黒き影は破滅を刻む ーー時計と魔石溢れる地下都市ボロンの管理人ーー

オキアミ

Prologue: 幼き頃の夢

「むかしむかしあるところに……」



 それは、私がまだ幼い頃……



 祖父が、古い屋根裏部屋でよく本を読み聞かせてくれた。あの部屋は狭くて埃が多かったけど、私と祖父の秘密の部屋だった。壁には元商人だった祖父が外国で買った六分機や地図などの航海道具や本を沢山置いてあった。市場で魚や野菜を売る人の様に、少し低くてしゃがれた声が特徴的で、私の耳にはそれが心地よく聞こえた。いつも同じ口調で始めた物語は、壮大な夢の世界への導きだった。


 ロウソクの灯りの下、淡いオレンジ色に光る眼鏡。おじいさんの髭が頰に時々触れ、くすぐったい。


 まだ魔法や文字とも無縁だった私に語りかけてくれた聖剣とドラゴンの話。冒険の話。そして、隣の国、ボロンの巨大な洞窟オブディアンの話。


 その名前が由来したオブシディアンでできた洞窟は、巨大迷宮とも言われた場所。魔獣が住み着き、地盤も脆い。魔獣が沢山住みついていたが、王などの権力者は次々と人々を他国からも送った。それは、魔石や黄金に輝く宝が沢山埋まっている世界。神々からの祝福を受けた者でも、無事戻ってきた者は少ない。



 それでも、辿り着けた者はこう語る。



「あのオブディアンの奥深くに竜が守る白い門がある。だが、そこは選ばれた者だけを通す。中は白い霧が濃く、外からは見えない」


 ただし、その先には――洞窟の中にも関わらず――星が浮かぶ空や光り輝く森があった。そこに魔石と共に生きた人型の種族、フェリル族が住んでいた



 洞窟の魔素にも耐性があり魔力が強く、他はマスク無しでは一日も保たないと言われている奥深い場所に住んでいた。彼らの眼は透き通る月長石げっちょうせきの水色とミスリルに似た銀色の髪。



 私は、その本に描かれた世界に魅了された。



「もう十回以上は読んだのにまだ読むのかい、アンジェラ?」


 私が読んでもらう為におじいさんに本を渡すと私の頭を撫でながら苦笑いした。シワだらけの手は、爪が殆ど無く、皮膚も所々剥がれていた。ペンを持つ手ではなかった。荷物を運ぶ商人の手だった。




 すると、私は大きく息を吸って蔓延の笑顔で答えた。




「わたし、おおきくなったらここにいく!」

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