入り口

瀬田あやかは島根県平田基地所属事務官である。島根県周辺地域での徴兵の手続き対応を務めている。出身は島根ではなく京都府舞鶴市。京都、瀬田家は自衛隊とその関係者を多く排出してきた。幼い頃からよく面倒を見てくれた二人の兄が高校卒業後空軍及び陸軍に進路を進めるのを見て育ったあやかは当然のように軍へと志願した。異国召喚イコクショウカン以降、戦線の拡大と流血の増大は凄まじかった。核攻撃の後も無傷であった異国はその後も益々攻撃を活発にし、噂ではたった五人の異国人が機甲師団をも壊滅させたという。にわかにには信じられないことだが、核攻撃も効かなかったように近代兵器に対して異国兵は結界またはバリアのようなものを展開し攻撃をすべからく無効化したといわれている。そんな中、陸軍侍隊が編成されることになった。ある種の刀は敵兵の魔法へ対する効果があることが発見され、魔法へ対する抵抗力のある刀、退魔刀タイマトウを用いる部隊として侍隊が編成されたのである。戦闘機を稲妻でもって撃ち落とし、戦車をも焼き払う敵兵に対し、刀一本でもって突撃するという悲壮さは計り知れない。が、あやかはこの侍隊を徴兵するための窓口業務を行っていた。幸先のある若者が徴兵される度に、彼の者の身を案じるのだがこの部隊の帰還率を極めて低いことをあやかは知っていた。また退魔刀を扱う適正のある人間も限られており、彼らが侍隊を辞退することは日本が戦線を一歩後退させるに等しい。彼らが任務から逃げ出せば、彼らの愛すべき家族やあやかの家族も街ごと炭にされるかもしれなかった。あやかは日々徴兵された若者を笑顔で送り出すしかなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る