにらめっこするゴスロリ幼女。なかなかにシュール。

 にしてもこのうどんうめぇ。海老天もできたてだし学食とは思えないわ~。今度来るときはもう少し豪勢なもん頼むかな。

「貴様の食い方を見ていたんだが。食い方がよくわからん。なぜ棒をそんなに器用に使える?」

「お前でもそういうことあるんだな。意外だわ」

 初見のはずなのに端末の使い方を教える前に適当にいじくってたしなんでも対応できると思ってたわこの幼女せいぶつ

「なんでも良いからさっさとしろよ。俺もう食い終わっちまったぞ」

「おう! ならばちょうど良い。食わせろ。ほれ。んあ~」

「……」

 なにをふざけたことを言ってるんだろうねこのクソ幼女。

「箸の使い方教えてやるから自分で食えよ。この際待っててやるから」

「そもそもその棒持ってきとらん」

「いやなんでだよっ。横に引っ付いてたんだから俺が取ってるところ見たよな!?」

「食すための道具と思わなんだ。仕方あるまいよ」

 クソ。これが文化の壁か。あ~もうめんどくさいな。

「じゃあもういいわ。取ってきてやるから待ってろ。いや箸に不慣れならフォークのが良いか」

「まぁ待て」

 立ち上がろうとすると服をつままれた。なんだよ。

「先程も言ったろう? 食わせろ。んあ~」

「……の野郎。からかってんのかテメェ」

「取りに行くのも手間だろう?」

「食わせるのも手間だわ!」

「ならば同じことよ。ほら座れ。問答をしてる方が時間の無駄だぞ」

 本当によく回る口だな! この一日でコイツに口で勝つことを諦めちゃったよ俺。

「ほれほれ。早くしろ」

「せめてそのニヤケ面やめろ。ムカつく」

「そうカリカリするな。戯れと思って付き合え」

「……はぁ」

 やっぱコイツに口で勝つの無理。口も上手いけどなにより俺自身も気が長くないから譲っちまう部分もあるし。

 ……それも見越してるのか? 考えすぎ?

「俺の箸で良いよな?」

 もういいや。考えるのがめんどくさい。さっさと食わせて帰ってシャワー浴びて寝ようそうしよう。

「かまわん。貴様の唾液ならば問題なく摂取きるぞ」

「変な言い方すんな! ほらよ。食え」

「んっ」

 麺を口に運んでやるとはむはむと唇だけで口に運んでいく。吸うのが苦手なのか?

 こっちでも海外じゃ未だに抵抗ある人もいるらしいから不思議じゃないけど。

「あむっ。れろ。美味いな。あむあむ」

 だからといって舌を絡ませて食うのは如何なものか! つか器用だな! 舌を軸にうどんがとぐろ巻いてるぞ! そっちのが絶対難しいだろ!

「……っ」

 この距離だと体が見えないからこう必然的に顔しか見えないわけで……。

「れろれろ……」

 え、エロい……。

 元々ものすごい美人というか。見た目だけなら絶世の幼女と言っても差し支えないレベル。

 その顔だけしか見えないとなると体のサイズとか忘れてクるものがある。

 髪は細く光が反射して髪そのものが輝いてるようにも見える。汁が薄紅の唇についてさらに艶っぽさが際立つ。化粧はしてないように思えるが、それでも長いまつ毛がつり気味だが大きい目を強調する。

 黄金の瞳は黄水晶シトリンみたいに透き通っていて吸い込まれそうな……。

 あれ? なんで目が見えるんだろう。今コイツは食事中で目線がこっちにあるはずは……。

「なにを見ている?」

「……あ、いや、なんでもない」

「ハハン? 貴様も我に興味があるようだな」

「そ、そんなんじゃない。変な食い方だったからたまたま目に入っただけだっつの。良いからさっさと食えよ」

「それもそうだな」

「あ、おい」

 ひょいっと俺から箸と丼を取り上げるとズルズル吸いはしないものの器用に箸で麺を掴んでいやがるぞどういうことだ。まさかとは思うが。

「お前ぇ……最初から箸使えたんじゃねぇだろうな?」

「あむあむ。ん? そんなことはないぞ。実際にこれは初めて見たし、持ってこなかったのも故意ではない。間近で貴様の使ってるところを見て覚えた。音を立ててコレを吸い上げるのは必要性を感じないのでやらんが」

「見て覚えたって……」

 も、もうコイツでは驚かない。驚かないぞ。最初から全てが規格外のことばかりしてたんだ今さら驚くことはない。

 つかさっきは見てもわからないって言ってなかった? ねぇ言ってなかった?

 いやでも位置的に手の動きが見えなかったとかそういう……。

「ウム! なかなかに満足! こちらの食事は良いな。ちゃんと娯楽として成り立っている」

 いつの間にか食い終えてる。半分くらいは食べさせたけどそれにしても早すぎるだろ。もう箸マスターしましたかこの野郎。

「娯楽て。飯食わなきゃ死ぬだろ」

「我は食わずとも死なん。さすがに呼吸を止めればいずれは死ぬとは思うが……貴様の寿命よりは長く止めてられるぞ。試すか?」

「いらんわ。てか飯もいらない。息もしばらくしなくて生きてられるって燃費良すぎないかお前の体。化物め」

「クハハ。どんな生物も効率を求めるものだろう? 我は貴様らよりも先に進んでるだけのことよ。時が経てば人畜生でもたどり着くだろうさ」

 何億年後……。いや何兆年後レベルじゃないかそれ。先に絶滅してそうな気がする。それか地球の資源の枯渇しての別の星への移住。

「飯も食ったことだし行くか。買い物をするのだろう?」

「……そうだな」

 うん。やっぱ無駄だよ無駄。コイツについて考えることほど時間の無駄って言葉が似合う事を俺は知らない。

「……そういえば」

「ウム? どうした?」

「いや、なんでもない」

「……? そうか?」

 黄水晶シトリンの宝石言葉って友愛と潔白とたしか――。


 ――希望だったっけ。



「ここが売店……だよな?」

 思ったよりも狭い。まるで大昔の画像にあった駄菓子屋みたいな狭さ。よく見るとレジの奥に畳と丸いテーブルまである。休憩室かな? つかレトロ過ぎるだろ良い趣味にもほどがある。

 まぁ駄菓子屋っぽさの通り菓子類や飲み物はあるみたいだしどんな様相でも良いけどさ。

「いらっしゃい」

 突然めちゃめちゃ渋いおじさまボイスで話しかけられた。ただ、振り向いても誰もいない。空耳? じゃないよな?

「下だ下」

 リリンに言われて下を見るとなにかいた。なにかはそこにたしかにいた。

「新入生かい? ここはおやつ用の売店だから自炊用の食材はもう少し先のエリアだが。大丈夫かい?」

「あ、えっと、はい。おやつ買いに来ました」

「そうかね? じゃあ品出しをしてるから決まったら呼んでくれ。ここは私しかいなくてね。品出しもレジも私しかできないんだ」

 そう言うとちょちょこ歩きながら商品を補充している。

 そう、ちょちょこ歩きながら。なにせのこの渋い声の持ち主――。

「……う~ん。これはあまり人気が無さそうだし、仕入れを見直した方が良いかな? あ、言い忘れてたけど万引きはしちゃダメだよ。厳罰だし絶対バレるようにできてるから」

「は、はい。ってか学園から結構な額もらってるし、する必要もないですよ」

「それがそうでもなくてね。遊びでやる子もいれば調子に乗って豪遊して手を出す子もいる。またく。親はどんな教育をしてるんだろうね? 子の罪の大半はちゃんと教えてこなかった親の怠慢によるものだよ」

「ハハ。そうッスね」

 この如何にもなナイスダンディな渋いお髭が似合いそうなおじさま。

 ぬいぐるみである。

 2.5頭身の猫? いや虎模様だし虎かな? のぬいぐるみが可愛らしくちょこちょこ歩いて仕事してる!

 声としゃべる内容と見た目のギャップが激しすぎて人生で一番混乱してるかもしれない!

「お! なんだこれは!? 黒いぞ! 糞か!?」

「え、なに!? って、チョコだよ! お前目を離した好きに物色するのは良いけどとんでもねぇこと言ってんじゃねぇよ!」

 お前もお前で綺麗な面に新しい物にワクワクして爛々と目を輝かせた少年のごとく天真爛漫な表情から糞とか言うな! ギャップ!

「でも黒いぞ!? では焦げてるのか!? わざわざ消し炭にした死体でも食うのか!?」

「黒い=う○こみたいに言うな! お前の顔で下品な言葉聞きたくねぇよ! そして焦げてもねぇよ炭でもねぇよ! 調べろよ!」

「ウム。それもそうだな。つい興奮してしまい失念していた」

 思わず声を荒げてしまったが、その甲斐あってか端末を取り出して調べ始める。

 でも仕方ないと思うんだ。

 誰も美幼女の口から汚い言葉は聞きたくないと思う。俺はそう信じてる。

「はっはっは。賑やかだね」

「あ、す、すみません。うるさくて」

「いやいや。かまわないよ。新入生の割りにもう契約者と仲良くできていて感心していたくらいさ」

「ど、どうも」

 仲良くというかお互いにフランクなだけだと思います。

 お互いに気をつかってないという意味ならそうなんだけど。

 とりあえずさっさと買う物決めるか。

 リリンはリリンで知らないものは片っ端から調べて気に入ったものは手に取ってるみたいだし。ほっといて良いだろ。

「さ、て、と。なにがあるか……」

 結構品揃え良いな。小さい頃にしか見たことのないマイナーなやつまである。懐かしくてちょっとテンション上がるなぁ~。

 まぁでも結局買うのはポテチとミニクリスピードーナツとコーヒー牛乳なんだけどな。あ、朝はブラック飲みたいし今度インスタントは買いに行くか。

 あいつの方は決まったかな?

「おい、リリ……ン」

 そこには包装済みのお菓子の山がありました。なんかの童話かよ。なにしてんのお前。

「ウム。前が見えん」

 だろうな。

「欲張りすぎだろ。絞れよ」

「仕方あるまい。好奇心には逆らえんのだ」

 好奇心よりもお菓子大好きな子供が欲張ってなんでもかんでも選んでたらの最終形にしか見えません。

 でも幼女だからあながち間違った姿ではないのか。

「貴様のカネ……金か? は使わんし問題はないだろう? 少しばかり場所は取ってしまうが」

「……まぁいい。自分で運んで自分で買うなら文句ねぇよ。部屋は広いし」

「ウム! では、買う? か?」

「会計?」

「恐らくソレだ」

「あ、そ。すみません。お会計お願いします」

「はいよ。もう少し待ってくれ。すぐに終わる」

「気づいたのだが貴様我以外と言葉遣い違うよな。我には荒いし粗い」

「気のせい気のせい。そう言うお前は誰とでも変わらねぇよな」

「変える必要があるか? 我のが強いのであれば仮に怒らせて敵対しても殺せば良いだけだろう?」

 ヤダなにこの幼女超物騒。

 たしかに自分のが強ければってのはわかるけども。

 そりゃ世界を滅ぼせる幼女様だもんな。気遣いなんて持ち合わせてないよね僕が悪かったよ。

「よいしょ」

 ぴょんっと跳んでレジの向こうにある椅子に捕まりよじ登る売店のおじさん。可愛い。

「……ふぅ。おやおや。そちらのお嬢さんは随分と食いしん坊なようだね。いや、失敬。女性レディには些か失礼な物言いだった」

「クハハ。かまわん。事実コイツと比べたら多いのは自覚してる。それにこのなりでレディと言い張るつもりはない。元の世界の平均からでも我は小柄だったからな」

 その平均は年齢別なのかそれとも年齢種族問わず全ての生態系を含めてなのかで変わるんだが?

 さすがの俺でも直接年齢聞くのは躊躇うからもっとわかりやすく言えよ。(横暴)

 ともかく。会計は済ませたし用はもうないかな。

 会計の間小さい手が必死にお菓子の山をまさぐってるのがなんとも可愛かった。

 ギャップ萌えってあんまり感じたことなかったけど、このおじさんなら有りだわ。

「それじゃこれで失礼します」

「食い物が尽きたらまた来る」

「あぁ。また来てくれ。歓迎しようお客様」

 渋い声なのに可愛いおててを振っています。おっさん可愛い。

 案外学園のマスコット的存在なのかも。男の俺でさえ可愛さに癒されたくらいだし。あり得るな。

 癒されたくなったらまた来よう。

 いや普通におやつの補充で来るな。うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る