第4話 アルコール呑みのオヤジ

 鞄の中から取り出したのは……ウイスキー。蓋を開け、瓶にそのまま口を付ける。一口で今までの寒さを忘れるくらい暖まる。


 その時、勝間田の目の前にパッと現れたのは……あの子だ。決して忘れることの出来ない、初恋のあの子。

 だが、ウイスキーをストレートで呑んだ時特有の灼けるような喉越し、そして体が熱くなる感覚が薄れるにつれ、彼女もスーッと消えていく。


 余りのおかしな感覚にしばらくボーッとしていたが、ハッと我に返り再びウイスキーを口にすると、今度は彼女手作りの料理を列車の中で2人仲良く食べている場面が浮かぶ……

 

 そうだった、彼女は料理や裁縫が得意だけど、少々……いや、かなりお節介で俺をいつも弟か子どものように甘やかす。その態度が次第に重荷になり……


 体が冷えるにつれ、今回も目の前から彼女はスーッと消えていく……


 勝間田は三度みたびウイスキーを口にする。今度は満開の桜の下、泣いている彼女の姿……そうだ、これは俺から彼女に別れを告げた日。お節介で俺を子ども扱いする態度が耐え難く、都会への進学を理由に別れることを告げたあの時……彼女は泣きながらも俺の進学を自分のことのように喜んでくれたっけ。


 そこで彼はあることに気が付いた。俺が求めていた彼女とは……今回フラれた保育士さん、お世話好きでいつも俺を包み込むような優しさで接してくれて……


 勝間田は既にウイスキーを瓶の半分ほど呑んでいたにもかかわらず、みるみる酔いが冷めていく感覚を覚えた。


 マッチ売りの少女がマッチを擦って思い出が甦るように、今の俺は酒を煽るごとに思い出が返ってくるらしい。そのことに気が付いた彼は心の底から

 

 もう一度あの子に会いたい!


 会って謝りたい!!


 そして……許されるなら、あの子とずっと一緒にいたい!!!


 と願い、呑み過ぎでズキズキする頭をフル回転させ考える……マッチ売りの少女はたしか、最後に現れたおばあちゃんが消えないように、二度と別れることがないよう全てのマッチを燃やしたっけ……なら、今の俺にはこれしか無い!


 勝間田が意を決して、手に持ったウイスキーの残りを一気に飲み干すと……


 灼けるような喉越しとともに、既に呑み過ぎていた彼の体が悲鳴をあげ、頭痛は酷くなり、冷汗は止まらず脈も速くなる……

 当たり前だが、このペースの飲酒は急性アルコール中毒で救急搬送される以外選択肢は無い、はず……そう言えば、マッチ売りの少女は最後、おばあちゃんと一緒に天国へ……だった……よう……な……


「結局、俺が……いちばん、バカ……」


 そのままベンチに倒れ込む。もちろん、彼女の姿は現れず、ただただ厳しい現実に打ちひしがれ、万感の思いとは全く異なる、単に胃液がこみあげてくる最低最悪な状態とともに、今度こそ眠気とは違う意識の遠退きを感じ……ベンチに倒れ込んだ。

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